□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第304回配信分2010年02月22日発行 事業承継成功の秘訣シリーズその6 〜可愛い子には複数の旅をさせる〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●たいていの創業者、もしくは現在何代目かの社長はご子息をそのまますぐに 自分の会社に入れないで、どこかへ武者修行に就職させることが多い。あるい は、学校を卒業時点で将来会社を継ぐか、継がないか分からないので、自分の 好きな進路へ行かす。いずれにしても、後継者が理由のいかんを問わず、他人 のメシを食うことはいいことだ。それは、将来得がたい貴重な経験、体験を積 むことになる。筆者は基本的には、賛成だ。ただし、その方法、やり方には一 考を要する。 ●まず、同じ業界で自分の会社より格段に大きな企業に就職さす。または、就 職を依頼する。これは間違いではない。同じ業界の企業に一定期間勤務するこ とは、あとで本当に役に立つ。これ以上の勉強はない。なので、同じ業界の別 の企業を経験することは、本当に将来の役に立つ。しかし、規模が大きすぎる と、少々問題が発生する。それは、企業規模の違いがあまりに大きいと、価値 観が全く異なることだ。企業文化も違えば、企業風土も異なる。あまりにレベ ルが違うと参考にならない。 ●業界の実情、商慣習、仕事の仕方などは大いに勉強になる。大きな企業で は、人材も豊富だし、将来にわたって師事できる先輩もいるだろう。巡り合わ せがよければ、終生の先生となるべき大先輩に仕えることも可能だ。一生めぐ り合えないような人格者に会うこともできるし、今後仕事で大いに役に立つ人 脈もできる。いいことが多い。だが、落とし穴があるのだ。 <次には中小企業で苦労する> ●しかし、大企業病ということばがあるように、企業規模のあまりに違う企業 に永く勤めると、それが常識、世間の常識、自分の常識になる。それが、今後 非常に障害になることもあるし、錯覚する。これが普通だと思ってしまう。し かし、世間の中小企業は失礼ながら、そのレベルにまで行かない企業が大半か もしれない。それを無視して、物差しの基準を自分で作ってしまう。特に、学 校を卒業して、すぐに大企業に入ると、他の世間を知らないから、それがすべ てと思ってしまう。これを終生引きずることになる。 ●筆者のお薦めは、大企業はそこそこにして、自分が将来継ぐであろう会社の 規模と同じくらいの違う業界の中小企業に一度身を置いてみる。それが一番勉 強になる。これは、場合によっては自分で就職を探す。面接を受けてみる。同 じ業界の大企業に入るときは、受け入れる側もある程度目的は分かる。しか し、次のトラバーユの際には誰も助けてくれない。そこを自分で切り開く。そ れくらいの冒険ができて、結果が出せないなら、とても将来を託すことはおぼ つかない。とにかく、自分で次を用意する。 ●そして、同じくらいの規模の中小企業で5年間くらい下積みの苦労をする。 商店の大きなくらいの規模でもいい。できれば、ワンマン社長のところがい い。理不尽な勤務体系、ルールがあるのかないのかわからない職場環境。レベ ルもまちまちの従業員。そんなに恵まれない給与水準。そして少ないボーナ ス。不規則な勤務時間。なにより、めちゃくちゃな社長のマネジメント。こう いう少々不規則バウンドのゴロが常時飛んでくるチームでやってみる。非常に 学ぶところが多い。 <従業員や社員の気持ちが分かるか> ●そういうレベルの企業で5年くらい頑張る。そして30歳前後で親父の会社に 戻ってくる。辞めるときに引き止められて、1年や2年かかる場合もある。言 い出してから、1年半かかったケースもある。最低半年は覚悟しないといけな い。また、それくらい引き止めれるような成績を残して移籍しないといけな い。辞めます、ああそうか、ではそれは非常に悲しいケースだ。立つ鳥後を濁 さずだが、惜しまれて去らないといけない。それくらいの結果を残す気概で取 り組まないと、結果はでない。 ●規模の小さな中小企業で学ぶことは、業務の内容より人間学だ。職場の活性 化のヒントだ。どういうことで従業員は、社員はモティベーションが上がるの か、下がるのか。ワンマン社長のどこにみんな惹かれて、どこにみんな嫌気が さすのか。給料に対してはどういう感覚をもって、受け止めているのか。職場 の信頼感、連帯感はどういう風に醸成されるのか。中途採用の社員が、従業員 が職場に入ってきたときに迎え方は、どうすればいいのか。人のマネジメント に役立つ参考事例が満載だ。 ●給料をいずれは払う立場になる人は、中小企業で一度は給料をもらう立場を 経験するべきだ。これは大企業では分からない。潰れる心配のない大企業で、 毎月毎月きちんと給料が払われて、ボーナスもそれなりに出る。しかし、中小 企業はそうはいかない。給料の遅配はないかもしれないが、ボーナスは出るか 出ないか分からない。ないときも多いかもしれない。そんなとき、従業員は会 社の経営をどう評価し、どう判断しているのだろうか。従業員が転職の気持ち を抱くきっかけは何か。そこを体得しないといけない。 <複数の経験は将来必ず役に立つ> ●純粋培養も悪くないが、複数の企業を経験することも、大いに将来役に立 つ。それも企業規模、業界の異なる経験が将来生きてくる。そういう意味で は、日本社会は特殊な業界や世界を除いて、あまり転職経験を肯定しない。転 職がいくつあっても構わないが、然るべく理由があり、明確な目的を持った転 職であれば構わない。むしろ、それをいい肥やし、経験として前向きに取り込 めばいい。同じ業界の大企業の在籍した経験だけでは、少々心細い。いろいろ な世界を見ることは、将来必ず役に立つ。 ●筆者の限られた経験でも、規模の小さな企業での経験が今でも役に立ってい る。いいことも、いやなことも、悪いことも、いろいろな局面、場面で経験 し、それなりの反省をしてきたことが、いま大いに役に立っている。大企業で の成功体験より、規模の小さな企業での挫折体験のほうがはるかに学ぶところ が多かった。経験しようと思っても、二度とできない体験もした。大いに学ぶ ことが多かった。そういう経験は、規模の小さな企業でこそ、経験、体験でき る。大企業の大規模プロジェクトでは、決して分からない。 ●しかし、最後、その貴重な経験、体験を活かすも殺すも、自分次第なのだ。 賢者は他人からも学べるが、愚者は自分からしか学べないとは、誰かの有名な 言葉だが、まさに言いえて真理だと思う。特に、成功体験より若いうちは、な るべく困難な課題に取り組んで、大いに失敗をして、挫折の経験を積むこと だ。大企業で、メンバーの一員で成功しそうなプロジェクトに参画して、期待 通りの結果が出るより、わけのわからない中小企業のプロジェクトで、何でも 自分でやらないといけなかった経験のほうが、はるかに役立つ。しかし、最後 は自分次第だが。