□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第305回配信分2010年03月01日発行 事業承継成功の秘訣シリーズその7(最終回) 〜困難な仕事を成功させてからバトンタッチを〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●まず、後継者が会社に戻ってきたとき、あるいは最初から在籍していると き、どちらでも構わないが、一定の年齢に到達したからといって、はいそうで すかと立場を禅譲するのは、はなはだよくない。後継者には、後継者足るべき 存在であることを、きちんと内外に示すべきだ。内外とは、社内、社外の関係 者、とりわけ周囲の社員、取引先などを指す。ここで間違うのは、対外的なこ とに気を取られ、社内の方に目が行かないことだ。外部の利害関係者より、ま ず足元の関係者から認知を得ないといけない。 ●社内の社員が多かれ少なかれ、誰もがご子息が在籍していれば、この人が次 の経営者になるだろうとは、誰もが容易に想像がつく。いや、つかないほうが おかしい。そこを現在の経営者は勘違いする。別に何もなくても、時期がくれ ばそのまますっと譲ればいいと。しかし、社員がみんなそのことをハッピーと 思っているかは、意外と分からない。必ずしも、諸手を挙げて大賛成かという と、そうでもないと考えていたほうがいい。表面的には仕方ないと割り切れて も、必ずしも肯定していないと思うほうが無難だ。 ●だからといって、従業員の誰かが代わりにそのポストを受け持てるかという と、それはほとんど皆無に等しい。細かいことは分からないにしても、かなり お金が窮屈そうだったり、資金繰りが苦しいことくらいは、分かるだろう。必 然的に金融機関からの借入金もあるだろう。借入金があれば、連帯保証もする し、担保の提供、提出も求められる。自分の財産を提供してでも事業を継続し ないといけない。そんなことを、簡単に社員が後継者になり、ほいほいとでき ることではない。 <難しい課題へチャレンジ> ●しからば、一族、同族が後継者になるのは、中小企業、つまり非上場の同族 会社ならいたしかたないことなのだ。これは理屈ではよくわかる。しかし、人 間は感情の塊の動物なのだ。なかなか、すぱっと割り切れるかといえば、そう でもない。その、もやもやを解消するには、業績で結果を残すしかない。後継 者の人は、いずれ経営を承継するという前提で、一度は困難な課題に挑戦し、 それなりの結果を残して、初めて内外から認知されるはずだ。困難な課題と は、将来に向けて会社が必ず通過しいないといけない課題だ。 ●技術開発、得意先の開拓、新製品の開発、新しい市場への展開、海外への進 出、多くの社員の採用教育、新しい大きなプロジェクト・・・・。あげればき りがないが。業種業態、業界が異なるから、何が適当かという答えはないが、 とにかく後継者として結果を残して認知される課題に、まず取り組むことが必 要だ。現在の社長も、そういう機会をセットし、与えないといけない。新しい 課題にチャレンジするには、それなりの準備も必要だ。特に、現在在籍する古 参の役員や番頭さん、上級管理職、現場リーダーなどの協力なくしては達成は あり得ない。 ●後継者の人が一人でできるものではない。まず、この人間的な協力が大事だ し、実際にはなかなか難しい。よくあるのは、後継者が社内の人間は使いにく いから、外部から自分の言うことを聞いてくれる人材をスカウトしてきたりす る。あるいは、自分の知己の外部の知人に協力を求める。しかし、それはかな りうまくやらないと反発を招く材料になってしまう。できるだけ、現在の社内 のマンパワーに協力を求める。その際に、どれくらいの人間がこちらを向いて くれるかということも、一種の試金石なのだ。 <とにかく人望を得ること> ●とかく人望がないと、社内の協力は得られない。いつも、高いところから下 へものを言うような状態だと協力は難しい。目線を同じラインに揃え、同じ苦 労をして、同じ課題と悩みを共有する。ときには、古参の役員や年齢が上の社 員と、一杯飲みに行くことも必要だ。いつも社内で同じ作業服を着て、同じ会 話をしても、なかなか人間関係は深まらない。ときには、アルコールの助けを 借りて、今までにない関係を築くことも、非常に重要だ。そして、できる範囲 で自分の弱みもさらけ出す勇気も要る。 ●困難な課題に取り組むには、まずチーム編成をする。誰に、何をやっても らって、どういう方向で、いつまでに、何を達成するのか。達成したあとに、 どういう絵が描けるのか。そういうビジョンや目標を示して、メンバーを鼓舞 し、指揮する。当然、リーダーシップを発揮しないとできない。遠慮もあるだ ろうが、そこは払拭しないといけない。現在の仕事もやりながら、新しい課題 にチャレンジというケースも多い。中小企業は人材がいないから、本当に大変 だ。しかし、社員はその大変な状況を黙って、じっと見ている。 ●協力的な人もいるだろうが、あえて沈黙している人もいる。さあ、お手並み 拝見と思っている人もいるだろう。そういう周囲の視線に耐えて、それなりの 結果を出さないといけない。それなりとは、100%の成功でなくてもいい。誰 もが、まあこれならというレベルでいい。もちろん100点満点がいいのは決 まっているが、そこまでは求めない。とにかく、後継者としてのデビュー戦な のだから。戦国時代の武将で言えば、初陣の戦いだ。たいてい、そういうとき は戦陣を切る。そして、後見役が付く。 <一度は挫折を経験する> ●失敗した、うまくいかなかったときが難しい。ハッピーなケースはいくらで もあとのアクションが考えられるが、不幸な結果に終わることもあるだろう。 そのときは、潔く結果を認めて、しかるべき対応をする。今後事業を任され て、やっていくには、順調なことばかりではない。むしろ、うなくいかないほ うが多い。障害があることが多い。そういうマイナスの局面で、どうさばき、 どう対処し、どう切り抜けるか。被害を最小限にとどめるか。これは成功より 難しいかもしれない。撤退の決断も勇気が要る。 ●大きな結果を残したアスリートは、一度や二度の挫折なんてものではなく、 幾度となくピンチを通り過ぎている。ケガもあればコーチとの決別、離反。年 齢のカベ。ライバルの出現。思いもかけないアクシデントなどだ。挫折を一度 経験し、そこから這い上がったことのある人間は、本当に強くなる。メンタル がしっかりして、体の中心に一本体幹が通る。少々の風では揺らがない。若い うちに、一度大きな挫折を経験し、それを何とか自力で乗り越えると、非常に 力が付く。立ち上がれないような挫折では困るが、その経験は絶対に生きる。 ●周囲の人間も、転んだあとの立ち上がりを見ている。困難な状況を、どう切 り開くのか。自力でどう対処したのか。被害を最小限にとどめ、次の展望を描 けたのか。そういうアクションを全員が見ている。これは相当なプレッシャー だ。結論として、後継者には、本当に承継するまでに最低一度は困難な課題に チャレンジして、リーダーの地位を与え、自分の責任、自分の裁量で運営を任 せ、結果を出すことを経験さす。それが、実は社長が帝王学を授けるまでもな く、一番の生きた教材なのだ。