□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第306回配信分2010年03月08日発行 中小企業再生の共通項シリーズ(その1) 〜なんといっても経営トップの不退転の決意〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●再生などと大上段に構えなくても、業績が悪化しなんとか抜け出そうとして いる企業がほとんどだろう。いま、楽勝と左団扇であおいでいる企業は、ほと んどないと思う。よしんばあったとしても、それは例外。大半の中小企業は、 依然として低い受注のラインに張り付き、依然として資金繰りは非常に厳し い。借りては返し、返しては借りる。必然的に借入金は増えていく。気がつけ ば、何本もの借入があって、返済条件もばらばら。年間の売上金額と同じくら い、いやそれ以上の借入金になっている。 ●理由はいろいろとあろうが、借金は借金。借りたものは返さないといけな い。特殊なケースを除いて、債務免除は有り得ないと思っていた方がいい。平 成の徳政令など、考えても無意味だ。従って、年商くらいの借入金があると、 金利を払ったあとの利益と減価償却が返済原資であるが、業績が芳しくない と、ほとんど借入金の返済に充当できる原資は、残っていない。しかし、企業 は継続しないといけない。継続しないと意味がない。一過性で終われば潔い が、一度生まれた子供を簡単に餓死させてはいけない。 ●では、どうすればこのあり地獄のような借金生活から抜け出せるのだろう か。それには、答えはひとつしかない。経営者が本当に不退転の決意で、再生 を心底やろうとしているのか。しかも、自分が主語になってやり切る決意と覚 悟があるのか。その意思を明確に内外に示さないといけない。従業員しかり、 取引先しかり、顧客や市場しかり、そして金融機関しかり。全員を説得、納得 さすのは難しいが、とにかく十分に説明責任を果たすことだ。敵前逃亡はいけ ないし、もってのほかだ。 <まず経営者の覚悟を示す> ●よくあるのだが、再生の事業計画を外部の我々が作成するものだと勘違いさ れている企業経営者の方も多い。錯覚ではなく、本気でそう思っておられる。 ときとしてびっくりするが、ご本人は至って真面目だ。自分が、自分たちが取 り組もうとする姿勢が、意欲が見られない。意欲のないところには、結果が出 るわけがない。意思なくして、結果なし。至極当然の理屈だが、当事者になる と見えなくなるらしい。なにせ、場合によっては過去の自分たちを全面否定す ることにもなりかねないからだ。 ●再生を考えるなら、過去からの窮境の原因をまず振り返らないといけない。 ところが、過去は過去という経営者の方が多い。市場が悪くなった、大口の取 引先が倒産した、政府の規制緩和があった、小泉が悪かった・・・・、などな ど。ほとんどが他人のせいだ。業績の悪化を他人のせいにしている間は、企業 の再生は有り得ない。はては、従業員が悪いとか、辞めた役員が悪いとか、最 後は身内の悪口になる。しかし、そういう経営環境であることを認識して、 ずっと対策を取らなかったのは誰か。 ●後悔をすることは、もう時間が戻らないからしなくてもいいが、反省はしっ かりする。その反省から、対策が出てくるはずだ。はずだが、これがなかなか 出てこない。今までと同じやり方、同じ役員、同じ組織、同じマインドで、さ あ売上を伸ばす計画を考えられる。しかし、今までうまくいかなかったのに、 どうして同じ体制で、同じ経営陣で、同じ組織で業績が伸びるのか。固定費を 削減するために、従業員を解雇し人数を減らすという。それは、本末転倒して いないか。自分の足下から、まず改める。 <売上を伸ばすにはまずカネが要る> ●一番多いのは、まず売上を伸ばす計画を持参される。売上を伸ばすのはいい が、まず選考して費用はかかるし、投資のために資金は要りませんか?とお聞 きすると、たいていそうだとなる。いま、借入返済の資金も足りないのに、ど うするのか。売上を伸ばすには、仕入も先行して発生するし、広告宣伝も要る だろう。ホームページも修正しないといけないし、多少の在庫も持たないとい けないだろう。営業のスタッフも増やさないといけないかもしれない。なに せ、前向きに歩くときは、先にカネが要る。 ●体験的には理解していても、ピンチになると判断が鈍る、間違う。ベンチか らの監督のサインが迷うと、選手は右往左往する。まずは、少し先の目標を定 め、3年先、5年先の会社の姿を描き、そこに近づくにはどうするのか。どう いう会社にするのか、したいのか。資産の規模は、売上の規模は、会社の規模 は、そもそも何をする会社になるのか。そういう基本的なことをほっておい て、目先、目先のことだけをやってきていないか。目先の目標にむけて頑張る のはまず従業員で、トップはその先を見ないといけない。 ●先を見るには自分の立ち位置を少し上にずらす。2階に上がらないと、少し 先は見えない。従業員と気持ちは同じでも、目線は先を見る。それが、なかな かできない。出来ていないことを自覚していればいいが、自覚も乏しいときが ある。そこを気づかせてあげることも、仕事だと思っている。あとは、対策の 優先順位だ。だいたい、これが間違っている。どうでもいいことが先になり、 大事なことがあとになる。将棋で言う「手順前後」というやつだ。やはり、定 石の手順を知っておかないといけない。 <全部わが事と思うこと> ●まず、原因のすべては自分の事と思えるか。結果のすべても、自分の事と思 えるか。先代の社長のせいだ、金融機関のせいだ、バブルの崩壊のせいだ、な どと言っている間は、決してよくならない。他人のせいだと考えている間は、 おそらく企業の再生は有り得ない。再生機構なら経営者を変えてやるだろう が、中小企業はそうはいかない。その社長のタレント、キャラ、知名度、信用 で経営できている場合が多い。そう簡単に交代できないし、借金の保証が重く のしかかる。 ●相当深刻に過去を反省し、将来の仮説を立て、それに向かって邁進する体制 を作る。一人ではできないから、社内の体制を変える。再生に向かってエネル ギーを凝縮できる組織にする。過去の成功体験を捨てて、いまの、将来の環境 の変化に対応できる柔軟な体制に変えていく。変えるに当っては、勇気がいる だろうが、そこを不退転の決意でリーダーシップを取る。いや、取らないとい けない。具合の悪いことは、部下の役員に任すようでは、人心は掌握できな い。まず、自分が先頭に立つ覚悟を固める。 ●再生、再生と簡単に言うが、ことはそう簡単ではない。表面的な再生は、傷 口に薬を塗り、絆創膏を張っただけだ。完全に治療は出来ていない。出来てい ないから、またしばらくしたら傷口が化膿する。うみが出てくる。腐ってく る。そうなると、また大きなエネルギーを使って手術をしないといけなくな る。それなら、ここで一気に手術をして患部を切り落とすくらいの大手術をす るべきだ。それくらいの覚悟がないと、中小企業の再生は本当に難しい。自ら の患部を自ら切り落とす。まずは、経営者の覚悟次第だ。