□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第307回配信分2010年03月15日発行 中小企業再生の共通項シリーズ(その2) 〜過去の総括と反省から企業統治機構を作る〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●過去を総括し、反省することは現在の経営者にとっては、あまり嬉しいもの ではないだろう。先代の社長が残した負の遺産の場合もあるし、現在の経営者 になってからの責任分担分もあるだろう。いずれにしても、過去の通知簿の成 績の悪い期間のことを、いまさらひっくり返してことさら粗だてるのは、あま り嬉しくない。そうなると、突っ込みも弱くなるし、反省点もぼやけてくる。 しかし、ここが明確にならないと、打つ手が異なる。ピント外の的を一生懸命 射る努力をしても、それは空しい。 ●再生計画書では「窮境の原因」という表現を使うこともある。要するに困っ た原因は何かということだ。ここで大事なことは、表面的な原因と真の原因と は、たいてい違うということだ。見えている原因と、見えていない潜在要素と でも言うか、本当の原因はなかなか見えないものだ。しかし、表面的な原因は たいていの人には理解されているし、数字でも見えている。一番大事なのは、 数字で表しにくい深層に潜んでいる原因を、まずは明確にすることだ。そし て、それをみんなの共通認識にする。 ●真の原因のよくあるケースとしては、表面的には大きな投資を間違った判断 をしたということだが、実際には代表者の独断で大きな投資が決定されたこと が、本当の原因なのだ。まして、取締役会や幹部会議ではほとんど議論してい ない。議論しても分からないというのが、本当のところだろうが、一切議論や 会議での討議なしに、大事な案件が決まっていく。トップダウンで意思決定が 早いと、一瞬見えるがことは必ずしもそうではない。誰にも相談せず、機関に も諮らず、重要な案件が決まっていく。 <本当の原因はなかなか分からない> ●本当の原因がなかなか分からない理由のひとつは、その当事者が現在まだ経 営者だからだ。自分の口からは、なかなか本当の原因は自分の独善体制ですと は、出てこない。人間それほど謙虚だったら、もっと早く自然に治癒してい る。それに気がつかないから、ことは複雑骨折してくる。現在の経営者が、そ の経営者でいる限り、本当の原因にたどり着くのは、なかなか至難の業だ。い くら時間をかけて本人にヒアリングしても分からない。周辺の役員さんに聞く と、すぐに分かるが。 ●本当の原因が分からない次の理由は、そのときの当事者がもう在籍していな いケースだ。当時の経営者、当事者はもうどこにいるのかも分からないから、 当時の状況をつぶさに知る由もない。現在のご子息、一族では正確なことは分 からない。欠席裁判ではないが、当時のことを知る人はいないから、いくらで も事実と異なることを一生懸命追いかけているかもしれない。また、当時のか らかなり年月が経っているから、もう記憶も薄れ、資料は分散し、かすかな記 憶をたどるしかない場合が多い。 ●さらに、ことを複雑にするのは、まだ当時の利害関係者が在籍していたり、 もちろん存命だったりする。また、一族の中での不協和音や軋みが原因でもあ る。そうなると、客観的に、かつ、正確な事実に基づく判断やジャッジはでき ない。限りなく、出来にくい。当時の経営を取り巻く歴史的な背景もある。筆 者も、かなり昔のことを言われても、正直わからない。経営者が早く亡くなら れて、相続対策の失敗が経営困窮の原因になった例も多い。無理に不動産資産 を借入金で購入するケースだ。 <しかし原因が分からないと対策が打てない> ●原因の推定が難しい場合でも、限りなく努力して特定するように努める。も ちろん、ひとつの原因ではない場合もある。しかし、概ねマネジメントの体 制、経営管理の体制の不備であることが多い。統治機能が機能していない。会 議が形骸化している。重要な意思決定が密室で行われる。そして、幹部にはそ の結果だけが伝わる。以前には、その不備をカバーしていた一族の役員が在籍 していたが、現在のトップとの折り合いが悪く、いつしか組織を離れてしまっ た。別れ際には、たいがい揉め事が起こっている。 ●おおむね、退職金の支払いで揉めたり、株式の持ち出しや買取で多額の現金 が必要になっている。そこで多額の借入金が発生したりしている。また、そう いう管理面の重鎮がいなくなり、社内の規律が緩み、統治機能が働かず、体制 ががたがたになった。仕方ないから、外部から誰か招聘してきたが、これも トップのマネジメントに愛想を尽かし、長続きしない。こういうケースでは、 ここ数年の決算書を見ていても、何も分からない。しかし、ここまでいかなく ても実際の現場ではこういうケースが多い。 ●この場合の対策は、売上やキャッシュフローの対策もさることながら、この 会社の企業統治の仕組みをしっかり構築することだ。現在の経営者は保証の問 題などがあるから外せないが、執行役に相当しっかりした人物を抜擢しないと 再生は難しい。自立機能が生きていればいいが、なかなかスピードも上がらな いし、自立機能が稼動しない。しかし、こういうケースに類似した中小企業 が、実はかなり多いのだ。それくらい、企業がこの厳しい環境を乗り切り、継 続していくのは、相当な努力が必要だ。 <透明性を高め初心に戻る> ●だが、ここで踏ん張らないとこの企業の未来はない。経営者が初心に帰り、 そもそも当社は何をする会社なのか、何を目的に経営するのかという、極めて 基本的な命題に立ち返り、いい機会だからしっかり考え直す。売上や利益を目 先の目標にしないといけないが、それはあくまでも結果だ。顧客に、市場に、 世間に、社会に評価されて、初めて売上が上がり、収益が立つ。そして、実際 のお金が入ってくる。顧客からの、市場からの評価が、売上そのものなのだ。 売上が減少するのは、評価が下がっているからだ。 ●中小企業は株式を上場していないから、企業統治の透明性が極めて低い。家 族で、一族で、内部で、アクションを起こしても、なかなか外部には分からな い。まして、従業員や社員には、もっと分からない。その分からないところ で、極めて重要な意思決定が、いかにも短絡的に内部事情で行われる。そし て、それがボディーブローのように、あとでじわじわ効いてくる。なかなか回 復がままならない中で、一昨年のような大きな激震が走ると、もう再起不能に なる。そこまで行くと立ち上がれない。 ●出来る限り、社内の透明性を高めることだ。少なくとも、小さい会社でも大 きな意思決定のときには、複数のメンバーで異なる意見を集める。トップの提 案に全員賛成というのは、極めて危険だ。そんなことは、通常有り得ないと考 えたほうがいい。トップの提案に逆らえないから、反対意見を言いにくいか ら、強圧的な提案だから、もう結論が決まっている事後承認だから、いろいろ な理由で反対意見が出ないなら、それは独裁に近い。それでは、最後は迷走す る。再生のためには、まず企業統治体制を作ることが先決だ。