□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第309回配信分2010年03月29日発行 中小企業再生の共通項シリーズ(その4) 〜損益の検証と同時にBSの検証が必要〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●弊社が土曜日に開催している「経営塾」での一番人気の講座は「決算書を検 証する」「損益と収支」「資産と負債の内容を理解する」などの講座だ。もう 開催してから7期4年経っているが、いつも同じだ。いかに分かっているよう で、分かっていないかよく分かる。特に、決算書はご存知のように表紙の次に は貸借対照表があるが、実はほとんど方がそこは見ていない。さっと見たふり をして、実は次の損益計算書が大事なのだとばかりに、さっと次へ進む。そし て、損益計算書はじっくり眺める。 ●1年間の業績、成績の集大成だから分からないわけでもないが、売上と利益 は一生懸命見る。そして次のページの一般管理費の内容を一瞥して、何々が多 いとか少ないとかのコメントをして終わりとなってしまう。あまりとことん突 き詰めて内容を検証しないし、反省も総括もない。予算や計画との乖離の原因 に遡及することもなければ、その真因に迫る元気もない。もっとも、決算書が できたときは、既に新しい年度が2ヶ月経過していて、もう済んだ話しだと言 わんばかりの状態になっている。 ●野球で言えば3回の表くらい経過して、前の試合のプロ野球ニュースの評論 家の毒舌を聞くようなものだ。これでは気の抜けたビールを飲んでいるような ものだ。税務上致し方ないのだろうが、現実の経営は生きているので、これで は過去を振り返り反省をし、未来に備えるといっても、現実の対応はそうはな らない。かくて、申告書に印鑑を押す段になってから、なぜこんなに税金を納 めるのかと、ひと悶着が起こる。そして、税金を納めたくないから、いろいろ とテクニックを駆使することになる。正しくない結果になる。 <中小企業の決算書はどこかおかしい> ●いままで数多くの会社の企業の数字を見てきたが、ほとんどの中小企業の決 算書はどこか正しくない。税法上は正しいかもしれないが、実態を表していな いことが多い。特に、損益より資産の内容に不備や齟齬が多い。経営者の方 も、おおよそ感覚的には理解されているが、さて本当はどんなもんだという と、実は正確には分かっていない。一番多い現実との乖離は、流動資産特に売 掛金、棚卸資産、在庫、仕掛品、短期貸付金、仮払金、未収金などだ。こう書 くとぴんと来る経営者の方は、まだ救われる。 ●これでもぴんと来ない方も多くいらっしゃる。経理やお金のことは、自分は よく分からんということで、経理任せ、奥さん任せ、他人任せという方も多 い。自分は作業服を着て現場で機械の前で格闘しているときが一番輝いている と、本気で思っていらっしゃる。実はそれが真実なのだが、本当はそれでは困 るのだ。ご自分がされなくてもいいが、そのときはきちんとそれが分かるス タッフを配置されないといけない。番頭格、家老格がいないといけない。お 金、特に資金の収支が分かっていないと経営にならない。 ●戻って、特に認識のずれが多いのは、売掛金と棚卸資産全部を含む在庫関係 だ。ご自分の会社の売掛金の絶対値をご存じない経営者の方も多い。その分手 元資金が減っていっているわけだが、それもあまり感じていない。その状態で どんどん売上を伸ばそうとする計画を平気で考え、それで頑張るとおっしゃ る。現実に手元資金が枯渇している状態では、なかなか売上のアップにつなが る対策を打つのは難しい。売上を伸ばすには、先行して資金が要るのだ。そこ を分かっていない。 <売上を伸ばすと同時にBSの改善を> ●貸借対照表の左の欄の一番下は「総資産」となっている。これが会社の、企 業の全体重だ。メタボになっていないか。ウエイトオーバーになっていない か。BMI値はいくらか。まず、とくと良く眺めることだ。バランスは、ご自分 の会社の売上とのバランスで見ればいい。総資産が5億円の会社で、年間の売 上が10億円であれば、総資産は年間2回転している。6ヶ月で1回資産が回っ ている勘定になる。これが、その業種で適切かどうかを考えればいい。自分と ころの業種で、そんな長い回転期間は有り得ないかもしれない。 ●小売業で消耗品や食料品などを扱う業種なら、もっと回転率はいいはずだ。 ということは、あまり資産がないはずだ。売掛金も原材料も、仕掛品も在庫も 少ないはずだ。いや、少なくないと商売にならないはずだ。お金が回転しない から。それが、おかしいことに年間2回転くらいしかしないという数字であれ ば、資産過剰なのだ。体重が重た過ぎる。これでは走れない。2リットルの ペットボトルに水を入れて腰の周りに5本ぶらさげてマラソンが走れるだろう か。どう考えても走れない。企業経営はゴールのないマラソンを走るのだ。 ●製造業で資産が多いのは、事情によっては分からないでもない。製造業は基 本的にモノづくりだから、土地があり建物が建ち機械が入り原材料を買い込 み、そして初めて製品が製造される。当然のことながら資産は多い。また、多 くないとできない業種だ。筆者が10年間過ごした三菱レイヨン豊橋工場。3000 人の従業員、何万坪の広大な土地。そして400キロリットルのタンク群。おび ただしい機械、そして動力源であるボイラーやクーリングタワー。気が遠くな るくらいの資金投下をして設備を揃える。やっと製品ができる。 <資産と負債のバランスの改善を> ●その莫大な資産を揃えるのに、ほとんどが借入金で賄うとなると、この返済 が重たいことになる。まだ、製品を製造するのに必要な機械などの資産であれ ば、今後付加価値を生む製品が製造できるという期待もある。しかし、単に本 社ビルや建物に投資をしても、果たしてどれくらい付加価値を生むか、非常に 疑問であることが多い。そして、それが全額借入金であると、これは大変だ。 ご自分の自宅を住宅ローンで購入する場合と同じだ。頭金が全くなくて、果た して20年間の売上が保証できるか。 ●かくいう筆者も同族役員として在籍していた出版社で、本社ビルを15億円で 購入する案件のときの役員会で反対ができなかった。これは、今でも痛恨の極 みだが、当時バブルの絶頂期の雰囲気はそうではなかった。ものを持たないの がバカのように言われて、金融機関もどんどん資金提供をしてくれた。その15 億円は全額私募債の発行ということで調達したが、それがつまづきの初めだっ た。しかし、当時はそれに気が付かなかった。しばらくして、収支がアンバラ ンスになって初めて気が付いた。 ●事前に察知するのは難しいが、資金収支が厳しくなってくるときは、ほとん どが体重オーバーなのだ。皮下脂肪が付きすぎ、コレステロールがたまりす ぎ、血糖値が高い。これはすべて余分な贅肉がどこかについている。その余分 な贅肉が自分の決断で削ぎ落とせるか。それはなかなか難しい。まして、自分 で言い出した案件なら、余計に難しい。誰もそれを批判しないし、反対しな い。しかし、止めることを決断することが経営者としての一番大きな仕事だ。 あと10kg体重を落とせば、本当に身軽になる企業は多いのだが。