□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第311回配信分2010年04月12日発行 中小企業再生の共通項シリーズ(その6) 〜誰がいつまでに何をするのかを明確に〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●特に再生対象の企業に限らないが、立派な計画を作成しても、現実に実行が できて、それなりの期待された結果が出ることは、なかなか正直難しいこと だ。不可能ではないが、本当にかなり努力しないと出来ないケースが多い。能 書きは立派に出来ていても、さて、いざ具体的に実行段階になると、あれも難 しい、これも足りない、ということが多く、期待された、いや達成しないとい けない目標をクリアーすることは、確率的には低いというケースが多いのだ。 計画段階では予想しなかったことも、まま起こるものだ。 ●計画を作成するときには、何とかこの数字をクリアーしようと、あれもこれ も盛り込むことが多い。売上の増加、新規販売チャネルの開発、新製品の販売 開始、仕入原価の低減、工場の製造原価の削減、販売費を中心とする固定費の 削減、人件費のカットなど、それこそ多くの施策が盛り込まれている。比較的 容易に取り組めるものもあるが、必ずしも簡単ではないものもある。特に、売 上の数字や変動費の削減などは、相手のあることだから、当方の勝手ではでき ない。それと、時間がかかることが多い。 ●なにせ業績が低迷していて、資金繰りに困窮している企業が多いから、金融 機関との交渉材料にどうしても返済原資がきちんと捻出できるという仮定から 入ることになる。また、1年先か2年先にそういう状態になるように頑張ると いう計画になる。過去は、いろいろな経過や理由で業績が低迷した。それを、 現在の環境下で挽回し、かつ業績を上向きに持ってくるのだから、以前より数 倍のエネルギーが必要だ。簡単に実現できる内容ではない。相当な覚悟と、実 行体制が必要となる。 <計画を実行する現実の体制を作る> ●中小企業の場合は、社員や従業員の人数もそんなに多くない。筆者が関わる 企業だと、だいたい数十名まで。100名を超える企業はあまりない。売上で10 億円くらいまで。事業所の数も、多くて2箇所。たいてい、1箇所のことが多 い。なので、組織的にはそんなに難しくないように感じるが、これがなかなか やっかいなのだ。年齢の高い勤続年数の長い社員の方も多い。過去をいろいろ 知っていることは悪いことではないが、その成功体験が邪魔になることが多 い。どうしても人間はそれから脱出できない。 ●現在の組織もほとんど体制の変更や刷新などやっていないから、硬直化して いる。どうせ、いつも同じだという気分が蔓延している。いろいろと言ったけ ど、結局何も変わらない、業績だけがどんどん低迷していく。そういう企業 が、では今日これから気分一新して、心を入れ替えて頑張りますというのは、 本当にできるか?となる。そして、そのためにやらないといけない課題は、山 のようにある。中堅や大企業なら、そういう新しい組織を社内に作り、各部署 から相当強力なメンバーを集めてプロジェクトチームを編成する。 ●そして、そのプロジェクトチームのトップに社長か、それに代わるくらいの 権力のある人材を充てる。そして、プロジェクトがキックオフする。という運 びになるのだが、どっこい中小企業ではそうはいかない。プロジェクトチーム などといっても、所詮参加できるメンバーは限られている。みんな、何らかの 日常業務に就いている。そこを空けるわけにはいかない。まして、再生のため の改善計画の項目は、実は山のようにたくさんある。始まる前から、実は全員 食傷気味なのだ。以前からの繰り返しの項目も多い。 <工程表を作り誰がいつまでに何を> ●以前、政治の世界でマニフェストという新語が出てきたときにも、この「工 程表」という言葉が一時流行した。つまり、今回のタイトルである、「誰が、 いつまでに、何を」という課題とその実行のタイムスケジュールを記載したも のを作成する。これが、本当に真剣に作成するとなると、簡単ではない。ま ず、誰がが一番問題になる。最悪のシナリオは、全部の項目に同じ名前が記載 される。つまり、それだけ人がいないのだ。あるいは、全部社長の名前にな る。本当にそれで、実行ができるのだろうか? ●つまり、計画の作成時点では、おぼろげなイメージで考えていたものが、こ ういう具体的な作業段階になると、より一層現実的なものとして計画しないと いけない。ところが、これがなかなかできない。人が、人材がいないことに、 この時点で気が付く。次に、いつまでにだが、この「期限を切る」ということ が、最も重要なのだ。期限を切る際には、その課題の重要度、緊急度、難易 度、貢献度などを考慮し、優先順位を決め、そして期限を切る。実際、この期 限が守られないことが多い。日頃から、そういう習慣がない。 ●期限のない仕事は、仕事とは言わない。そういう風土がない企業に、いきな りこういう理屈を持ち込んでも難しい。最後に、何をだが、これは本来明確な はずだ。しかし、当初は明確でも、段々時間が進行し、現実のことが現実に なってくると、次第に課題が変容してくる。ここまではどうも無理なようだか ら、ここくらいでやめておこうとか、ここくらいで妥協しようとか。そういう 現実的な環境や課題の困難さから、達成目標が変わることが多い。果たしてそ れでいいのかは分からないが、とにかく当初の課題とはずれてくる。 <常に工程表をモニタリングする> ●最後に、最も大事なことは、工程表ができたから、これがその通り実行され るわけではないから、この進捗を常にウォッチして軌道修正をしないといけな い。その役目を誰がやるのか。本来は、プロジェクトマネジャーだが、中小企 業は社長自らがやらないといけない。そして、その進捗を図る中で、現実的な 対応や、さらなる改善案を盛り込んでいかないといけない。おそらく、売上も 増加するような計画になっていることが多いから、日常の売上のダウンは大き な計画との乖離の要因にもなる。 ●従来からの日常のことをやりながら、さらに改善の計画を進める。今まで業 績が良くなかった企業が、気分一新新たな出発をして、従来以上の業績を挙げ るようになる。しかも、固定費の削減という痛みを伴いながら、その辛いしん どい計画をひたすら、こつこつやっていくことになる。誰が、いつまでに、何 をやるのかを決めて、それを粛々と実行する。場合によっては周囲から批判も 浴びることもあるだろう。痛烈なしっぺ返しを食うこともあるだろう。しか し、会社の企業の再建のためには、やらざるを得ない。 ●周囲のみんなが協力してくれるとは限らない。普通は、かなりの痛みを伴う ことが多い。しかし、一番最初に決めた、「誰が、いつまでに、何を」という 再生の工程表をみんなが守り、達成のために努力し、それ以上の結果を出さな いといけない。そして、責任者のもとにいつもその情報が集まり、当初の計画 とのずれはないか、現実にきちんとできているか、結果がちゃんと出ている か、などをチェックしないといけない。再生ができない企業は、実はこの現実 の計画の運用と実行ができていない。それは、当初に「誰が、いつまでに、何 を」を明確に決めないからだ。