□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第312回配信分2010年04月19日発行 中小企業再生の共通項シリーズ(その7) 〜成長には継続的な投資が必要〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●ロシアの文豪トルストイの作品で1877年に発表された大作アンナ・カレーニ ナ。主人公アンナの恋愛がこの作品の主題だが、この小説の冒頭には有名なフ レーズがある。曰く、「幸福な家庭は皆同じように似ているが、不幸な家庭は それぞれにその不幸の様を異にしているものだ。」ご存知の方も多いかと思う が、これは企業経営の実態にも、そのままあてはまる。経済学の言葉に、「ア ンナ・カレーニナ現象」という言葉があるそうだが、この幸福な家庭の共通因 子を解析すればいい。そして、実行すればいい。 ●成長軌道に乗っている企業は、それぞれいろいろな業種業態があるが、ほと んどが共通の因子を持っているということだ。逆に、成長軌道に乗れずにずる ずると業績が悪化している企業の理由や背景は、非常にそれぞれ複雑だ。なか なか理解するのに時間もかかるし、時系列的な経過を紐解くにも、エネルギー が要る。不幸の様相は、それぞれ大きく異なる。名将野村前楽天監督の、「負 けに不思議の負けなし。勝ちに不思議の勝ちあり。」と逆の意味で、非常に興 味深い。 ●業績悪化の不幸の様相はそれぞれ異なるが、唯一共通なのは時代環境の変化 に対応しきれなかったことだ。あるいは、それに気が付くのに遅かった。また は、過去の成功体験の呪縛から抜け出せなかった。変化を嫌って、今までのや り方に固執した。要するに、変わる勇気と気概がなかったのだろう。最近は、 世の中はそういう企業の存続を許さない。多少は時間的に許されても、少し長 い時間、10年くらい経過すると確実に環境変化に対応できなかった企業の地盤 沈下が激しくなる。 <地盤沈下した原因は投資の間違い> ●業績が好調な時代に浮かれて、将来への前向きな投資を怠った。投資はして いたが、間違ったものに投資した。あるいは、その時点では正しい選択と思っ ていたが、時代が変わったので足枷になった。投資の失敗、ツケが重たくなっ た。借入金で投資しているから、成長が鈍ると途端に借入金の返済が滞る。借 入金返済の前提が、売上の伸張であり、利益の増大が前提であった。要する に、市場が、パイが拡大する前提で投資計画が作成され、その前提で費用も計 算されている。 ●筆者が役員で在籍した出版社も、平成の初期に本社ビルの購入に14億円の投 資をした。しかも、全額私募債発行で購入した。ときはバブルの絶頂期。金融 機関から投資しないと損みたいに言われて、あまり考えずに投資した。もちろ ん役員会では形式的に議論はしたが。当時、私募債が発行できたのだから、相 当業績が良かったのは事実だ。しかし出版社が本社ビルを新しく購入すると、 その後ろくなことはないと業界では常々言われていたのに、それを無視した。 自分だけは違うと思っていた。 ●ソフトの蓄積が会社の生命線なのに、器に投資をした。しかも、虎の子の私 募債という切り札を使って、乾坤一擲の勝負に出たみたいなものだ。当時の稚 拙な経営陣では、それくらいの判断しか出来なかったのだから、いたし方な い。「れば、たら」は言いたくないが、こういう大きな経営判断を間違うと、 あとの結果は悲惨極まりない。案の定、その後数年して、この出版社は経営が 立ち行かなくなり、特別清算になった。現実には倒産した。300人の社員の未 来を摘んでしまった。責任は大きい。 <未来に向かって継続的に投資をする> ●製造業であろうが、サービス業であろうが、企業の成長には継続的な投資が 必要だ。なぜなら、時間の経過と共に経営環境が変わるからだ。これが一定な ら、同じ機械を使い、同じ原料を使い、同じ方法で、同じように、同じ製品を 製造していればいい。それで、何とか利益は出るはずだ。ところが、最近の市 場はこれを許さない。それも、急激に環境が変わる。予測がなかなか難しい。 製品のライフサイクルも短い。新製品の好調も、比較的短命で終わることが多 い。新製品の開発も追いつかない。 ●しかし、それに文句を言っても始まらない。天にツバするようなものだ。こ こで、経営のジャッジを間違うと、違う方向に投資をすることになる。急激に 大きな金額の投資になると、多額の借入金になってしまうから、継続的に一定 に近い金額を投資していく。何も、固定資産に対する投資が投資だけではな い。サービス業なら人材に投資する。教育にかけるエネルギーや時間に投資す る。それは、現在の税法では費用になるだろうから、償却ができないが、確実 に将来に向けた投資と考えられる。 ●ITやシステムに対する投資も同じだ。思い立って、どかーんと投資をするの は、体制が整っていなければ無用の長物に帰する場合が多い。社員のITレベル が低いのに、高価なシステムを導入する。システムを使いこなせない可能性が 高いのに、何とかなると思う。経営陣のITに対する理解が足りないのに、外部 から聞いた情報だけで自社のIT水準の低さを認識できていない。新しいマシン を導入しても、勝手に製品ができるわけではない。それを駆使して、付加価値 の高い製品を生み出すのは、人材なのだ。 <どういう方針で何に投資を集中するか> ●細かい小さな費用には意外と最後まで固執する経営陣も、二桁くらい金額が 上がると途端に分からなくなることも多い。数十万円くらいの投資案件が、中 小企業では一番よく揉める。数千万円規模になると、二桁違うからぴんと来な い。そうなると、あまり議論もなく何となく、何となく決まってしまうことに なる危険性がある。事業規模からして、これくらいの金額なら、喧々諤々議論 しないといけないのだが、役員会でもほとんど議論のないまま、規定の路線と いうことで、結論がもう出ている。 ●投資の決定には、もちろん収益性や採算も大事だが、その投資が自社の将来 と経営環境の変化に対応可能か、そこを真剣にジャッジしないといけない。ど うしても、やりたい担当者は回収期間を短く考える。期待利益を多くに見積も る。それは、担当者レベルではそうだろうが、経営の判断はそれより一段レベ ルが上で判断しないといけない。市場における自社のポジション。製品のライ フサイクル。3年後、5年後の自社のあるべき姿。経営ビジョンが明確か。他 社との競合に勝てるか。 ●将来の研究開発にかけるお金も考えておかないといけない。新製品の開発、 その体制、人員、設備などにも、相当なお金が必要になるだろう。その継続し た投資ができるくらいのキャッシュを、常に稼ぐような運営をしないと企業価 値はどんどん毀損する。幸福な家庭の共通の因子は、こういう正しい判断を正 しく実行できる仕組みを組織の中に培養しているからだ。これがないから、急 にそれを作ることは難しい。毎日、毎日の正しいことの積み重ねが、幸福な家 庭の原点なのだろう。