□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第319回配信分2010年06月07日発行 幹部と「握る」大事さを再度意識する 〜早めに動かないと「握る」時間がない〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●先週のメールマガジンで、事業計画をしっかり幹部と「握る」というテーマ で書いたら、非常に多くの方から感想や同意のメールをいただいた。正直、少 し驚いた。中には、最近新年度になり予算や計画を作成したときに、全く同じ ことがあって、なかなか時間がなくて幹部と「握れず」、見切り発車となり非 常に反省しいてるという、真摯な内容のメールもいただいた。この幹部と「握 る」というのは、成岡が最後に在籍したベンチャー企業でよく言ったことばな のだ。現実にそういうことがなかなかできなかったのが反省点であり、実感 だ。 ●当時のこの企業は、非常に若い幹部社員が多く在籍し、トップも40歳台と若 かったこともあって、多くの課題を設定するときに、いかに中間管理職やその 上位クラスの幹部社員と、「意思疎通」を図り共通の課題認識のイメージを持 つかということが、非常に重要だった。つまり、その幹部の下位のクラスにま た多くの若い社員が在籍し、その若い社員が実際の会社の日々の活動や活力の 源泉なのだ。この若い社員たちのやる気を鼓舞し、組織を活性化するために は、幹部とトップがいかに「握る」かが決定的に重要なのだ。 ●そう考えると、「握る」という言葉の響きは別にして、非常に大事なことだ ということが、よく理解できる。問題は、理解はできても行動が伴わないこと だ。理解できたことが、そのまま行動に移り、その結果がうまく出るというこ とは、むしろ確率的には小さいと思っていたほうがいい。最終的には、イチ ローの打率くらいだと腹をくくっていたほうがいい。ビジネスの現場とは、そ れくらいのものだ。計画し、実行したことがすべてうまくいくなどというの は、そうであるに越したことはないが、あまり期待しないほうがいい。 <握るにはまず時間を作ること> ●さて、この「幹部と握る」ということが、なぜなかなかうまくできないかと いう最大の理由は、時間がうまく調整できないということだ。予算や事業計画 作成の段階になると、年度末を向いて非常にばたばたした局面になる。当年の 計画は達成しないといけない、次年度の計画は握らないといけない。そんな重 複したことを、限られた時間でやらないといけない。普通、次年度の計画を考 えるのは、たいていの中小企業はぎりぎりになってからだ。来年度のことなど そっちのけで、当年の帳尻合わせに奔走している。 ●翻って、国の予算の決まり方を考えると、非常に早くから作業に取り掛か る。夏ごろに概算要求を決定し、秋ごろには本格的に作業を開始し、年末には 来期の予算案を決定する。それを翌年の通常国会で審議する。そして、それで も政治力のバランスから、3月末の年度末ぎりぎりに予算が決定する。それを 横で見ながら、各都道府県、市町村長の予算が同時進行で進む。結構ロングラ ンの作業だが、一般の企業ではここまでのロングランの作業はなかなか難し い。しかし、難しいからといっておざなりの作業で終わってしまうと、それは 非常に後に尾を引く。 ●そして、最後時間がなくて、どたばたの計画決定となる。そして、中途半端 で決まった予算や計画が現場に下りてくる。みんなは白けるという構図に陥 る。そうなると、結果は最悪だ。これを避けるには、相当前から周到な準備が 必要だ。何も決算のタイミングに合わす必要はない。世の中の動きや、その企 業のビジネス周期に合わせて決定すればいい。時間的に言えば、だいたい3ヶ 月前から準備を始めれば、おおよそ間に合うというイメージが持てるのではな いだろうか。準備段取りが重要なのだ。 <まずトップが大きな方針を出す> ●まず、役員会やトップの段階で来期、来年度の事業計画を考える。これの ベースになるのは、おそらく過去に決定した中期計画があるはずだ。多少の修 正は必要だろうが、この中期計画をベースに来年度の計画の骨子を固める。こ れは相当詳細に議論する必要があるだろう。なにせ、会社の将来を決める投資 や技術開発、人材採用などのベースが決まるのだから。ここで基本路線を間違 うと、とんでもないことになる。そこで、一度仮に決定した基本路線を役員ク ラスから幹部クラスにおろして、現場に近いレベルで再度検討し、いろいろな 角度から揉んでみる。 ●ここで、具体的な問題点や課題が出てくるはずだ。これを仔細にやらない と、計画は形骸化し、おそらく実行できない事業計画や予算が一人歩きすこと になる。これが一番避けなければいけないことだ。新年度が開始して、いきな り現実と計画が大きく狂う最大の要因が、ここにある。トップの方針と現場を 預かる幹部との間で、とことん揉んだ内容を今度は末端の各自に下ろすことに なる。ここで、日常レベルの課題に落とし込む。落とし込めるまで、ここでも なるべく説明に時間をかけ、何回か真剣に討議する。 ●ここでいったん現場レベルで討議した内容を、再度上に挙げて計画の問題点 をつぶす。あるいはつぶしながら、その計画が達成できるかを検証する。場合 によっては、当初想定した売上や利益を修正しないといけない。これは、たい がい下方修正となる場合が多い。トップはご機嫌が悪くなるから、幹部は誰も これを言い出せない。そうなると、トップのご機嫌を伺った計画や予算とな る。ここまで十分に時間をかけて、情報のキャッチボールをして、全員が納得 するのは難しいが、おおかたの合意が形成できた事業計画が出来て、初めて実 行可能と言えるだろう。 <トップと幹部全員で相互に理解共有する> ●もうひとつ大事なことは、幹部クラスは各部門でのトップと事業部の責任者 が「握った」内容を相互に理解、認識しておく必要がある。営業部門は営業部 門で決めることだが、営業部門で幹部とトップが「握った」内容は、幹部であ れば必ず全員が知っておく必要がある。この共通認識がないと、部門ごとのば らばらな内容のパッチワークになる。1枚1枚の布はきれいだが、ばらばらに 並べると全く異なるデザインのものになる。不幸なことには、各自各部門が決 して悪いわけではない。むしろ一生懸命やっている。 ●それをまとめ切れなかったトップの責任のほうが大きい。企業は、組織は全 体最適を図らないといけないのだが、部分最適を優先することになる。官庁の 縦割り行政を批判するくらいなら、自社の縦割り行政がないか再度点検する。 かくして最低1回のキャッチボールをやって、ようやく計画の骨子が固まり、 現場と意思疎通ができた計画がおおよそ決まることになる。かなり時間がかか ると思われるが、このプロセスをきっちりやれば、それは末端まで社員一人一 人が課題に対して、最初から燃えてチャレンジすることができる。 ●少なくとも、自分達が関わって決めた計画であれば、やる気も最初から異な る。トップはその時間を当初から見ておかないといけない。土曜日も日曜日も 関係なく、やらないといけないことはやらないといけない。だから、年間の計 画に当初からこの時間やスケジュールを決めておく。現場の都合に振り回され ることもあるだろうが、年度初めからこの作業を組み込んでおく。現実的に は、なかなかそこまでの準備段取りができないだろう。しかし、未完成でもい いから今年度から始めることだ。今はできないから、やらないというのは間違 いだ。