□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第323回配信分2010年07月05日発行 WCサッカー岡田ジャパン快進撃要因分析 〜開き直った強さか、抜群の団結力か〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●仕事柄どうしてもスポーツの結果を日常のマネジメントの仕事になぞらえて 見てしまう。これは職業病のようなものだろう。昨年のWBCの野球。そして今 回のWCサッカー岡田ジャパン。結果はともかくとして、その過程などを見てい ると、スポーツとビジネスの違いはあるが、マネジメントという点で非常に参 考になることが多い。野球は監督がある程度直接試合をマネジメントできる が、サッカーは始まるとほとんど監督は試合をマネジメントできない。それく らい、サッカーの監督というポジションは難しい。 ●試合中にできることはベンチの前で大きな声で叫ぶことか、それとも選手交 代で監督の意向を反映することくらいしかできない。非常に試合のマネジメン トに対しては微力だし、いや無力と言ってもいいくらいだ。だから、試合当日 よりもその準備の過程でのいろいろな采配や戦略が重要視されるのだ。これは 野球と大きく異なる点だ。ラグビーも似ているところがある。アメリカンフッ トボールは、サインプレーも多いから監督(ヘッドコーチ)の戦略、采配が大 きくものを言う。 ●さて、今回の岡田ジャパンだが、長い長い過程を経て今回のベスト16にたど り着いた。この結果をよくやったと見る人と、まだまだできたという人と、い ろいろだろう。成岡の見解は、非常に健闘した。サッカーの世界のレベルは、 ものすごく高く、とてつもなくハイレベルだ。普通の国際マッチは親善試合と いう意味もあり、本気でやっていない。このWCだけは国の威信をかけて、本気 の戦いをする。世界に散っているハイレベルのプロ達が、母国に帰って母国の チームのために必死で戦う。そこのベスト16は褒めていい。 <ベテランから若手のチームに切替えた> ●事前のテストマッチで4連敗した。この結果を受けて、自分で進退伺いを口 にしたほどだった。あれは正直まずかったと思うが、それくらい追い詰められ ていた。自分で監督が進退を口にすることなど、本来は有り得ない。しかし、 あの時点ではどうしようもなかった。直前の指揮官の交代など、誰が考えても 有り得ない。そこで、結果を恐れず決断した。失うものは何もないという土壇 場の意思決定で、選手を若手に切り替える決断をした。これが大きな要因と なった。中村俊介をレギュラーから外した。 ●中村も30歳を迎えて、もう力の衰えは見えていた。ヨーロッパから日本に戻 り、このWCにかけていたことも事実だ。そんな背景があったから、テストマッ チではレギュラーから外せなかった。中村がピッチにいると、どうしても中村 に頼るシーンが目立つ。それが悪循環を生む。そんなシーンが目立って4連敗 の結果になった。そこで監督は中村を外す決断をした。これはなかなかできな いことだ。特に高額の報酬を払っている外人選手などを外せなくて失敗する野 球のチームも多い。 ●会社でもベテランが要職を占めていると安定感はあるが、新しいことがなか なか始まらない。ベテランは過去にこその存在価値があるので、どうしても過 去の成功体験を大事にする。しかし、それは「そのときの環境では」という枕 詞付きなのだ。そこを勘違いする。自分の過去が今後も通じると思う。しか し、環境は変わり、その環境にベテランは適応しにくいことが多い。若い人に は抵抗感のないことも、ベテランには苦手になる。ITスキルなど、全くそう だ。管理職が利用しないITシステムは死んでしまう。 <腹をくくって方針を決めてぶれなかった> ●一度は直前に辞職のお伺いまで立てた。しかし、もう誰もその時点では変わ れないから、当然のごとく交代などなかった。周囲がびっくりした辞任伺い だったが、かえってそれで崖っぷちまで追い込まれたので、開き直れた。本番 まであまり時間がなかったが、徹底的に作戦を練って、守備を固めて少ない反 撃のチャンスに一気に取りに行く作戦に変えた。それしかなかったかもしれな いが、方針が定まったから、かえってシンプルになった。あれもこれも考えな いで、単純な構図に切替えた。 ●その方針に添った布陣にメンバーを固定した。それまでは、さんざん迷って いただろうが、これしかない作戦なら、このメンバーでこういう布陣で行くと 決めた。だから、あまりメンバーチェンジがなかったし、だいたいメンバーも 固定した。これで全くピッチに立てない選手もできたが、それは割り切った。 目的が明確になったので、課題も明確になり、それに対する解決策もシンプル になった。周囲の評論家がいろいろと言っただろうが、気にしないだけの自信 ができた。方針が明確になったことが大きい。 ●企業でもトップの方針がぶれると、その振幅は末端に行くと非常に大きなぶ れになる。振り子の原則と同じだ。朝令暮改は構わないが、きちんと説明が必 要だ。説得はなかなかできない。全員が納得する結論など有り得ない。しか し、丁寧に、親切に、細かく説明することは、絶対に必要だ。いわゆる「説明 責任」というやつだ。これを手を抜くトップが多い。あるいは、いやなことは 外部や部下に振ってしまう。自分はいい子でいたいのかもしれないが、いやな ことを言うのが社長の仕事だ。 <スタッフ、ベンチ、サブみんなのチームワーク> ●20名以上の選手と、スタッフチーム、総勢30名以上のプロ集団が、1ヶ月以 上にわたって寝食を共にして、キャンプ地から試合の土地に移動する。時差は あまりないだろうが、気候は変動する。試合の時刻も一定ではない。海抜の差 も結構あった。そんな集団生活とコンディションの維持には、全員の意思統一 が欠かせない。誰かがおかしくなると、とたんに周囲にマイナスの影響が出 る。監督も全部に目が行き届くわけではないから、サポートチームのスタッフ の裏方の活躍も見逃せない。 ●そして、ベテランと若手、年齢の差もある集団のモティベーションの維持。 これはなかなか大変だった。しかし、初戦に勝ったことで、かなり重荷が取れ た。この初戦にトップコンディションに持っていけたことが大きかった。準備 の勝利だ。そして、あとは勢いがあった。初戦に勝った勢いで、第2戦も惜敗 し、いけると自信を持った。そして、第3戦の劇的勝利。ベスト16でのPKでの 惜敗につながった。初戦に勝った結果が、あとにどんどんつながった。小さな 初戦の勝利がすべてだった。 ●まず、小さい成功体験を積み重ねることだ。予期せぬ成功を、予期できる成 功の連続に格上げすることだ。そうなると、予期せぬから計画された成功に格 上げとなる。ビジネスの成功は、この予期せぬ成功を、いかに計画された連続 の成功に変えることだ。あとは、流れと勢いに乗って、自信を深めて突っ込む ことだ。ビジネスも勢いがあると、なかなか止められない。その間に、次の対 策を考える。いいときほど、危機感を持つことだ。さあ、4年後のベスト4へ 向けて、戦いはもう始まっている。