□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第331回配信分2010年08月30日発行 試算表を早く出すことで経営の実態を掴む 〜仔細にこだわらず速さを重んじる〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●先週号で在庫を正確に捕まえよ、棚卸をきちんとやれ、と書いたが早速いろ いろな方から反応をいただいた。加工業の社長からは、加工業なので自分の会 社では在庫というものがほとんどないと。なので、棚卸に関してはあまり注意 を払う必要がないとのことだった。棚卸に特に注意をするのは、製造業で加工 業はあまり神経を尖らす必要がないというお話しだった。確かに、それはその 通り。受注で初めて加工が始まる加工業は、特に製品在庫というものがほとん ど見当たらない。 ●加工業で在庫の代わりに気をつけるものは仕掛品だ。それと売掛金の中での クレーム関連の未収の売掛金。かなり長期間にわたって特定のところに一定の 金額で古い売掛金がそのまま残っている。そして、それが全く減少しない。と いうことは、それは、実は入金の見込みがほとんどない売掛金なのだ。そうい うものが資産に計上されていることが多い。貸倒で損金処理をしようと思って も、今期赤字なら赤字の金額がもっと膨らむ。わずかな黒字なら赤字に転落す る可能性もある。 ●そんなときには、たいていそのままにして資産から落とさない。また、棚卸 資産でも不良のものは落とせない。仕掛品も同様だ。システム開発関連の会社 などは、一昨年のリーマンショック依頼プロジェクトや得意先の投資計画が頓 挫したりして、半分くらいの完成度のものまで、中止に追い込まれたことが あった。そういう仕掛品が復活するかといえば、これはなかなか難しい。一定 の時間が経過すると賞味期限もなくなり、仕掛品が日の目を見ることなく、た いていは没になる。それは損金にあげないといけない。 <毎月の試算表がなかなかすぐに出せない> ●総じて、業績が好調または堅調な会社ほど、試算表が短時間できちんと出て くる。なぜきちんと早く出てくるかというと、ほとんど同じ理由が返ってく る。それは、過去に試算表を適当にやっていて、いい加減な試算表を作成して いて、最終的にかなり痛い目にあったという企業さんが多い。これは正直な実 感だ。税理士さんに毎月多額の報酬を払っていても、毎月の試算表が出てこな い企業もある。いままで業績が堅調だったから、誰もそれで文句もなかった。 支障もなかった。それが状況が一変した。 ●どう一変しかというと、当然業績が悪化し、周囲から事業の状態はどうなっ ているのか、きちんと実態を報告してくれというリクエストや要求が強くなっ た。一番よくあるのは、金融機関からそういう要求が当然のごとく出てくる。 立場が変われば、それはそうだろう。いったい実態が、実績がどうなっている のか分からない企業に、資金の援助や返済の繰延に応じるわけにはいかない。 学校の成績が分からないのに、どういう塾に行ったり家庭教師をつける必要が あるのか、分からないのと同じだ。 ●しかし、ところが、今まで試算表を毎月出している習慣のない企業で、いき なり試算表を毎月正確に出すとなると、これは結構やっかいだ。今までやって いたレベルと内容を大幅に改善しないと出来ない。例えば先週号で書いた棚卸 資産。ほとんどが原材料と在庫製品、商品だろうが、なかなか正確に迅速に把 握するのは難しい。社長は現場の細かい状況までご存じない場合も多いから、 担当部長や役員さんが、それは社長大変ですよ、という進言があると、なるほ どそうかいなと妥協してしまう。 <一度痛い目に会わないと改善されない> ●かくて、現状は成り行きになり、あまり改善もされないまま、課題山積、改 善進まずという状態で走ることになる。業績の悪化を改善するには、何をどこ から手をつけるのか、そのジャッジが非常に重要なのに、部門の損益や会社全 体の損益などが、なかなか掴めない状態では皆目見当がつかない。かくて、経 営者の経験とカンに頼った判断で進むことになる。オーナー経営者で創業者の 場合は、ご自分で会社を立ち上げやってこられたので、感覚的な動物的嗅覚は 非常に優れている。ほとんど当っている。 ●しかし、他の役員や部長さんとは立場と経験が異なる。ご自分は分かってい ても、それを実行責任者にきちんと伝えて、内容を理解納得させ、行動に移 し、結果を出すとなると非常にエネルギーがかかる。よって、たいていそのま ま放置されるケースが多い。そうなると、なかなか試算表は出てこない。仮に 出てきても、翌月の20日過ぎということになる。20日過ぎということは、野球 で言えば7回の裏くらいだ。その時点で試算表を入手しても、とき既に遅い。 そういう企業では、逆に経営者が業績のことをうるさく言う。 ●そういう状態が続くと、神様や世間は正直で、だんだん経営の中味が分から ないまま進行するので、いつかは業績がおかしくなる。大きな穴が開く事業が 出てくる。全部が全部成功するわけではないが、うまくいかない事業からの撤 退の意思決定が遅れる。気が付いたら、非常に大きなマイナスが発生している 場合がある。そういう事業ほど担当者はくそ真面目に取り組んでいる。そし て、いつかは大きなマイナスとなり、場合によっては会社の屋台骨を揺るがす 大惨事になることが多い。そこからでは遅い。 <周囲から言われる前に自ら改善に取り組む> ●確かに経理的な業務に多くの時間とエネルギーを割けないのも、中小企業で は事実。しかし、割けないから何もしないといのは、これは明らかにマイナ ス。もっと追い込まれて、金融機関から矢のような催促があり、やっと重い腰 を上げて取り組むようでは、もう遅い。今まで痛い目に会っていないから、ど ういう風にすれば試算表が早く正確に出るのかも、分からない。税理士さんと 今までそんな会話もしたことがないから、話し合いの見当もつかない。システ ムの変更もイメージできない。 ●業績が好調なときに危機感を持ち、次の手を打つ、もしくは次の手を打つ準 備を始める。このサイクルが非常に重要なのだ。業績がひとたび悪化し、一過 性の悪化ならまだいいが、構造的な悪化の場合、そう簡単に業績が回復すると 楽観は禁物だ。冒頭紹介した挨拶が素晴らしい企業でも、好調な業績の8割く らいしか戻っていない。いや、これが平常状態かもしれない。そう思っていた ほうがいい。しかし、そういう企業は8割の売上や受注でも、何とかきちんと 利益を出すことができる。それはきちんと試算表で業績が把握できているから だ。 ●あまり仔細な枝葉末節なことに拘って、試算表がものすごく遅れて出てくる より、一定の時間内で精度は若干問題があるものの、それなりの内容で出てき た方が意味がある。しかし、大事なことはその会社の経営の指標として絶対的 に重要な数字がいい加減ではいけない。多少の少額の経費の請求書が着てない から、まだ締まりませんというより、そんな金額は毎月ほぼ一定の範囲だか ら、一定の金額を充てておけばいいのだ。大事なことは、経営のトップが早く 会社の実態を把握することができるかどうかなのだ。