□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第332回配信分2010年09月06日発行 あなたの会社の流動資産はきちんとあるのか 〜意外とその通り存在しない流動資産〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●在庫、試算表と書いて、今週号は「流動資産」。会社の貸借対照表の左側の 上半分くらいに記載されている、会社の大事な大事な資産だ。非常に短期間で 現金化できる会社にとって一番大事な資産だ。現預金以外の流動資産が増加し てくると、当然ながらあっという間に資金不足に陥る。いくら売上が伸びて も、いくら計算上の利益が出ていても、この流動資産がどうなったかが、非常 に重要なのだ。しかし、意外と経営者の方はあまり関心を持っていない。やは り、売上と利益に目が行く。収支に目が行かない。 ●流動資産を分子に、流動負債を分母にして、その割った数字を「流動比率」 というが、この数字が100%を超えているのが正常な姿だ。それは、理屈で考 えればすぐに分かる。入ってくるものと、支払うものとのバランスを見てい る。これが100%を下回ると、大いに危険信号だ。お金周りの数字に異常のラ ンプ、警報が出ている。経理の担当者は、月末の資金繰りに大いに汗をかいて いるはずだ。社長も、場合によっては月末の資金繰りで走り回っているかもし れない。大事な仕事をほっておいて。 ●その大事な大事な流動資産だが、現金や預金は別として、あると思っている はずの資産が、果たして本当にあるのか、というのが今週のテーマなのだ。あ るのか?というからには、ないのではないか?という問題提起と受け止めてい ただいていい。ないのではないか?ということは、実はないだろうという意味 でもある。実は、中小企業の決算書が正しくないことが多いのは、この流動資 産が決算書の数字で表されているのと、実際にあるのとの差が大きいからだ。 特に前々回書いた棚卸資産の差が大きい。 <売掛金、仕掛品なども正確にチェックする> ●現金、預金と来ると、次の順番で来るのは受取手形であり、売掛金だ。この 売掛金が曲者で、長期にわたって同じ相手先で同じ売掛金がずっと計上されて いる場合がある。これは、長期にわたって入金されていない売掛金で、ひどい のになると1年や2年前の売掛金が計上されている。これは死んだ子供の年を 勘定しているのと同じだ。本来は請求書を出し続けても、入金されていない売 掛金で、調べたら相手が倒産している場合もある。本来、これは損益計算書に マイナスで計上しないといけない。 ●仕掛品も業種によっては非常に大きな数字で計上されている場合がある。製 造業では、受注をして製作の途中でストップがかかったような仕掛品がある。 いつか復活するかもしれないが、当面受注が正式に復活する保証もない。製造 業での製品化途中の仕掛品はいいが、システム開発などの会社でのシステムの 仕掛品は、場合によっては発注が保留のまま、結論が出ないことも多い。そう なると、仕掛品のまま数年間、塩漬けになったままになる。資産ではあるが、 ほとんどが人件費で支払いは終わっている。 ●売掛金は製品商品が納品されているのに、その代金が回収できていない売上 だ。売掛金が増加すると、一見資産が増えているように見えるが、実は現金は 減少している。これを意外と錯覚する。売掛金が10,000千円から15,000千円に 増えていると、売上は増加しているのだが、資金収支はマイナスになってい る。この例だと、5,000千円の現金が減少したことになる。売上が増加してい るのに、資金は減少しているのだ。仕掛品も同じだ。仕掛品が増加すると、手 元の現金は減少する。 <短期貸付金、仮払金なども同じ> ●その他の流動資産でよく計上されるのは、「仮払金」。出張旅費の仮払金な どは、1回当たり50,000円から100,000円くらいだろうから、数週間以内に精 算される。これは問題ない。問題になるのは取引先や役員に多額の仮払金が計 上されている場合だ。例えば、仕入先に5,000千円の仮払金がずっと数年間そ のまま変化せず計上されている。数年間にわたり金額が全く変化していない。 これは、おそらく一種の貸付金か、買掛金の支払いか。いずれにせよ、正常な 仮払金ではない。いわくつきの仮払金だ。 ●短期貸付金も怪しい貸付金が多い。退職した前の役員に貸し付けたことに なっているもの。20,000千円くらいの短期貸付金が、数年間ずっとそのままに なっている。利息の受け取りもない。金銭消費貸借契約もない。これは、ほと んど完全に役員退職金だろう。退職金にすると損益計算書に載せないといけな いから、赤字が増大する。貸付金にしておけば損益に関係ない。しかし、現金 はその分確実に減っている。それで資金繰りが回らなくなる。当然の理屈だ が、本人はあまり現状が分かっていない。 ●多額の取引先や役員への仮払金がそのままになっていたり、多額の短期貸付 金が利息の受け取りもなく数年間放置されている場合は、ほとんど死んだ資産 に該当する。こういう死んだ流動資産が意外と中小企業には多い。しかし、貸 借対照表には堂々と流動資産の欄に記載されている。その分をカウントする と、流動比率は100%を超えて安泰のように見えるが、実はそうではない。現 実に資金繰りが苦しい。なぜ苦しいかというと、腐った流動資産が多いから だ。生きている流動資産ではなく、死んでいる資産が多い。 <自社の資産を厳しく査定する> ●流動資産も、かくのごとく内容が不透明な部分が多い。その下の固定資産 は、実際のモノがあるから、まだ実態で確認できる。固定資産は、償却がきち んとできているか、どうかがポイントとなる。そのたの固定資産も、有価証券 やゴルフ場の会員権などの時価評価を必ずしておく。そういう風に見ると、自 社の資産が意外とそんなにないことに気が付く。決算書通りの資産があれば、 それは万々歳だが、必ずしもそうではないだろう。何がしかの流動資産は減少 するものだ。特に中小企業では。 ●評価が減少した流動資産の分は、自己資本がその分割り引いて考えないとい けない。決算書の自己資本が少ない企業は、資産が減少した分は自己資本から その分マイナスする。そうなると、自己資本がマイナス=債務超過の企業が出 てくる。決算書の表面的には自己資本がマイナスにならなくても、ここでいう 「実態」がマイナスの自己資本になる場合がある。これを「実態債務超過」と いう。金融機関は、黙ってこの「実態」を見ている。決算書一式を金融機関に 提出されていれば、すぐに実態は分かる。 ●残念ながら?右の欄の負債はほとんど減少しない。いや、むしろ隠れ借金が あって増加する場合もある。そうなると、余計に債務超過の金額が増加する。 かように中小企業の決算書は、修正して正常な形に置き換えて評価しないとい けない。とくに、営業キャッシュフローがマイナスの会社は、どこでキャッ シュフローがマイナスになっているのか、よくよく見ないといけない。売上が 上がり、利益も出ているのに、資金収支がマイナスになっている企業は、この 実態の流動資産がおかしい場合が多い。一度、きちんと点検されることをお薦 めする。