□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第334回配信分2010年09月20日発行 決算書や試算表に計上されていない負債はないか 〜隠れ借金は意外なところにある〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●資産の中味をきっちり点検するようにと、3週間にわたって書いてきた。今 週は、その右側にある「負債」のお話しで最後としようと思う。貸借対照表の 右側の上段部分にあるのが、この負債だ。負債とは、読んで字のごとく「借 金」を指す。会社の経理では、直接の借金でなくても、借金に該当するもの が、ここに計上される。借金というと、いやがる人もいるが、通常のビジネス では信用取引が多いので、買掛金などがこれに当る。まさに信用でものを売っ てもらう。その支払いが後日になる。これが買掛金だ。 ●負債は、資産に比較して一般的に項目が少ない。なので、非常に分かりやす い。たいてい、資産の項目数の半分から三分の一くらいの科目数でこと足り る。金額の間違いや、評価の誤りもほとんどない。もし、あるとすれば、帳簿 に載せていない「隠れ借金」があるか、ないかだ。では、どのようなものが隠 れ借金になるのだろうか。もちろん、意図的に知りながら帳簿に計上していな いというものがあれば、論外だが。通常、よく隠れ借金であるのは、退職金の 不足だ。歴史の長い企業では、結構大きな金額になることがある。 ●それ以外であるのは、本当に未払い金を計上していないとか、隠していると かの場合が多い。一番帳簿上分からないのは、代表者が社外で連帯保証してい たり、保証人になっているケースだ。これは決算書に載らないから、本当に分 からない。企業の連帯保証をしている場合もそうだし、個人で誰か友人知人の 借金の保証人になっているケースだ。正直に言っていただければいいが、当方 から聞かないと分からないので、本当に社外に存在するときは、ほとんど分か らないケースが多い。 <退職金の不足の金額をつかんでおく> ●突然の依願退職は予測できないが、定年退職は確実に計算できる。特に55歳 以上の中高年が多い職場では、きちんと毎年、毎年いくらくらい退職金が必要 か、必ず手元で計算しておく。これは大事なことだ。多くの中小企業では、社 外に積立金をしていることが多い。代表的な、中小企業退職金共済事業団、略 称中退金は毎月一定の掛金を企業から預り、社外に積み立てている。年数が増 加すればするほど、積立金は積みあがる方式になっている。そして、これは退 職した従業員に直接支払われる。 ●計算上の退職金と、社外に積み立てた掛金との不足分を企業が退職金として 従業員に支払うこととなる。社外の積立金が少ないと、社歴の長い基本給の高 い従業員が定年退職したときに、意外と高額の積立金不足が発生する。それ が、数名同時に起こると、これは結構大変だ。その期限が迫っているなら、そ の積立金不足は負債と認定して間違いない。何もなければ、必ずその不足金額 を支払う必要がある。もっとも、高額の場合はほとんどの企業は、分割払いに してもらっていると思うが。 ●概算では、ここ数年以内に定年退職する従業員の積立金不足を、必ずつかん でおく。意外と膨大な金額になることが多い。給与規定の一部に退職金規定が あったり、別に存在したりするだろうが、既存の権利をマイナスに変更するの は大変だ。特に、労働組合があればこれは相当長期の交渉になる。これで、成 岡の知己の企業で裁判になった例もある。GMもJALも、この従業員への高額の 退職金の支払いで、経営危機に陥った。他山の石とせず、ぜひ自社の退職金の 支払いがどうなっているか、点検して欲しい。 <代表者からの借入金は自己資本勘定> ●逆に、たいていの中小企業では代表者及び役員等の一族からの借入金がある ことが多い。月末になって、少し資金不足になる場合も、これはよくある。月 末は、たいてい支払いが重なる。従業員の給料、仕入先への支払い、口座から 勝手に落ちる自動引き落としの経費、リース代などだ。特に、人件費は給与振 込の場合は、4営業日前に金融機関の口座に指定の金額がないといけない。休 日を含まない4営業日だから、資金が慢性的に不足している中小企業では、こ れは結構重たい。 ●なので、翌月の頭にそこそこの金額が入金になることが分かっている場合、 本当に数日の資金がつながらない場合が、ある。そんなとき、わずかの金額を 金融機関に借りに行くことは難しい。もちろん、そういうときのために当座貸 し越しという便利な制度があるのだが。しかし、業績がいったん悪化した企業 は、この当座貸し越しを認めていない金融機関もある。そうなると、経理担当 者は困って、たいてい代表者に一時的な資金のつなぎを依頼することになる。 社長は、仕方ないから、その金額を立て替える。 ●立て替え金と思って、お金を入れてもそれが戻ってくることは考えにくい。 また、翌月は翌月でお金が不足することが多い。そうなると、立て替え金は代 表者からの借入金になる。もちろん利息も払わない。催促なしのあるとき払い だが、まずこのお金が返って来る事は考えにくい。まして、金融機関への返済 が滞っていることが多いから、なおさらだ。かくて、このお金は代表者からの 借入金となり、帳簿上負債の長期借入金に計上される。これは、本当の意味で は、自己資本であり、増資みたいなものだ。そう考えた方が自然だ。 <自己資本を正確に把握する> ●金融機関が最も重要視する自己資本。自己資本がマイナスになることを「債 務超過」という。決算書では債務超過になっていない企業でも、この数回の内 容でお分かりのように、実際に生きていると思っている資産が、じつは目減り して、これくらいで正しいと思っている負債が、実はもっと多かったりする と、決算書ではプラスの自己資本が実はマイナスということも、実際には結構 多い。この状態を、実態自己資本が債務超過状態という。じつは、こうなって いる中小企業が、かなりたくさん存在する。 ●ただし、上記のように代表者や役員一族からの借入金は自己資本勘定と考え てもいい。それを加味してプラスマイナスして、果たしてどうか。この数字を きちんと掴んでおくことが大事だ。金融機関は、黙ってこの数字をきちんと把 握している。決算書ができて、持参して社長が説明されるのを黙って聞いてい ても、帰ってから担当にきちんと中味を分析させる。そして、金融機関所定の 様式で、自己資本の内容を格付けする。本当のこの中小企業の実力はどれくら いかを、黙って査定している。 ●中小企業を経営するのに、最低限これくらいの知識は、いかに技術系の社長 といえども、必要かつ不可欠。お金のことは担当者に、月次の決算や試算表は 税理士に任せていればいいという、甘い時代は終わった。現代は、いかなる経 営者も財務や数字に関する一定レベルの見識をもっていないと、今後の厳しい 経営環境を乗り切っていくことは難しい。お金がじゃぶじゃぶ余って、悠々自 適の企業ならいざ知らず、かなりきわどい資金繰りで乗り切っていくには、最 低限の財務の内容を理解しておく。