□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第338回配信分2010年10月18日発行 一芸に秀でることが成功の近道 〜集中してやっていれば必ず何かつかめる〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●10月の初めに大阪の此花・西・港会議所の主催で、講演会があり、尼崎の音 羽電機工業株式会社の吉田社長との講演をさせていただいた。先に、吉田社長 が1時間講演いただき、その次に成岡が30分ほど解説、そして最後の30分は吉 田社長と成岡との質疑応答という構成で、2時間の講演会だった。音羽電機工 業株式会社は、8月にNHKTV番組「るそんの壷」というビジネス番組でも取り 上げられた、知る人ぞ知る「カミナリ対策機器」の専門メーカーである。吉田 社長は、会社のある尼崎会議所の会頭もされている。 ●じつは、何をかくそうこの講演会の企画の話しが持ち上げるまでは、成岡は 音羽電機の会社の存在は知らなかった。ただ、ここ数年間の関西での講演の実 績や、いろいろな情報を集めて、これはということで講演のお願いにあがっ た。そして、快くお引き受けいただて、当日の講演となった次第だ。しかし、 その会社の内容を伺って、本当にびっくり。本当に、「カミナリ対策機器」の 専業メーカとして、研究開発、新製品の製造、工事、メンテナンスなどに特化 している企業なのだ。要は、「カミナリ」でメシを食っているということだ。 ●事業の内容をお伺いすると、何度もびっくりするキーワードが連続して出て くる。一番驚いたのは、2年前に完成したJR尼崎駅の「カミナリテクノロジー センター」だ。総工費35億円という、失礼ながらこの規模の企業としては驚異 の投資を行い、非常に立派な研究施設が完成した。建物の中に設置してある研 究設備、機器は日本ではここしかないというものもあり、名だたる企業から研 究や試験の依頼が、殺到しているという。アメリカの航空機会社からの共同研 究の案件もあるという。 <カミナリに徹する・究める> ●まだまだ驚くことが山ほどあって、カミナリ対策機器以外の事業領域は、見 向きもしないということだ。市場は無限にあり、特にカミナリは自然現象だか ら、研究対象はなくなることはない。そういえば、つい最近の新聞にも、環境 対策で脚光を浴びている風力発電の設備に落雷がよく起こり、発電が非常に不 安定になるという新聞記事が報道されていた。カミナリによる被害は、なんと 数百億円になるという実は隠された市場があるのだ。平生はそんなことは気が 付かないが、ニッチな市場だが確実に存在する。 ●その市場がまた、電力会社の需要から始まり、デジタル社会への発展に伴 い、いろいろな機器にカミナリ対策が必要となってきた。身近なものでは、オ フィスにあるOAタップにも、落雷対策のデバイスが施してある。電柱のトラン スへの落雷防止だけかと思いきや、家庭用の電気機器、エレベーター、はては 飛行機や新幹線にまで落雷防止装置は必要なのだ。今回の講演会の企画のお話 しがなかったら、とてもそこまで知らなかったが、意外や意外、思いかけない ところにビジネスのニーズはあるものだ。 ●そして、音羽電機はこのニッチな落雷防止という市場を徹底的に究めること としている。社是も「キラリと光れ」という珍しくカタカナが入った社是に なっている。とにかく、他の事業領域には目もくれないで、ひたすら雷対策に 没頭している。そして、思い切って多額の投資を研究開発に行った。吉田社長 ご自身も、これは非常に思い切った投資だったと、自らも回顧されていた。し かし、その効果たるや、抜群。見学者がひきもきらないし、最近では入場制限 までしないといけないと笑っておられた。 <集中して徹すると見えてくるものがある> ●何より、従業員の社員の方が喜んだ。最新の機器、最新の設備、最新の試験 研究設備。そして、日本にここしかないという装置。やるからには、抜け出る んだという会社の意思が、明確に示されている。これで、発奮しない社員はい ないだろう。特に若い技術屋さんの多い企業だから、それは非常に動機付けに なっているはずだ。そして、多くの見学者。来場者。共同研究の引き合いと、 数字には表れない効果は、抜群のものがある。単純な投資回収期間が何年とい う尺度で測れない効果がある。 ●この投資を決断されたのも、会社の方針が明確だからだろう。とにかく、一 芸に秀でて徹底してやる。カミナリを究めることが明確になっている。その事 業領域を徹底的に深堀りする。市場も、当初は官公需、つまり電力会社などが 主体だったそうだ。電柱に避雷器を設置するのは、非常に分かりやすい。全国 に電柱は何百万本とあるはずだ。この市場は非常に堅い市場だ。ところが、電 力の自由化の波が押し寄せ、各地の電力会社が新規の投資を手控えるように なった。途端に業績は芳しくなくなり、非常に苦しい状態になった。 ●そこで、発想を切替えた。市場は無限大にある。まだ手付かずの市場がたく さんある。民生用の市場はまだほとんど何もやっていない。自社はカミナリを 究めることがミッションだから、どんどん新しい市場を攻めようではないか。 確かに電力会社とは違って、民生用の市場はいろいろと技術的にも難しいこと があるだろう。しかし、この市場を攻めないと未来に絵を描くことは難しい。 ならば、どんどんチャレンジしようではないか。トップがリーダーシップを発 揮し、どんどん新市場を攻めていった。そして、ものにした。 <中小企業の方向性> ●中小企業は、当然のことながら大企業と異なり、経営資源は一般的には乏し い。人材、資金、設備、技術など、どれをとっても苦しい状態で頑張ってい る。そこで、すべての面で全部に条件が揃っていることはない。何かは乏しい が、何かは他社と比べて秀でているものがある。それなら、そこを徹底的に究 めることが重要だ。ところが、実際には他の畑がおいしいように見えるときが ある。他人の弁当がご馳走に見えるのと同じだ。そこで、気持ちが迷ってしま う。自社の強みが何だということを忘れて。 ●どんな商売でも、ビジネスでも、ずっと順風満帆で行くことは、ほとんどな い。過去にはオイルショックあり、円高あり、バブル崩壊あり、リーマン ショックあり、・・・・。しかし、どんな環境でも、どんな条件下でも、何と か経営はやっていかないといけない。会社を継続して運営、経営していくの は、トップの揺るがないミッションだ。しかし、逆風が吹くことも、珍しくな い。そこで、動揺する。どうしようと迷う。それが人情だが、そこでしっかり した軸があると、ぶれないし、迷わない。 ●特に中小企業は何でもできるわけではない。足りない経営資源は外部から補 う、連携する、補強する。そして自分のところは、強みを発揮できる市場に、 事業領域にどんどん深堀りする。あまり周囲の雑音に耳を貸すことなく、とに かく究める覚悟で集中する。いろいろな投資や人材、経営資源も集中する。集 中することは、反面怖いこともあるが、勇気を出して一芸に秀でるまで飛びぬ ける。中途半端ではいけない。中途半端に出ると、頭を叩かれる。叩かれない くらい飛びぬける。それが大事だ。