□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第341回配信分2010年11月08日発行 基本方針の迷走は大いなる無駄を生む 〜社長の一声でころころ変わらない〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●会社の方針とは、運営上の基本路線だ。自社の事業をこの方向を目指してや るというのは、そうころころ変わるものではない。特に、理念やビジョンに 則った基本方針がころころ変わるということは、そのベースのビジョンが変わ るということに等しい。そんな不可思議な現象が、いま日本の各地で起こって いる。いったい、基本方針はどうなっているのかと、いつも疑問に思えること が多い。政権が変わり、期待値が高まった割には、閉塞感が漂うのもそのせい ではないか。 ●最近の出来事では、国土交通省が決定したダムの工事中止。当初、発表され たときにいろいろな軋轢があって、当然すんなりとは受けいれられなかった。 それは当然だろう。何十年にもかかった自宅の強制移転までして強行した工事 だから、はいそうでうかとすんなり納得するはずもない。しかし、ときの大臣 はマニフェストに沿った決定をくだした。敢えて火中の栗を拾う覚悟で決定し た。損得勘定は別にして、それはそれで立派ではないか。 ●しかし、つい最近の報道では、その決定が反故になった。建設中止の決定は 保留となり、再開の可能性も出てきた。また、場合によっては工事が開始され るかもしれない。もし、そうだとしたら、いったいこの2年間のゴタゴタはど ういうことだったのだろうかと、いぶかるのは自分だけではないだろう。この ような不可思議な決定が、最近至る所で散見される。これは、基本方針のない ことを決定的に表す現象だ。こういうことが企業で起こると、早晩組織は崩壊 する。 <衆知を集めるのはいいが決定はトップが果敢に行う> ●衆知を集めて、というフレーズはよく聞くことばだが、これは間違いではな い。特に、前回も書いたが、企業の中だけで議論していると世間の風を感じな くなる。過去の成功体験の繰り返しを言うだけで、現状の環境変化を認識して いない。だから、窓を開けて、風を入れて、衆知を集めるのは間違いではな い。いや、もっとそうするべきだ。特に、自分が創業し、会社を大きくしてき た経営者にとって、自分の価値観を異なる意見の人の発言は、耳に痛い。 ●だから、他人の発言を最初から拒否している。しかし、現代では自分で判断 できる領域は狭い。もっと広い視野で判断しないといけない。過去の成功体験 と真反対の結論を出さないといけない場合もある。自分が創業し、大きくして きた事業を否定しないといけないときもある。そんなときには、なかなか衆知 を集めて周りの意見を聞くという心持になれない。しかし、それを断腸の思い でやらないといけないときがある。実は、そういう場面のほうが多いのが現実 だ。 ●最後の決定はトップが果敢に行う。それは基本方針であり、ビジョンに沿っ たものでないといけない。TPPでいま揉めているが、そもそも将来の日本の国 の方向性が出ているのだから、その基本方針に沿って決定すればいい。場当た り的に批判をかわそうとか、その場その場の短絡的な結論を出そうとか、当面 の利害関係者の顔を立てようとか、基本方針とずれた方針がまかり通るのは、 実際おかしいことだ。誰もが感じているが、自浄作用がない。 <鎖国から開国した明治維新に学べ> ●NHKの大河ドラマで坂本竜馬をやっている。筆者の父親の実家が高知市であ り、今月の末にも私事で行かないといけないが、地元はこの一年間竜馬ブーム で沸き返った。それはそれでいいのだが、当時日本の将来ビジョンを掲げて、 偉人が輩出した。ひとつ間違うと当時の日本は列強海外の属国になっていただ ろう。本土はフランス、北海道はロシア、四国はアメリカ、九州はイギリスだ ろうか。いま思うと、ぞっとすることだ。しかし、当時はその可能性があっ た。 ●尊皇攘夷とか、いろいろと迷走したが、最終的には開国から明治維新へ、と きの日本は正しい選択をした。多少の流血の事件はあったが、間違いない国の 選択をした。大きな国の方向転換は、明治維新と太平洋戦争の終戦だった。そ して、いまは第三の開国といわれている。それが、このTPP。おそらく、いつ もの玉虫色の決着になり、国内世論に遠慮して本当の姿を示せない。一部の政 治家は正しいことを発言していると思うが、多くの利害関係者が存在する。 ●周囲の多くの利害関係者を、そのひとつひとつに配慮することは、最終的に はできないはずだ。いいとこ取りで、どこにもいい顔をしようと思っても、そ れはいま難しい。企業も同じで、すべての事業、すべての商品製品がすべてう まく行っているなどということは、あり得ない。何かが時代と共に古くなり、 何かが時代を先取りし、前に進まないといけない。その基本方針を決定するの は、いつも組織のトップしかできないことだ。なぜか。それは止めるものを決 めないといけないからだ。 <選択と集中の基本はやらないことを決めること> ●間違いの一番は、決定をしないことだ。不作為の罪という。従業員や社員な ら許されるが、トップの不作為は罪だ。わかっていて、決定できない。結論を 先延ばしにする。決めるのがいやだから、次の人に結論を委ねる。そういうこ とが重なると、組織は停滞し、最後は衰退する。決めるべきことは、やらない ものを決めることだ。やることを決めるのは、周囲の人間や幹部、社員でも決 まる。もちろん最後の決断は必要だが。止めることを決めるのは難しい。 ●やることを決めるのも、止めることを決めるのも、基本方針が明確なら、多 少の議論はあるだろうが、方針は決まっているのだから決定は明確に決まるは ずだ。それを、逐次場当たり的に決定してると、決定をつなげると下手なパッ チワークのようになる。色違いの布をすきなようにつないでいくから、出来上 がった作品は当初の思いと似て非なるものになる。そんな事業をいくら多く やっても、最後にはばらばらになる。小職が社会人になった昭和49年、1974年 前後の製造業、メーカーのキーワードは「多角化」だった。もちろん、成功し た企業もあったが、大半は手を出した新規の事業からは撤退した。 ●そして残ったのは、結局本業の周辺のコアな事業だった。化学繊維の製造技 術を中心に、炭素繊維事業、化成品事業、化学繊維事業だった。そして、ここ から、いま水の浄化、ろ過技術などの新しい事業が主体になっている。基本方 針は一時迷走したが、いまは各社とも明確な戦略で事業を展開している。トッ プの基本方針がぶれなかったら、多少の軋轢はあっても、ぎくしゃくしても、 まっすぐ進めるはずだ。あとは、トップのリーダーシップがあればいい。これ は、次週に書きたいと思う。