□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第342回配信分2010年11月15日発行 予防保全は結局安上がりになる 〜急なトラブルへの対応は想定外の費用に〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●製造業にはいろいろな機械のトラブルがつきものだ。筆者も永年製造業の生 産現場と開発現場に在籍したが、それはそれは苦労した。予定通りいかない、 計画通り進まないのが現場というもので、それをいかに予測して段取り良く手 を打つかが問われる。しかし、最初は予想もつかないトラブルも発生し、なか なか対策が取れないのが現状だった。とにかく製造現場を使っての工場実験な ので、危険を回避しないといけない。それが第一優先なのだ。 ●別に開発室というのがあって、製造現場の10分の1くらいのサイズの小規模 実験室があった。規模は小さいが設備は現場とそっくり同じで、いろいろな条 件を変更して、いろいろな新規原料や触媒の実験、温度条件の変更などを行う ことができる。そこで何回か実験を繰り返し、広島の中央研究所で行った基礎 研究をトレースする。そして、現場のスケールアップした製造実験を行う最適 な条件を探し出す。条件が決まると、満を持して現場の大規模実験が始まる。 ●こういうパターンで新しい技術を検討し、再現性をチェックし、物性を試験 し、ようやく工業的に一定の水準を保てる製造技術を見つけ出す。繰り返し、 繰り返し何回も再現性を試し、収率を上げて工業的に採算が合うかを検討す る。時間は多少かかるが、これくらいの手順を踏まないと工業的技術というも のは確立しない。それくらい、製造業でのものづくりというのは時間もかかる し、技術の確立には長いエネルギーが必要となる。 <生産現場で安定的なものづくりには機械保全が欠かせない> ●大量に大規模に安定的に生産するには、機械の調子が常に一定であることが 要求される。製造条件の設定は一定しているのに、再現性がないと同じ品質の 製品は製造できない。それには、予防保全という考え方が欠かせない。機械の 調子がおかしくなって、それから機械を停止して、原因を検討するなどという 流暢なことをやっている時間はない。24時間365日連続運転している製造現場 とは、そういうものだ。そのために多くのスタッフを抱える。 ●機械保全、電気保全、計装(今のシステム)保全などのメンテナンスチーム も、24時間体制で監視している。夜勤の人数は少ないが、それでも数名は配置 している。そのためのコストは膨大だ。しかし、保全=メンテナンスの基本は 予防保全。定期的に機械の調子をチェックする自主点検と、法令で定められた 法令点検がある。法令点検は義務付けられ、高圧反応容器などは1年に1回の 実施が義務付けられている。これは必ず受けないといけない点検だ。 ●それ以外の自主的な点検、チェックが大事なのだ。そこで行うことは、故障 が起こっていなくても一定時間経過した部品は交換する。消耗品的に使用して いる部品は、厚みや磨耗をチェックして積極的に交換する。少しでも異音がし たり、ノイズが発生していると、交換する。その交換部品も常時一定数確保し ておかないといけない。場所も要るし、費用もかかる。しかし、そのコストを かけてでも、正規の運転スケジュールが守られないと、大きな機会損失につな がる。 <予防保全にかかるコストはそう大きくない> ●生産量が最大でない場合は、機械を少々停止しても、合計の生産量には大き な影響を及ぼさない。だから、突発的に対応すればいいという考え方もある。 しかし、急な故障は周囲に大きなマイナスの影響を及ぼす。製造業では、危険 をはらむこともある。急いで修理すると、修理後のテストに十分な時間をかけ られないから、同じ条件でも同じ製品が製造できるとは限らない。よって、品 質の変動は起こり、その後の製品のフォローに大きな手間と時間、コストがか かる。 ●製造業ではないが、弊社のサーバのコンピュータの調子や機能がどうも不調 になり、HDDを3年前に取り替えたが、今回まだ故障していないが取り替え た。取り替えたのに時間と手間はかかったが、何とか一週間で切り替えた。切 り替えたときに、そのまま条件を引き継げなかったものもあったが、あまり品 質を落とさずに無事に入れ替えは終了した。ほかのスタッフの手も借りたが、 大きなパーフォーマンスのダウンなく、何とか乗り切った。 ●これにかけた時間とエネルギー、コストはそこそこかかったが、最終的に考 えれば決して高くついたとは思えない。切り替えて、新しいサーバが稼動して 感じたが、全然パフォーマンスが違う。格段に異なる。こういう現象を見れ ば、予防保全的に切り替えてよかったと感じた。確かに過剰品質という見方も あるが、早晩いつかはトラブルになっていただろう。ぎりぎりの納期でやって いる仕事の最中にトラブルが起こったら、目も当てられない。品質や納期がダ ウンしても、それは言い訳になる。 <精神的な余裕も生まれることが結果につながる> ●切り替えたときは、多少同じ条件が引き継げないので、少々戸惑うことも あったが、それは多少手をかければ解決する。本質的な問題ではない。3年間 くらいは使用するから、平均のコストはしれている。それより、どんづまりに なってからのトラブル対応で、さらにややこしいことが起こり、品質が劣化し 納期は守られず、信用を落とすことのほうが脅威だ。我々の仕事は、工業製品 を製造しているのではないから、つどつどアウトプットの品質変動が起こる。 それはあまり良くない。 ●一定のコンスタントな成果物の生産ができる環境が整えば、精神的な余裕が 生まれる。ガソリンがぎりぎりで高速道路を走っているようなことだと、いい 成果物は生まれない。何事によらず、ぎりぎりで走るのは良くない。少々の余 裕を持ち、そう大きな余裕でなくてもいいが、あまりにぎりぎりで出会い頭的 な対応は好ましくない。本人へのダメージもあるが、周囲への悪影響も大き い。何より、平時に準備をするときは、準備に対するコストも安くつく。 ●それがぎりぎりになり、仕入先の繁忙期にぶつかると、コストも納期も仕入 先の条件に合わさざるを得ない。そうなると、意外とコストがかかるものだ。 ついでにやってくれるときは高くつかないが、当方の都合でやってもらった ら、先方の条件を飲まざるを得ない。いい条件を交渉する余地などはない。昔 から「転ばぬ先の杖」というフレーズがあるが、まさに言いえて至言。過度の 準備は必要ないが、自社の最低限のインフラ基盤を安定的に運営するための予 防保全に一定のコストをかけるのは、当然だ。