□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第345回配信分2010年12月06日発行 トップの仕事は会社のグランドデザインを描くこと 〜着眼大局、着手小局〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●仕事柄いろいろな企業さんに訪問させていただくことが多いが、最近感じる ことは、この厳しいご時世でも業績のいい会社には共通点があることだ。それ は、社長=トップの方が常に会社の将来のグランドデザインを思い描いている ことだ。グランドデザインとはぴったりした日本語になりにくいが、大きな構 想とでも言おうか、将来ビジョンとでも言おうか、目先目先のことではなく、 本当に未来に向かって自社は何をやり、そしてその結果どうありたいかという イメージなのだ。 ●お聞きすると、そうですね・・・・、実はですね・・・・、などと時間が多 少かかってお話しされる方は少ない。間髪入れず、自分の会社はこうありた い、ああありたいと、立て板に水のごとくすらすらと出てくる。そんなに考え るのに時間はかからない。常に頭の中で反芻しているから、すぐにイメージが 沸いて、口から滑らかに言葉が出てくる。社長たるもの、こうあるべしと思え る企業のトップの方にお目にかかれると、商売柄非常に嬉しい。だから業績も いいんだと納得できる。 ●それに引き換え、業績低迷で苦しんでおられる企業のトップは、常に迷って いる。目先の案件の利害得失に目が行って、そもそもの基本方針がぐらつく。 この仕事は儲かるだろうかと、そればかり気になる。そして、当初の思いとは 逆の結果を招く。もちろん目先の資金繰りが苦しいから、それも理解はできる し、当然の思いだろう。しかし、一球ごとにベンチの監督のサインがころころ 変わると、結果はろくなことがない。それより、目をつぶって3球思い切って 振ってこいと言われるほうが、結果はいいはずだ。 <将棋の格言、着眼大局、着手小局> ●将棋(囲碁でも同じかと思えるが)の格言に「着眼大局、着手小局」という のがある。「木を見るな、森を見よ」も同じ意味か。つまり、目先目先も大事 だが、大きな構想をきちんと描いていることが大事なのだ。目先目先の判断 は、この大きな構想の一部に過ぎない。着眼大局を行うには、常に盤面を高い 位置から見る必要がある。まさに、今回終了した大河ドラマ龍馬伝がその好例 だ。幕末から明治維新にかけて、日本をどうするのかという大きな構想のぶつ かり合いだった。 ●目先の業績や資金繰りに毎日追われると、このグランドデザインを見失う。 というか、そんなこと考えていられないという羽目に陥る。たいていの業績悪 化で苦しんでいる中小企業は、社長が、トップマネジメントがこのグランドデ ザインを描いていない。いや、描こうとしていない。過去のバブルのいい時代 のことの再現ばかりに目がいって、そもそもうちの会社は何だったかを見失っ ている。再度、創業の原点に立ち返り、もう一度考えてみることだ。それが大 事だ。 ●前に進むことばかりを考えていないで、少し立ち止まって考える。立ち止ま ると自転車操業の場合、転倒する可能性もあるが、一度サドルから降りてみる ことも必要だ。そして、今一度世間の動向をよく眺めながら、いま打つ一手を 考える。いま打つ一手は、グランドデザインに描かれている構想の、一番時間 的に近いというだけのことだ。その路線に沿った一手でないといけない。そう でないと、出来上がって非常に仕上がりがちぐはぐになる。安物のパッチワー クみたいになる。 <どうすればグランドデザインが描けるか> ●一日に数時間は現場の目先仕事から離れて、自分だけの時間を持つこと。そ して、独りになって考えること。考えが浮かんだら、文字化して眺めること。 まとまったら信頼できる人物に聞いてもらうこと。自分で口から声に出して言 うと、考えがもっと具体的になり、まとまるものだ。そしてその文字をいつも いつも眺めること。どこかおかしい、しっくり来ない、ピントがずれているな どというイメージのズレが必ず出てくる。気がつく。そして、それを都度都度 修正する。 ●一ヶ月に一度は現場から離れること。無人島や山ごもりなどという大層な環 境は必要ない。日曜日、誰もいない会社に独りで半日ゆっくりものを考える。 目先の書類を見てはいけない。いっさい目もくれないで、ひたすら将来の構想 を思い描く。準備や段取りに時間をかけるのは構わないが、決断を先送りして はいけない。トップが決めないことは、下の層からは言い出しにくい。特に、 「止めることを決める」ときは、たいてい独りで決めないといけない。それく らい孤独なものだ。 ●その孤独と不安に打ち勝って、次の時代の構想を強くイメージしないといけ ない。この基本的な構想にぶれが生じると、今の日本丸のように迷走する。以 前に言ったことと、やっていることが一致しない。言行不一致とは、まさにこ のことだ。完全に100%一致さすことは難しいが、路線からはみ出すことはい けない。ベクトルが一致する方向を示して、ここへ全員で行くんだと大きな声 で叫ばないといけない。その路線からはみ出す事業は、早晩縮小撤退しないと いけない。 <業績のいい企業から学ぶ> ●経営理念だ、ビジョンだ、などと言葉の定義などに拘らない。業績の芳しく ない企業には、この経営の軸、芯がない。軸が明確でないから、コマが回転し ても、すぐに揺らいでくる。社員の人数が多くなったら、たちどころにそのブ レが大きくなる。業績が堅調で少々の売上減少などでは、簡単にへこたれない 企業には、明確な中心軸がある。そして、それを全社員に配り、ときに唱和 し、イメージの統一を図っている。手本とするべき見本は到るところにある。 ●成長する企業は、周囲から学んでいる。衰退する企業は自分自身に固執して いる。広く世間を見て、いいところはどんどん取り入れる。始めは従業員もつ いてこないだろうが、トップが真摯にやっていると、一人一人とついてくる社 員が出てくる。朝の挨拶も、トイレ掃除も同じだ。文句を言う前に率先垂範 だ。それもトップの言うグランドデザインにのっとった行動なら、説得力があ る。とにかく中小企業の経営は、あまり理屈をこねるより態度行動で示すこと だ。 ●グランドデザインが明確な企業の社長さんのお話はわかりやすい。インタ ビューすれば、非常に明快な答えがすぐに返ってくる。非常にすっきりしてい て気持ちがいいし、分かりやすい。我々プロの仕事は、複雑な現象やプロセス をいかに簡単明瞭に示すかがポイントだが、業績のいい企業のトップのお話し は非常にすっきりしている。やることを明確にし、わかりやすく社員に伝え、 自分もそれを実践する。当たり前のことを、当たり前にやっている。そこが違 いなのだ。