□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第347回配信分2010年12月20日発行 新しい事業の成功の確率はそんなに高くないが 〜変わるためにはトップはリスクを取る覚悟を〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●つい最近の日経新聞の夕刊に、ホンダ創業者の本田宗一郎さんの発言に、 「新事業の成功率は1%もない」というのが紹介されていた。亡くなったがホ ンダを世界的な企業に育てた創業者の言葉なので、かなり重たい。お腹にずし んと響く言葉だ。1%といえば、100件あって1件が成功したかどうかという 確率だ。実際のところ、感覚的にはそうだろうと思っている。実験的なもの と、ビジネスとして立ち上げての成功とは意味が違うと思うが、しかしいずれ にしても高くない。 ●感覚的には最大で30%成功なら、滅茶苦茶グッドだろう。これは多少詭弁の 臭いがあり、何が成功かという定義でコメントは変わってくる。完全に事業化 に成功して、大きなビジネスになるということが成功なら、それは10%もない だろう。最初のフレーズに書いた本田宗一郎さんのコメントのように1%くら いかもしれない。しかし、何とか事業の形になり、それなりの規模に育ったと いうことが成功なら、もう少し確率は上がるだろう。20%くらいなら上出来 か。 ●よく講演や私塾の講義で、イチローの打率くらいなら本当に素晴らしいと申 しあげている。成功の定義にもよるが、本当に現在の状況をつぶさに見ると、 新しい事業の成功の確率は非常に低いといわざるを得ない。それくらい市場も 厳しいし、技術のレベルも上がっている。そんなに簡単に新規事業がうまくい くはずがない。筆者が大学を卒業して企業に就職した1965年当時は、猫も杓子 も新規事業、新規事業と叫んでいた。繊維会社がうなぎの養殖をしていた。 <リスクは考えるが恐れない> ●何でも新しいことにはリスクは付き物だ。リスクのない新規事業などあり得 ない。リスクがないなら誰でもやっている。特に大企業は資本の論理に任せ て、大きな投資ほどやってくる。中小企業は投資資本の金額ではかなわないか ら、知恵で勝負しないといけない。エネルギーの競い合いになると確実に負け る。そんな土俵で戦ってはいけない。血みどろの戦い、レッドオーシャンでバ トルを繰り広げるのは得策ではない。太平洋戦争で日本がアメリカ軍に負けた 構図だ。 ●起こるであろうリスクは事前に十分検討しないといけない。十分検討はする が、最終的に完璧にリスクを軽減することは不可能だ。ある程度検討したら、 あとは決断しかない。まだデータが足りないとかいうのは、断り文句に等し い。賢いスタッフほどできない理由を並べ立てる。そんなら初めから反対すれ ばいい。どうすればできるかを考えずに、断る理由を考える。そういうDNAは 所詮中小企業には合わない。チャレンジする気概が感じられない。最後はやる 気だから。 ●リスクは十分検討するが、どこまで検討しても完璧はない。それなら、どこ かで決断しないといけない。6割いけると思ったら絶対に進むべきだ。いや、 3割くらいが判断の分かれ道だろうか。成岡は、会議で3割賛成、7割反対な らやるべきと決めている。あまり論理的な根拠はないが、感覚的にはそれが妥 当な線だと思っている。みんなが賛成した案件は、逆にリスクがある。全員が 賛成する新しい案件などあり得ない。反対意見がないことは、逆に危ない。 <どこで撤退するか予め決めておく> ●一般的には3年間で黒字化の目処が立たない事業は、やめるべきというのが 一般的だ。しかし、必ずしも絶対ではない。ずっと赤字でも必死にこらえて頑 張って継続している事業も、数多くある。有名なサントリーのビール事業のよ うに、数十年赤字でもいろいろな要因や判断から継続している事業もある。単 純に事業収益が赤字だから撤退するというワンパターンな判断は、かえってこ との本質を見誤る。事業の成否は大局的な判断が必要だ。 ●しかし、中小企業で何十年も赤字の垂れ流しは許されない。開始する前に、 どこまでの赤字までは我慢する。これくらいになったら撤退するという基準は 設定しておく。そして、それを公言して表明しておく。後ろへ戻れないように しておく。しかし、そうまでしても、いざ現実となるとなかなか事業を撤退す ることは難しい。何人も従業員が在籍している、在庫もある、機械も建物もあ る、そして今でも頑張っている社員がいる。なかなか簡単に数字だけでは止め られない。 ●そして、もう少し、も少し頑張るということになる。そして、数年はずるず ると続けることが多い。損切りの発想がない。いま、ここで止めたらどれくら い損するかしか分からない。事業を撤退するときは、撤退の費用がかかる。そ れが意外と大きい。借りたオフィスの敷金も減額されるし、辞めてもらう社員 に余分の給料も必要だ。退職金の不足もカバーしないといけない。そして在庫 は償却することになる。想定以上の費用がかかり、損失は倍くらいになるのが 普通だ。 <会社が変わるためには必要なリスクがある> ●しかし、リスクがあるから挑戦する。チャレンジする。そして失敗を初めか ら恐れない。企業が、会社が変化するためには、変わらないといけない。変わ るには当然リスクがある。リスクのない変化などあり得ない。それに果敢に挑 戦し、低い確率ながら、何とかそれを克服し完全な成功ではないが、何とか成 功の入り口に近づいた企業が、今後の激動の環境変化に対応できる。そして、 失敗をとがめない。反省はするが、後悔はしない。減点より加点を大事にす る。 ●そういう企業風土に変わるには、相当な覚悟と時間が必要だ。企業風土や文 化は一朝一夕にはできない。一番大事なのは経営者のマインドだ。トップが チャレンジすることを継続している企業、挑戦することを是とする企業風土、 失敗をとがめず成功を称える企業は、しばしの停滞はあっても、最後に勝利を つかむ。変化するには代償が要る。それを初めから逃避していては、結果は生 まれない。結果は恐れつつ、果敢にチャレンジするのは難しいが、難しいこと を実現することが仕事だ。 ●誰でも、どんな会社でもできることは、あなたの会社でやっても意味がな い。差別化もできないし、付加価値もない。どこに行っても買えるものを並べ ていても、ビジネスにはならない。あなたの会社、企業でしかできないものが あるからこそ、お客さんは買いに来てくれる。あなたの企業でしか出来ないも のを作るためには、過去には大きなリスクを取ってきたはずだ。いま、環境は 厳しいから、余計にリスクを避けてはいけない。会社が変わるためには、取る べき必要なリスクがある。