□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第364回配信分2011年04月18日発行 想定外事故への対応の基本は安全退避 〜想定外トラブルを想定のマニュアルは難しい〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●本当に、時間が経てば経つほど今回の大震災の影響を大きさ、深刻さを感じ ることが多くなってきた。当初、震災=地震というイメージで感じていたが、 東日本大震災というより、東日本大津波という名称のほうが事態を正確にとら えているように感じる最近の毎日だ。とにかく、あまり事態が好転する情報が ないので、聞けば聞くほど気分が滅入ってくる。東日本から遠く離れている近 畿地方に住んでいる我々でさえそうなのだから、当事者の心痛はいかばかり か。 ●大津波と原発トラブルが今回の大きな被害をさらに大きくして、深刻さを増 している。特に原発のトラブルの影響は深刻だ。なにせ、放射能と言う眼に見 えない敵と戦わないといけない。眼に見えないだけに、どう対処していいか分 からないし、被害者にとっては非常に無力感、脱力感にさいなまれる毎日だろ う。農作物、家畜、在庫、資産などあらゆるものに影響が波及する。東電は賠 償金に応じるだろうが、とても一民間企業で払える額ではないだろう。いずれ 国有化されることになるかもしれない。 ●一度起こってしまった災害だが、今回の災害はまず起こった地震の大きさも さることながら、その後に起こった大津波、原発事故が被害を圧倒的に大きく した。そういう意味では、東日本大津波災害だ。そして、あれくらい安全、安 心といっていた原子力発電所が事故を起こした。すぐに廃炉の決断ができなく て、何とか建物や設備を救おうと思ったことが間違いだった。しかし、現場を 責めることができない事情もあるだろう。なにせ、1000年に一度の想定外の災 害だから。 <リスクマネジメントの基本は発生頻度×被害の大きさ> ●成岡はリスクマネジメントの専門家ではないが、それでも同じようなテーマ で何回か講演をさせていただいている。リスクマネジメントの基本は、リスク をどう判断するか。それには、リスクの発生頻度×被害の大きさという考え方 で対処方法を考える。手立てを考える。この掛け算の結果を大きい順番に並べ る。そして、その結果の深刻さに応じて対処方法を検討する。対処方法に関し ては、いろいろな切り口があるが、どれくらい費用と手間をかけるかが大き い。 ●リスクの発生頻度という要素で、今回の想定外であったか、なかったかとい う切り口が問題になる。1000年に1回の震災を想定して対処方法を考えるか、 起こったことは起こったことで、その後の対処方法を事前に考えておくか。し かし、現場的に言うとこういう事態のときには、人間がやることだからそこに 判断と言う要素が入る。そうなると、事前に決めていた手順、対処方法などが 役に立たないという事態が起こる。そこでさらに被害が拡大する。 ●今回も外部からの電源が来ないと言う事態が想定されていなかった。原子力 発電所に電気が来ないと言うのも、非常に皮肉なことだが、考えてみれば起こ り得ない話しではない。そして非常用の発電機が想定外の大津波で、使用不可 能になった。だいたい、被害の大きなトラブルはこのように二重のトラブルが 重なったときに、大きな事故に結果的になってしまう。そこに作業員の、人間 の判断が入るから、余計にややこしくなる。決して責められないが。 <想定外のことが起こると異常な心理になる> ●成岡の在籍した製造業メーカーは、化学繊維を製造していたから24時間365 日止まらない連続操業の工場だった。最初の5年間は製造現場の開発部門にい たから、毎日毎日かなり危険な職場で仕事をしていた。反応温度は285度Cくら い。加熱する媒体の温度は350度Cくらい。高圧蒸気、熱水、高圧電気など、そ れこそ原子力発電所なまではいかないが、相当危険なユーティリティとお付き 合いしていた。いろいろなことがあったが、かなり危険な事故にも数回遭遇し た。 ●一番こういう製造工場で大きなトラブルになるのは、電気関係の事故だ。実 際に起こったのは夏場の落雷。そして電力会社からの3300Vの高圧送電線に落 雷し、外部からの電源が落ちてしまった。そこで起動するのが自家発電装置。 しかし、このときは自家発電の発電機がなぜか起動しなかった。少し遅れて起 動したらまだよかったが、原因は覚えていないが全く起動しなかった。かく て、3000名の従業員が働く大工場で、大停電が発生した。 ●成岡の職場でも非常灯しか点灯しないという事態となった。昼間だったが建 物の中は非常灯のみ点灯するという異常事態となった。回転するものはことご とく止まり、温度は急激に落ちていく。蒸気も、熱水も、水も、何もかもが止 まってしまった。集中制御室のパネルには異常ランプが山ほど点滅し、アラー ムが鳴り響き、警報の回転灯が回転し、生きた心地がしなかった。温度を示す 打点計測器まで止まってしまった。かなり度胸があったほうだが、あのときは さすがに胸が締め付けられた。 <想定外のトラブルを想定したマニュアルは難しい> ●初めての経験だったが、基本的にこういう事態のときは必ずシステムは安全 退避の方向に動くように設計されている。温度は冷却する方向に働く。爆発の 可能性がある反応器には不活性ガス=窒素が入るように設計されている。しか し、非常用の電源が来ないからすべてのシステムが安全に作動しない。そこで 人間が判断して手動で操作しないといけない。だいたい省力化で作業員は極力 削減されているから、こういう事態を想定したマニュアルは準備されていな い。 ●とにかく、対応の基本は安全な方向に誘導することだ。優先順位を間違えな いことだ。このトラブルのときは、停止作業の反応器を間違うと言うトラブル が発生した。パニックになった作業員が上のフロアーに駆け上がり、先に停止 する反応器と隣の系列の反応器を間違えて停止した。そのため、非常に危険な 状態で反応器が停止したため、異常な状態で固化してしまった。停電が復旧し たのは、12時間後だったから、それからこの反応器を溶解するのは非常に危険 な作業となった。 ●停電時に非常用発電機が動かないという想定外の事態と、作業員のパニック によるミスという二重三重のトラブルが重なって、大きな災害になった。その 後48時間不眠不休の復旧作業を行い、系外に取り出したときに可燃性ガスが発 火するという小さな事故で済んだ。このときに学んだことは、想定外の事態で 人間は間違う可能性が高いということだ。間違っても安全退避になるように、 日頃から訓練しておかないといけない。想定外のトラブルを想定したマニュア ルを作成するのは難しい。