□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第394回配信分2011年11月13日発行 全員が納得するような結論は有り得ない 〜反対は必ずあるが一生懸命説明する〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●TPPで大揉に揉めたこの2週間だった。国論を2分するかと思うくらいの大 論争だった。誰かが平成の開国と言っていたが、まさしくそのような感じを抱 かせる大きなテーマだった。言い出したのは、前の首相の菅さんだったが、あ の人は簡単にフライングして国会で交渉に参加すると演説で言ってしまった。 言ってしまってから、ことの重大さ、影響の大きさに気が付いて、慌てて議論 することとした。野田さんが重たい宿題を背負った。しかし、こういう問題は 先送りするわけにはいかない。なにせ、そこにバスが来ているのだから。 ●乗るのか、乗らないのか、はっきりしないといけない。行き先も曖昧で、乗 車賃もよく分からない。まして、社内の混雑具合も分からない。そんなバスが 来たときに、あなたならリスクを取って乗れるかと言うことだ。では、全部が 完璧に分かれば乗れるだろう。しかし、全部が完璧に分かったときは、もうバ スは停留所を通過しているのだ。よく分からない、条件が見えない、いろいろ な懸念がある、そういうときでも経営者は決断しないといけない。松下政経塾 では教えないテーマだ。MBAでも難しい。 ●つまるところ、基本的な方向性が正しいかどうかだろう。枝葉末節なことを 言い出したら、絶対に何かまだ不備があるだろう。あらゆる障害が起こる可能 性を排除することなど、到底不可能だろう。しかし、利害関係者は多岐にわた る。自分のことになると、利害が優先する。総論は賛成でも、各論には反対す る。特に自分の利害に関連するところは、徹底的に反対する。人間とはそうい うものなのだ。だから、そういう人間が集まっている現代社会で、みんなが賛 成する案などないだろう。あると思っているなら、相当な楽天家だ。 <過去の偉人は偉かった> ●偉かったから偉人なのだろうが、特に徳川の時代から明治維新への移行の時 点では、それは大変だっただろう。外圧の影響で開国し、武家社会は崩壊し、 天皇制に移行する。江戸城を開城し、皇居とする。徳川家は普通の大名にな り、武士は全員失業する。幕府もなくなる。士農工商の身分制度もなくなる。 海外との交渉が始まる。幕藩制度から廃藩置県が行われる。憲法を制定し、国 会が設けられる。選挙が行われる。学校制度が始まる。いやはや、なんともド ラマチックだ。その時代に生きたかった。 ●それに比較すると、今回のTPPはまだ問題が小さいのだろうか。利害関係者 は多いだろうが、明治維新に比較すると、そう大したことではない。明治維新 は、ひとつ間違うと日本が海外の植民地になっていた可能性がある。国内で内 戦が起こったら、事実あったのだが、海外の列強が日本国を分割統治しただろ う。九州はオランダ、四国はフランス、本州はアメリカとイギリス、北海道は ロシアなどという分割統治国になっていた可能性がある。それを見事にクリ アーした明治の偉人は本当に偉かった。 ●誰が一番偉いとか、そういう問題ではない。ときに、やはり日本は開国し、 近代的な国家に生まれ変わるのだという大方針があった。イデオロギー的には 諸説があっただろうが、最後はこの一点に全員がベクトルを揃えた。だから、 一致して国難に当たれた。少々の軋轢、諍い、争い、不協和音もあっただろう が、それを何とか乗り越えた。それに比較したら、今回のTPPはまだことが小 さい。これから日本は少子高齢化にもっと進んでいくのだから、もっと重たい 課題が山積するはずだ。これは、まだ序の口だ。 <全員が納得する答えはない> ●明治維新でも、今回のTPPでも、全員が一致納得する解決方法などは、そも そもない。何か決めれば、利害が対立する人が出てくる。少々の揉め事がない はずはない。まして、平成の開国などと言う一大事件で、利害が対立するのは 当然だ。現代はゼロサム社会だから、誰かにメリットがある案件は、誰かがマ イナスを蒙る可能性が高い。全員がハッピーなどと言うことは皆無だろう。そ こは、リーダーが、組織のトップが毅然として結論を出さないといけない。配 慮は必要だが、おもねることはない。 ●一番悪いのは結論を先送りして出さないことだ。それは出さないことの罪に なる。自分の時代にいやなことの結論を出して悪者になりたくないから、先送 りにする。あるいは、誰かに丸投げにする。自分は決めないで、人に決めさ す。そして、何かあったらその人のせいにする。これがリーダーとして最悪の パターンだ。結論を出すときは、リスクは付き物。それを恐れていたのでは、 何もできない。いい加減に決めることとは違うが、最後は決断しないといけな い。その際に全員が賛成する答えなどない。 ●むしろ、通常は反対の多いほうを選択しないといけないことのほうが多いだ ろう。民主主義とは非常にコストと時間とエネルギーのかかる決定方式だ。そ して、多数決だから必ずしも正しい選択がされるとは限らない。企業では、普 通の会議などは多数決ではないから、最後はトップが意思決定する。それはそ れでいい。その際に、みんなが納得するように中途半端な答えを出すことは、 やめたほうがいい。誰かを傷つけるとか、誰かがまずいとか、そういう属人的 な理由で意思決定してはいけない。 <一生懸命説明を尽くすこと> ●説得は出来ないが、説明は一生懸命やる。納得はさせられないが、説明は懇 切丁寧に行う。面倒だからと手抜きしてはいけない。部下は、参加者は、あれ くらい一生懸命説明してくれたことに対しては、納得するはずだ。その内容に は納得しなくても、一生懸命説明する熱意や態度には心が動くはずだ。ゆめゆ め面倒だから手抜きしてはいけない。自分が不得意だから、外部に押し付けて はいけない。一番大事なことだから、自分でリスクを取って、自分で一生懸命 行う。その姿勢をみんなは評価する。 ●一回でダメな場合は、何回でも行う。時間を都合して、数回にわたり行う。 同じことを繰り返し言うだけでも、数回チャンスを作る。当方の都合だけで決 めてはいけない。時間帯も数回に分ける。ここは自分が出て行って、必ず責任 者と言う立場で、自分の言葉で自分でしゃべる。人に原稿を書いてもらって、 読むだけというのは良くない。見ていれば分かるから、話しがうまくなくて も、人はその真摯な姿勢を評価してくれる。社員が家に帰って奥さんに出来事 を話すときに、その態度を評価するものだ。 ●トップはことを決めるのが仕事だから、熟慮断行が必要だ。そして、みんな が賛成しないことも決めないといけない。特に後ろ向きのことを決めるとき は、全員が反対すると思っていないといけない。何かを止める、廃止する、廃 棄する、撤退する、捨てる、などなど。前に行く案件はみんな賛成する。後ろ に行く決断は、みんな反対する。しかし、敢然と決めないといけない。説得は 出来ないが、説明を一生懸命にする。なぜ、その結論に至ったのか。素直に なって説明する。その姿勢を見せることが大事なのだ。