□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第397回配信分2011年12月05日発行 役員の責務とは何か:その2 〜社長と握ったミッションが明確か〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●先週号でカリスマトップになかなかものを言うのが難しい取締役のことを書 いたら、多くの読者の方から反応があった。特に、最近読売巨人軍の事件が泥 沼化していたり、オリンパス事件の真相が徐々に解明されていたりすると、余 計に身につまされる実感が読者にあるのだろう。この苦労だけは、した者でな いと分からない。そういう境遇に身を置いたものでないと分からない。本当 に、ストレスが溜まり、胃潰瘍になる。親しい某氏からの感想には、本当に同 情を禁じえなかった。それくらい悩みは深い。 ●ことが会社の業績、存続に直結する場合が多い。ここで自分が腹を切らない と大変なことになるかもしれないと思うと、それこそ夜も眠れない。成岡は、 最後の企業でトップのIPO(株式公開)に真正面から反対した。そもそも、そ の企業がIPOを目指していて、そのミッションのために中途で入社したような ものだから、その当人が反対することは非常に勇気が要った。しかし、結局役 員会ではIPO促進という結論になり、最終的には辞表を出して役員を辞した。 巨人軍の清武GMと結果は同じになった。そして退職した。 ●最終的にはIPOは出来なかったが、当時の判断は今でも正しかったと思って いる。トップの方針に反対するということは非常に勇気の要ることだ。何も義 憤にかられての行動ではない。正しく情勢を分析し、当時の企業の実態を判断 し、総合的に考えての結論だが、なかなかそれを合理的に説明し、納得しては もらえなかった。やはり、外部の利害関係者にIPOの日程なども、もう既成事 実として表明していた。それをいまさらちゃぶ台をひっくり返すことなどでき ないと。それも、至極もっともだったが。 <社長と握った役員としてのミッションは何だったか> ●当時その企業では当然、毎年毎年事業計画のブラッシュアップを行い、当年 の計画を立て予算化し、収益計画を利害関係者に公表している。その業績管理 と社内の経営管理が成岡のミッションだった。また、当然将来IPOを計画して いるので、そのための社内体制の整備が急務の課題だった。業績の変動はあっ たが、むしろ問題は社内体制の整備だった。平均年齢が27歳と若い企業だった だけに、まだ色々なことが未整備だった。諸規定や規則、業務のフローなど も、まだ発展途上だった。 ●それをきちんと上場準備ということで、未整備案件を整備することが成岡の ミッションだった。しかし、発展途上の企業であるがゆえに、いろいろな案件 が目白押しで、業務のフローも頻繁に変更になったり、体制や組織図が変わっ たりで、なかなか諸規定や業務フローの確立が難しかった。営業は営業で走 る、フォローする業務部門は業務部門で課題が山積になる、管理部門はスタッ フがいない。京都本社と東京支社との業務の切り分けと役割分担が明確に出来 ない。混乱も頻繁に生じている。 ●監査法人から指摘されていた改善項目がなかなか進まない。評価制度もまだ 毎年手を加えて変更変更が続く。発展途上だったから、毎年優秀な新卒者や中 途採用者が入ってくる。学歴は高く、キャリアは素晴らしい。社長がリクルー トに在籍されていた人物だったから、採用もリクルート方式で、優秀な人物を どんどん採用するという方針だ。そうなると、社内の体制が未整備だとほころ びが各所に見え隠れする。先の読める優秀な新人は、モティベーションが一気 に下がる。 <トップと本当にきちんと握らないといけない> ●当時のトップと10歳くらい年齢差のある状態だったから、ものを言うのも気 を遣った。ご意見番的な立場でもあった。ヘッドコーチのようなミッション だったが、ひとつの現業部門の責任者だったから、二足のわらじを履いている ようなものだ。部分最適も求められ、全体最適の調整役でもある。社内、社外 に向けて相反する利害の調整がなかなかつかない。まして、IPOなどを目標に するなら、なおさらだ。この部分で本当にトップと自分がきちんとミッション を確認しあっていたかといわれると、非常にこころもとない。 ●最近担当してる案件でも、似たような事例は山ほどある。たいてい、一族、 同族、息子さんを役員にしている場合が多いが、社長と役員との間でのミッ ションの確認、握りがきちんと出来ていないケースが多い。生々しい話しを会 社の中でしにくいという状況、環境もあるだろうが、面と向ってまともに議論 する風土がない。営業の責任者なのか、製造部門も責任を持つのか、組織図と ミッションが一致しない。言っていることと、実際にやっていることが違う ケースが非常に多い。形だけを作っている。 ●トップ側にも責任がある。特に高齢の社長さんの場合、こういう風にはっき り明確にミッションを決めるなどということを、従来やっていない。何とな く、何となく、各自が自覚してやっている。社長は業界のお付き合いと、金融 機関との交渉と、保証人という立場で行動している。それでいいと思ってい る。しかし、今まではそれでよかった。しかし、これからはもっと厳しい経営 環境になる。競合各社が必死になって改善、改革をしている。ぼやっとしてい ると、すぐに置いてきぼりになる。そういう自覚が少ない。 <トップと役員とのコミュニケーションが大事> ●期初の4月に一度面談をきちんとして、握ったミッションが年間通じて不変 であるとは思えない。当初の計画が、予算が早くも第一四半期からずれてくる ことも多い。金融機関に約束した再生計画も、その通り行くとは到底有り得な い。そういうときに、臨機応変にタイムリーに役員さんのミッションに修正を 加えて、変更を加え、計画の達成に邁進する体制にもっていかないといけな い。そうなると、毎月1回の役員会ではフォローできない。毎週開催されてい る企業もあるが、それくらい柔軟にマネジメントしないといけない時代だ。 ●口で交わした会話をできるだけ要領よく文書にしておく。簡単でいい。難し く考えないで、社長と役員が握ったミッションを常時確認するために、同じも のを見ておく。できれば、それを公開したほうがいい。非公開にしたいことも あるだろうが、出来る限り社長と役員が握ったミッションはオープンにする。 成岡の経験では、社長室にホワイトボードを設置して、そこに簡単に各自役員 ごとに社長と握ったミッションを箇条書きに書いておいた。誰もがオープンに それを見ることが出来た。非常に分かりやすかった。 ●外部からの来客者が見るのは好ましくないが、社内の誰もがそれを見ること ができた。ホワイトボードのミッションは、さらに詳細になり随時社長室に呼 ばれると、そのホワイトボードを見て会話が交わされる。終了すれば消される が、終わらないとずっと同じコメントがホワイトボードに残る。そのうちに文 字が赤字に変わる。赤字のテーマは難しいか、進んでいないか、緊急度が高い か、何か重要な意味の表示だ。役員によっては、赤字のテーマがすらっと並ぶ 人もあった。トップと役員との相互理解を図ることが最も重要だ。