□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第410回配信分2012年03月05日発行 想定外の事態にどこまで備えるのが正しいか 〜日常のリスクにどこまで対処するのか〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●最近、震災から1年経過して回顧的なTV番組も含め各所でいろいろな講演や セミナーなどが行われている。1年経過すると、さすがに冷静に当時を振り返 り、あのときこうだった、ああだったと反省しながら今後に経験を活かそうと いうアクションが起こっている。それはそれでいいことなのだが、反省から何 を導いて、何を今後に対処するのか。まだ依然として政府や国としての指針は 出ていない。それより、まだ目先のことをどうするかで右往左往しているのが 実情だ。少し遅くないか。 ●地震と津波以外の原発事故の後遺症が一番大きい影響を及ぼしている。特に 東京電力始め、関西電力もそうだが原子力発電所の継続運転ができなくなっ た。もうすぐ日本で稼動している原子力発電所が全くなくなるという、前代未 聞の事態が発生する。しかし、行政も、地方自治体も、学術団体も、何も有効 な手を打てない。そうこうしているうちに、火力発電所を稼動さすためにLNG などの燃料の輸入が急増し、貿易収支が赤字になった。これが続けば国内資産 が目減りしていく。 ●電力料金が値上げになると、現時点でも高い電力料金がさらに一層のコスト アップになる。税金も高い、電気代も高い、労務費も高いなどという構造で は、事業としての収支が成り立たない。当然、成り立つ場所に工場を移転する こととなる。従って、中国や東南アジアに製造拠点を移すか、あるいは現地の 企業を円高の追い風に乗って買収することとなる。事業の継続、成長を考える と、当然のアクションだ。誰も、それを止められるだけの資料や要因分析した ものは、まだない。 <どこまでの事態を想定するか:その1> ●まず、連絡がうまくいくかどうかということが非常に大きな要因になる。電 話もファクスもメールも、あらゆる連絡手段は正常に稼動するという前提での 訓練がほとんどだ。どこかの連絡網が遮断されたという想定での訓練は、実は ほとんど実施されていないと思う。成岡が在籍していた製造業の訓練でも、当 時の連絡手段のトランシーバーが機能しなかった経験がある。充電不足か電池 切れかは忘れたが、訓練とはいえ最大の重要なトランシーバーが使えない状況 ではパニック寸前にまでなった記憶がある。 ●停電も何回か経験した。瞬間停電と全停電と両方あるが、もちろん深刻な事 態は全停電だ。普通は自家発電装置がすぐに起動するはずだ。しかし、停電の ときに一度だけ自家発電装置が起動しなかった。停電は中部電力の送電線への 落雷だから、これはそんなに珍しいことではない。しかし、災害に想定外の事 態が上乗りして、大きな事故になった。このときは3日間くらい不眠不休で復 旧にあたった。小さな発火事故も起こったし、けが人も出た。工場全体がパ ニックになった。 ●そのときに温度計の異常が発生した。2箇所ある温度計が両方とも異常な温 度を示した。どれが正しい温度か、皆目分からなくなった。予備の温度計まで が故障するという事態は、想定していなかった。しばらく完全に盲目運転に なった。非常に危険な状態だったが、とにかく冷却し冷却し温度を下げるしか なかった。しかし、表示されている温度は200度近い温度のまま蛇行し迷走し ていた。とても冷静な判断ができる状態ではなかった。血圧が上がり、心拍も 早くなった。ここから逃げたいと思うようになった。 <どこまでの事態を想定するか:その2> ●トラブルの際に一番避けなければいけないのは、二次災害を引き起こすとい う事態だ。起こったトラブルは止むを得ないとして、それだけで収まれば何と か凌げるだろう。マニュアルもだいたいそういうところまでの事態を想定して いる。しかし、トランシーバーの電池が切れていたり、2箇所ある温度計の両 方ともが動かないという事態は想定していない。温度計のメーカーもそこまで の事態は想定していない。だからそういうことは起こらないかというと、本当 にまれな確率だが起こり得る。 ●1つの温度計が故障する確率が100分の1だが、両方とも故障する確率は、 100分の1と100分の1の二乗だから、10,000分の1となる。常に10,000分の1 の事態を想定するとなると、これは非常にコストのかかることになる。だから 設備的にはそれは行わない。間接的に温度が判断できる装置を設置して、それ で代行することとした。かように、ひとつのトラブルが起こることは珍しくな い。その際に、重なってもうひとつのトラブルが重なると、相当深刻な事態を 引き起こす。それを防止することが重要だ。 ●そういうポリシーであらゆる設備の防災対策が施されている。ひとつのトラ ブルは機械のことだから必ず起こる。問題は二次災害を起こさないために、ど う供えるかだ。緊急連絡で言えば、連絡したがつながらないという事態だ。そ れに備える代替策を用意しておかないといけない。FAXも携帯も正常に作動し ないこともある。その際にどうするかの手順を決めておく。その準備がない と、パニックになり、必ず二次災害が起こる。そうなるとかなり深刻な事態に なることは避けられない。 <日常のマネジメントでも代替案を> ●対応策がひとつしかないという事態が非常に危険なのだ。月末にこの売掛金 が入る。それでこの仕入の支払と給料を払うという目論見が、売掛金の先の企 業の都合で少し遅れただけでパニックになる。商売だから、そういう不測の事 態も起こり得る。すべて当方の都合どおり運ぶとは限らない。確かに先方の問 題だが、その売掛金が入らないとにっちもさっちもいかないという前提が問題 なのだ。そういうリスクのある資金繰りが続くと、どこかでトラブルが起こ る。月末に資金不足になる。 ●おそらく何かの支払を先延ばしにして対応するのだろうが、そういう異常事 態を繰り返していると、必ず事故が起こる。そもそもぎりぎりで月末を迎える こと自体が、正しくない。多少の融通ができるくらいの繰越金がないと、本当 に商売は続かない。分かっているが対応できないということは、相当に事態は 深刻だということだ。二次災害が起こる危険性が高い。早晩、手形の資金繰り で行き詰る。デフォルトが起こる確率が高い。何らかの資金手当てをしないと いけない。しかし、それが出来ない。 ●こういう企業は結構多いだろうが、首の皮一枚でつながっている状態だ。大 きな入金をあてにして、それで大半の資金繰りをまわすつもりなら、くどいく らい入金を徹底的に確認しないといけない。半分だけでも先にもらうことをし ないといけない。二次災害を起こさないための最低限の準備と段取りをしない といけない。日常のリスクにどこまでの対策を打っておくのか。それもできな いなら、いつ大事故につながるか分からない。常にそのような事態を想定し、 危険を回避する手立てを打っておくことだ。分かっていることとできているこ ととは違う。