□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第422回配信分2012年05月28日発行 棚卸の重要性を改めて認識する 〜きちんとした棚卸が正確な利益把握の原点〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●いろいろな企業の経営改善のお手伝いをしていると、本当に様々なケースに 遭遇し、なんと企業の運営の形とは千差万別だなと改めて認識することが多 い。とりわけ、今回のテーマに挙げた「棚卸」に関しては、本当に企業によっ てその取り組む姿勢はいろいろだ。びっくりするような方法をされているとこ ろもあるが、当方が感心するくらいきちんとされているところもある。しか し、この面倒な「棚卸」という作業を、どれくらい継続的にきちんとできるか が、経営者の経営姿勢を表している。 ●成岡も出版社に15年在籍していたときに、この棚卸にも当然メンバーとして 加わり、作業を行った。非常に面倒で、場合によっては少々危険な作業のとき もある。物流倉庫に行って、書籍の在庫をカウントするのだが、これが結構難 しい。冊数を勘定するのだが、ばらばらに積まれていると、正確にカウントす るのが非常に手間がかかる。また照明が暗く、端に置いてある書籍の数量をカ ウントするのは、非常に難しい。簡単そうに見えて、案外手間取る作業なの だ。 ●ようやく数箇所に分散していた在庫のカウントが終わり、結果を本社に持ち 帰り集計し、入力する。たいていの場合、コンピューターから計算される在庫 数と、実地に棚卸した数量とは一致しない。ほとんどの場合、実地にカウント した数量の方が少ないことが多い。つまり、伝票なしでの出庫がなされている ということだ。つい、見本1冊の出庫を優先し、伝票の処理はあとになる。返 品が戻ってきたときの処理もやっかいだ。つい、後回しになり数字が合わなく なる。 <年間に1回しかしない企業も> ●この面倒くさい棚卸という作業は、やったから売上が増加するわけでもな い。労力と時間がかかり、手間で面倒だ。よって、毎月きちんと実施するくせ が付いていない。挙句の果てに、年に1回だけ、それも決算のときにしぶしぶ 実施することとなる。そこで、在庫の数量を実際にカウントしてみて、今まで 想像で計算していた利益の金額が全く異なることに愕然とされる企業も多い。 また、不良在庫が明確になり、実際には棚卸資産として評価できない商品も多 く見つかる。 ●業種、業界にもよる。材料が発注者から支給で、受託生産をしている企業で は、あまり棚卸資産が多くない。ほとんどない企業もある。その場合は構わな いが、製造業などでは実際に原材料を購入し、製造加工する。できた製品を全 部出庫するならいいが、大半は出庫しても一部は取り置きになる。期限のつい た製品もあるかもしれない。その在庫管理、原材料の管理は重要だ。あると 思っていた原材料がなかったり、引き当てのシステムが不正確だと混乱する。 ●卸売業、小売業などはもっと大変だが、重要だ。いくつ仕入れて、いくつ売 れたか。現在の在庫の数量と金額はいくらあるのか。売上との比率が回転率だ が、どの商品の回転率がよくて、どの商品の回転率が悪いのか。適正な在庫数 量はいくらなのか。発注のタイミングは定量発注か、定期発注か。そのような 重要な経営指標を正確に把握するためには、きちんとした棚卸作業が欠かせな い。それも毎月毎月きちんとできていないといけない。継続性が重要だ。毎月 実施するのが大変だと言われる企業も多いだろうが、一度手を抜くと永久に毎 月実施体制にはもどらない。ここで経営トップの姿勢に差が出る。 <やらないと気持ちが悪い> ●人間とはなかなかわかっているけどできないことが多い。いや、やればいい とは理解しているが、何らかの理由をこじつけて実施しない。できない理由を 他人事のように並べて、それで理解納得している。自分で自分に許容範囲を決 めて、まあこれくらいならいいだろうと妥協する。その妥協の連続が、当たり 前にやることができなくなる。棚卸作業の実施などは、まさにこの典型だ。や れば利益が増加する作業ではないが、やらないと正確に会社の現状が把握でき ない。しかし、やらない。 ●毎月きちんと実施する癖がつくと、食後の歯磨きと一緒でやらないと気持ち が悪い。本当に今月の試算表は正しいか分からない。毎月毎月税理士事務所に 高い報酬を払って試算表を計算してもらって、なおかつその数字が信用、信頼 できない。年間で相当な費用がムダに支払われている。そんなことは気にもか けないで、必要な営業の費用を削減することに一生懸命な社長さんもいらっ しゃる。永年、これでやってきたんだからいいじゃないかというマインドが染 み付いている。 ●しかし、業績が右肩上がりで成長している時代なら、どんぶり勘定でも最後 に帳尻があった。しかし、現在ではそうはいかない。大手電気メーカーの惨憺 たる業績の凋落を始め、多くの中小企業が業績の悪化に苦しんでいる。円滑化 法の期限切れに対しても、有効な手建てが打てないまま、時間がどんどん経過 していく。しかし、この環境下でも何とか好調な業績を維持している企業もあ る。やはり、毎月きちんと棚卸を実施し、きちんと収益の状況をつかんでい る。 <最後はトップの意志で決まる> ●何事もそうだが、最後はトップの意志で決まる。社長が決断しないとできな い。大企業のように優秀な役員や上級管理職が多くいる企業なら、トップを補 佐するスタッフも揃っている。相談して、確実な意思決定ができる。しかし、 中小企業はなかなかそうはいかない。かくて、トップの決断そのものが、企業 の将来を大きく左右する。たかが在庫や原材料の棚卸と思うかもしれないが、 実際にどれだけのものを仕入れて、どれだけのものが売れて、どれだけのもの が残っているのか。 ●売上から原価を引いたものが粗利だというのが常識なら、その原価が正確に わからないと正確な粗利がわからないというのは、子供でも分かる理屈だ。売 上は比較的正確につかまるから、原価を正確につかむために棚卸が必要とな る。これを手抜きしてやっていると、本当の利益が分からない。売上は順調な のに、なぜか手元の現金が減っていく。非常に不安になるが、理由がどうもよ く分からない。おそらく、仕入れた商品や材料がだぶついているのではない か。おそらくになる。 ●そして、決算期になって、数字はシビアに出てくる。やっぱりそうかという 事態になりかねない。本当に、冗談ではなく一度この棚卸で失敗すると痛みが 身体に染み付いてわかるようになる。残念ながら、人間は自分でケガをしない と痛いことが分からない。しかし、本当にそういう事態になってしまってから では、手遅れになる。手間のように見えるかもしれないが、食後の歯磨きと同 じで、棚卸をやらないと気持ちが悪いというくらいに、身体に染み込ませるこ とが大事だ。数字が見違えるくらい正確になる。