□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第449回配信分2012年12月03日発行 一族同族経営の企業での意思統一の難しさ 〜社員や従業員は黙ってよく見ている〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●日本の中小企業では、まだかなり多くの企業が一族や同族で経営されている はずだ。株式を公開していない非上場の企業が多い中小企業では、所有と経営 が表裏一体で運営されていることが多い。それはそれで、長所でもあるし欠点 でもある。メリットもあるし、ディメリットもある。個人保証や担保提供の問 題が絡むから、どうしても中小企業では創業者一族やその同族で経営すること になるケースが多くなる。従業員に経営のバトンタッチ、事業承継が出来た企 業は非常に少ない。 ●成岡が所属していた企業は、成岡の義理の兄(義兄=成岡の妻の兄)が代表 取締役社長だった。まだ存命だし、当時の関係者も現役なので、あまり仔細に 日経新聞の「私の履歴書」を書くわけにいかないが、それでも20年間の同族経 営陣に身を置いていた立場から、いろいろと考えることは多い。ある意味、同 族経営は分かりやすいが、逆にそれが両刃の剣になり、マイナス面が大きい場 合も多い。実際に成岡が同族経営陣として参画していた企業は、バブルの崩壊 から数年後、あえなく特別清算となった。 ●会社がつぶれたという実感は、実は土壇場の前後ではあまりなかった。こう いうと少々おかしいが、とにかく日常のオペレーションを何とか回し、特別清 算といえどもおカネの面やビジネスの面で、ある日突然に業務が完全に停止す るわけではない。結局、後始末も含めて3年間くらいは、この影響が大きく響 く。取引先との清算やもめごとの対処、300名いた従業員、社員の身の振り 方、土地建物などの固定資産の処分など、実際に自分の身の振り方を考えるま でに数年間は要した。 <役員同士が疑心暗鬼になる> ●当時の経営陣の構成は、まず一番長兄である義兄の代表取締役社長。3歳下 に関連会社の副社長をしている二番目の義兄。その人と同い年で成岡の妻の実 姉と結婚している義兄。そして成岡の4兄弟構成だった。実際に出版社の経営 に直接参画しているのは、二番目の義兄を除いた三名。そして営業部門のトッ プが代表取締役社長と同い年の従兄弟の男性。別途、社外から、金融機関支店 長経験者や某出版社の役員をしていた人、大手印刷会社の部長を歴任した人な どの8名構成だった。 ●しかし、同族役員を除いては全員外部からの招聘であり、登記上の役員では あったが従業員役員の身分の人もいた。しかし、会社の経営がおかしくなり、 資金的な困窮が明確になると、役員諸兄はどんどんと退社していった。結局、 最後まで残ったのは同族だった。しかし、その同族一族でも、経営が傾いてく ると、意思統一はできない、意見はばらける、責任の所在をめぐって紛糾す る、ベクトルが一致しない。それを本当に船が傾きながら、目前でいさかいが 起こる。 ●今までOKだったことが、今日からダメになる。方針がころころ変わる。資金 手当てのために、いままで禁じ手だったことを平気でする。途中で日常業務が 完全に停止する。もちろん役員報酬の遅延は発生する。手形のジャンプのため に東奔西走する。とにかく、資金の切れ目が会社存続の分岐点だから、すべて の判断はおカネになる。忙しいが、精神的な消耗は非常に激しく、役員同士が 疑心暗鬼になる。誰か抜け駆けするのではないかと、それは疑いの目で人を見 る。 <意思統一ができないジレンマ> ●平時の日常でも、同族役員間の意思統一は難しい。本来役員会で議論すべき ことが、全く無視して別の宴席で決定される。一族の特定の人間でいろいろな ことが最後に決定する。このことを決めようと思ったら、誰々に先に根回しが 要る。派閥ができたり、グループを形成したり。部下の管理職を巻き込んで、 外部のお客さんへの営業活動より、社内営業活動が忙しい。それに時間とおカ ネと労力を莫大にかけることになる。おかしいと思っていても、目先の案件を 処理することが優先になる。 ●経営陣の意思統一ができなくて、意見がばらばらになると、誰もが火中の栗 を拾って対策を打つと言うことをしなくなる。最後は社長が面倒を見るだろう という一種の保険がかかっている。なにせ同族一族だが、責任と権限が異な る。個人資産まで担保に入れている代表取締役と、同族ではあるが代表権のな い役付き役員とでは、鼎の軽重が格段に違う。どんなに言っても、頑張って も、最後の最後の責任は取れない。そうなると、言っていることに責任が100 %持てない。 ●最後は莫大な金融機関債務を反故にして特別清算となった。子息への事業承 継とは異なるが、同族一族間でのマネジメントが破綻した例なのだ。しかし、 同族中小企業では、決して珍しいことではない。大きな金額の投資の可否判 断、幹部人材の採用の可否、大きな方針転換の是非、外部との提携案件の是 非、などなど小さな中小企業だったが、それなりに大きな山の案件は結構あ る。そこでのぎりぎりの判断を本当に意思統一して同族役員間できっちりでき るか。なかなか難しい。 <きちんとした情報公開ができなかった> ●賞与の支給や金額の決定、昇給昇進、組織の変更なども、企業の意思がはっ きり従業員に分かるいい機会なのだ。しかし、そこで間違う企業も多い。最後 は原資がなかったから、借入して賞与を支給した。本当は支給を見送るべき だったのだろうが、それが出来なかった。従業員に本当のことが言えなかっ た。いい格好がしたかった。しかし、悲しいかな原資がない。ないので、僅か しかできなかった。しかし、従業員はよく知っていた。会社におカネが本当に ないことを。 ●決算の数字や試算表の公開などは、全くしていなかったが、従業員はそれな りによく分かっていた。従業員間の風評もあったが、ほぼ正確に資金の実態を 知っていた。勇気をもって現状をそのまま公開すればよかったが、それを避け た。情けないことだが、それが現実だった。実態を公開すれば、優秀なメン バーがどっと退社することを恐れた。確かに少しはそうだったかもしれない が、正直に公開して、きちんと説明することが大事だった。あえて正面から対 峙することを避けた。 ●同族役員間で意見が食い違うことも、社員はよくご存知だった。誰の、どこ からそういう話しが漏れるのか分からないが、社内に疑心暗鬼の空気が蔓延し た。そうなると、立て直すのは難しい。何を言っても、説明しても、説得して も、通じない。最後は、悪循環になり、沈む船からねずみが一斉に退散するよ うに、びっくりするくらい早い速度で幹部や社員が散っていった。結局、同族 一族の役員が裸の王様だった。恥ずかしいがそれが現実だった。いまさら反省 しても遅いのだが。