□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第454回配信分2013年01月07日発行 日体大30年ぶりの箱根駅伝総合優勝の秘密 〜原点に帰り精神面からやり直した成果〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●お正月の風物詩にもなった「箱根駅伝」。今年は戦前の予想を全く覆して日 本体育大学(日体大)が総合優勝を飾った。ほとんど全編ずっとTVとラジオで 観戦していたが、初日の山登りでキャプテンの3年生が劇走してトップに立つ と、翌日の復路を危なげなく逃げ切った。復路の優勝は駒大に譲ったが、危な げない逃げ切りだった。復路の全員が区間1桁順位で走りぬけた。30年ぶりの 復活劇だったが、この日を迎えるには、本当に涙の物語があったという。 ●過去を遡ると、数年前から名門大学の古豪クラブに悪魔が押し寄せた。部員 の大麻栽培事件でのシード権剥奪。上級生と下級生の抗争。部員の脱走事件な どなど。そして昨年の信じられない19位。そして予選会からの参加。監督は、 これではダメと感じて、自分を育ててくれた兵庫県西脇工業の監督さんにSOS を頼んだ。そして、その恩師が特別依頼監督として部員を見て、何と言った か。「日常生活が出来ていない。」この一言だった。 ●競技、練習の前に人間としての日常生活、しつけ、礼儀、挨拶など、普通の ことがきちんとできていないという、お怒り、お小言だった。そして、それか らこのクラブは変わった。いや、変わらざるを得なかったのだろう。朝6時の 練習前に必ず、運動場の掃除から始まるようになった。そして、ご存知3年生 を主将に抜擢した監督。軋轢はあったが、それをきっかけに心をひとつにでき た4年生。それを支えたOBや関係者。辛い、苦しい、そして辛抱の1年間を耐 えて、苦しんで、つかんだ勝利。 <一人の人間としてのしつけを教えた> ●挫折を味わった者だけが分かるこのドラマの最終幕が優勝だった。見習うべ きことが山ほどある復活劇だった。下馬表にも上らなかったダークホースの優 勝に沿道の観客は沸いた。ここ数年、有名校が常勝し、スーパースターの存在 が絶対条件だったが、今年は様相が違った。初日の第5区で主将の激送でトッ プに立ったことが、他のメンバーを奮い立たせた。いかに駅伝が、スポーツが メンタルな要素が大きいかを物語ったドラマだった。これに元気付けられて、 後続の走者が自分の走りができた。 ●監督の車から流れるメッセージは、他の学校のことは気にせず自分を信じて 走るようにとのことだった。他校とのタイム差などを気にすると自分自身を見 失う。それよりは、そんなことは気にせず自分を信じることで自信を取り戻し た。そして各自が各自の満足する結果を出して、全部を足し算して最後に結果 を出した。ここまでの苦労は大変なものだったろうが、信じることで目標を達 成した。しかし、その原点はもう一度初心に戻ってやり直そうと言うことから 始まった。 ●日頃の礼儀、生活、しつけができていないと言うことからチームの改革が始 まった。初心に帰れということだが、結果を早く出したいメンバーにとって は、非常に遠い道のように感じたことだろう。グランドの掃除をすることが結 果につながるのか。挨拶をすることが結果につながるのか。しかし、遠回りの ように見えても、監督は結果を優先するより、まず日常生活をきちんと送れる ことを優先した。選手の前に、学生。学生の前に一人の人間としてのしつけを 教えた。 <反対、軋轢を乗り越える勇気> ●タネを植えて作物を育てるなら、まず土をつくらないといけない。農業は土 つくりから始まる。土を作り、畝を作り、それから種をまく。いきなり土がで きていないのに、種を蒔いても作物は育たない。土作りを省略しては作物は育 たない。時間がかかる作業だが、これをショートパスしては結果は出ない。し かし、経営は短期の結果を求める。いや、今年の、今期の業績、結果、利益と いうとそうならざるを得ない。誰も待ってくれない。世間の評価は短期の結果 を求める。 ●あまり長期のスパンは厳しいが、せめて3年から5年の時間はかかる。経営 とはそんなに短期に結果が出るものではない。毎年ならそれは博打に近い。上 場すると短期の結果を求められると言う厳しい状態になるから、必ずしもこれ は得策ではない。特に結果が出るのに時間がかかる事業もある。単に、仕入れ て販売して利益が出るような単純なビジネスモデルではない事業が多くなっ た。特に四半期ごとには到底明確な方向性は出せないビジネスが多くなった。 ●そういう時代に、基礎から人間のしつけ、生活習慣などを教育し、本人が出 来るようになり、それがビジネスの結果に結びつくには、非常に時間がかかる 場合がある。経営者が我慢できるか、ということが非常に重要な判断基準にな る。特に外部から結果を求められる立場にあるときに、果たして「しつけ」 「生活習慣」「礼儀挨拶」など、悠長なことを言えるか。しかし、実はそこが 一番重要なのだ。それに気が付いた日体大の監督は素晴らしい。ずいぶん反対 があっただろう。 <遠回りが実は近道> ●賛成が多いことをするのは簡単だ。軋轢もなければ面と向って対立する反対 勢力もない。しかし、ほとんど結果は出ない。みんなが心地よい環境では、ビ ジネスの結果はでないことが多い。軋轢を乗り越え、反対を説得し、いやがる 組織をその方向に向ける。並大抵の努力ではできない。雑誌や書籍、メディア の報道で、実に簡単に語られるが、一行が数年かかる改革が、実はほとんど だ。単に、メディアの報道で、雑誌の記事で、書籍の内容で、簡単に思っては いけない。 ●一度地獄を見ると、新聞の記事、雑誌や書籍の内容に関して、感じることが 違う。日体大も一度は地獄を見た。しかし、次に着手したのは、「しつけ」 「生活習慣」だった。すぐにランニングフォーム、タイム、走力などのスト レートな環境には着手しなかった。いつ結果が出るとも分からない、出ない可 能性もある「しつけ」「生活習慣」に敢えて手をつけた。そこが実に偉大であ り、この結果の原点だ。それを決断したマネジメント、支えたサポート体勢。 そして、頑なな志し。 ●すべてが凝縮して出た結果だろう。立派だし学習することは多い。大事なこ とは、来年この結果が続けられるかだ。今年だけなら、たまたまのことだと一 蹴される。2年続けて本物だ。1年だけ業績が回復する企業はある。しかし、 3年、5年と業績がじわじわ回復、成長する企業は本当に少ない。特に昨今の 急激な外部環境の変化に対して、生き残れる要件を備えた企業は少ない。しか し、企業経営は、継続した成長結果を残さないといけない。まずは、基礎を固 めること。これが一番近道なのだ。