□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第459回配信分2013年02月11日発行 事業承継での親子間の承継の難しさ 〜やはり基本は徹底的な親子の会話から〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●事業承継の案件は我々にとっても、当事者にとっても非常にメンタルで解決 が困難な案件が多い。理屈で解決できるものは少なく、数字の計画を作った ら、それで終了と言うものでもない。特に、親子間、父親の社長から息子への 承継の場合、すんなり行く場合もあるが、一度ことがこじれると、際限なくこ じれる場合がある。最近担当した案件では、この父親=社長から、長男息子へ の承継の道筋をつけるのに大変苦労した。この案件は、実は解決しないまま継 続している。 ●継続しているので、あまり仔細には書けない。よって、多少曖昧な表現には なるが、そこは多少ご勘弁をいただきたい。永年経営をされて60歳近くになる 社長から、長男の息子さんへの承継案件だから、見た目は特に何がどうという 問題になることはなさそうだ。兄弟も長男の男性以外は全部女性であり、特に 男の兄弟間でよくもめる案件とは異なる。よって、そのまますんなり承継が実 行されてもおかしくない。世間一般ではそう考えるのが普通だ。 ●ところが、現在の経営状態があまり思わしくないから、ことは複雑になる。 金融機関との交渉の場においても、やはり社長の年齢から後継者の存在が非常 に大きな意味をもつ。長期の返済に切り替えるにあたっては、当然社長の年齢 からして、金融機関は後継者の同意を求める。また、社長も後継者としての認 知をきちんとしておかないといけない。まして、この案件では後継者の長男が 社外に在籍し、社長の経営する会社に在籍していない。そこも多少はひっかか る。 <高度成長の時代の波に乗ってきた> ●社外に在籍していても、将来後継者として社内に迎え入れる前提だから、近 い将来そういうことは起こるはずだ。まず、それは近い将来解決できるとし て、課題は経営に対する考え方の相違を、どう解消できるかだ。年齢差は約25 歳。ふた周り異なる。これくらい異なると、当然育った環境は異なり、受けた 教育も異なり、社会に出てからの環境は歴然と異なる。当然、常識も異なれ ば、ものの考え方も違う。善悪の基準まで変わらないが、価値判断は当然異な る。経営に対する考え方も違う。 ●現在の社長が会社を成長させてきたのは、まさに高度成長の時代だ。昭和39 年の東京五輪。昭和45年の大阪万国博覧会。それ以降の日本列島改造計画。あ らゆるところで建設工事が行われ、まさに国土が改造されていった。高速道路 はどんどん延びて、新幹線もいたるところに新設された。各地に橋や道路が整 備され、空港も多く建設された。それに伴って、消費も拡大し、給料も上がっ ていった。当然物価も上昇した。住宅ローンの金利が昭和59年に7%くらい だったはずだ。 ●そんな現在では考えられない時代に、成長を謳歌し、それに伴っておいしい 成果物を分配してきた時代だった。それが、一転バブルの崩壊に始まり、失わ れた20年が始まる。金融機関が破綻し、整理統合が行われる、不良債権が増 え、どうしようもない債権は1円ではげたかファンドに売却された。TVドラマ にもなり、多くの金融機関が整理統合された。そして、デフレの世の中に突入 する。そんな時代を何とかくぐり抜けて会社を維持し継続してきた。気息 奄々、なんとか永らえてきた。 <意外と議論していない会社の方向性> ●さて、そこで、ぼちぼち事業承継の話しが持ち上がる。近い将来、長男に承 継をするにあたり、今後会社をどういう方向に持っていくのか、経営のやり方 をどうするのかで、意見の相違が起こる。相違が起こるくらいならまだいい が、これが親子の感情のもつれにつながって、決定的な、致命的な人生観の相 違にまで発展する。こうなると、もうお互いに接点を見出そうとする努力をし なくなる。口もきかない、ものも言わない状態になり、致命的な確執となる。 修復不可能状態に陥る。 ●実は、そこに至るまで経営の方針、方向に関し、日常ほとんど会話がなかっ た。日常の業務上の会話は多くあった。本当に瑣末な日常の仕事のことでは、 よく会話があったようだ。しかし、面と向って会社の将来に対して、真剣に真 面目に、かつ腹蔵なくお互いの想いをぶつけ合うと言う、経営者と承継者とし てのもの言いは、実はほとんどなかったようだ。まさに、これが現実なのだ。 世間はよく親子だからしょっちゅうそういう会話をしているだろうと錯覚して いる。 ●いままで幾多の例を見てきたが、実はほとんど現在の社長である父親と、承 継者である息子さんとの間で、本当に真面目に会話をされたことを見たことが ない。振り返って、成岡個人も4人の兄弟で運営、経営して、最後に破綻させ た出版社でも15年間在籍の間に、じつはほとんどそういう会話はなかった。本 当に細かい日常の会話はあったが、会社の方向性を議論したなどというのは、 ごく僅かな時間だった。いまに思えば、そういうことをやっておかなかったこ とが、致命傷に至った原因だ。 <逃げずに面と向き合うことから始まる> ●しかし、外部の他人がどうこう言うほど、ことは簡単ではない。経営体制の 改革、人心の一新や刷新、設備投資の是非、金融機関への対応、今後の役員構 成など、経営の重要課題は目白押しで、待ったなしだ。しかし、こういう肝心 なところに手をつけようと思うと、当然過去の文化、風土、空気と、若い今後 を担う経営者=承継者との間では、意見の相違は必ず起こる。まして、ここに 同族一族の関係者の方々が、何らかの利害関係者としてからむと、ことは一層 複雑になる。 ●だいたい、泥沼状態になり、解決の糸口が見出せない。感情的に対立し、非 常に険悪な状態になることもある。可愛そうなのは従業員であり、社員であ り、得意先であり、仕入先であり、その先の顧客なのだ。そういう一番大事に しないといけない利害関係者を置き去りにして、一族間での感情的な対立に終 始する。最悪の状態であるが、致命的な経営的な欠陥になることも多い。日頃 から、こういうテーマでのコミュニケーションが難しいのは理解できるが、そ こは乗り越えないといけない。 ●とにかく、まめに会話をすることだ。そして、大きな決定、決断をする際 に、当事者同士でよく確認することだ。どうして、今の社長はこういう決断を したのか。どうしてこの人を外部から採用したのか。どうして、この案件を取 り組み、別の案件をパスしたのか。どうして今期の目標の数字がこうなってい るのか。などなど、経営の根幹に触れるテーマは非常に多いはずだ。意外とそ ういうことに関して、重大なのは理解すれども、相互に会話をしていない。ま ずは、面と向き合って真剣に逃げないで会話をすることから始まるのだ。