□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第465回配信分2013年03月25日発行 在庫は罪庫になる 〜売れ残った在庫が復活したためしはない〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●以前に在籍していた出版社。昭和59年に大手化学繊維メーカーから同族経営 の出版社の役員に転身して、まず配属されてというか、研修のために行ったと いうか、所属した部門は物流部門だった。当時の倉庫は国道1号線の名神イン ターチェンジの近く、国道赤池という交差点のごく近くにある上鳥羽物流倉庫 だった。そこで数ヶ月、毎日毎日書籍の出庫入庫業務の研修に従事した。作業 服を着て書籍の出庫のピッキングをするのが主な仕事だった。非常に単調な仕 事だった。 ●しかし、しばらくして気が付いた。数百点になる在庫の書籍。どこに何が置 いてあるのか、非常に分かりにくい。覚えるのに非常に時間がかかる。ベテラ ンの社員は伝票を見れば、すぐに置き場が分かるが、当方は居候の身なので、 そんなに機転が利かない。かくて、出庫伝票の見てもピッキングの動作がイ メージできない。どこの棚に何が置いてあるのか、覚えるだけでも四苦八苦し ていた。また、書籍はほとんど形状つまり大きさが全部異なる。箱に入れて出 庫するときに非常に難しい。 ●かくて覚えた技は段ボール箱にこれらの書籍をどのようにうまく収容し、 パッキングするかだった。こんな技を覚えても世間で役立つことはほとんどな いが、それが職場のノウハウだった。いかに要領よく作業をこなすか。その要 領の良さがベテラン社員の自慢だった。素人の成岡が1時間かかるところを、 たったの30分で済ませる。そして休憩室でタバコを吸うというのが、彼らのプ ライドだった。こんな芸当は出来ないだろうという雰囲気が満ちていた。こち らは分からないから、とにかくすごいと錯覚していた。 <調達した資金が在庫に化ける> ●そうこうしているうちに、物流倉庫の実習も終わったが、倉庫のスペースが 不足し、その後2箇所に物流倉庫を新設した。伏見区の城南宮近くに新設した 倉庫。400坪あり、以前の150坪とは比較にならないくらい広いスペースがあっ た。2階建てで最新鋭の自動ピッキングシステムを導入し、複雑な組み合わせ の搬入、搬出に対応できた。これで物流部門への投資は終わりだと感じてい た。なにせバックヤードにいくら設備投資しても、大きな経営上の効果は期待 できない。 ●とうとう、400坪の倉庫でも入りきれなくなり、滋賀県の竜王インターの近 くに1000坪の土地を購入し、新しい物流倉庫を建てた。ひとえに在庫となった 書籍を保管する場所がなかったのだ。考えてみればおかしな話しで、返品され てきた書籍を保管する場所がないという。ということは、返品=売れ残りだか ら、出庫して書店の店頭に2週間陳列し、売れ残った書籍が在庫になる。その 在庫の数字がどんどん膨れる。増加する。とうとうリミットを越える事態に なった。 ●しかし、誰もこの事情をトップに進言しない。新刊書籍の出版の最終決定権 者は社長だ。返品で山ほど商品が戻ってきても、廃棄しないからどんどん溜ま る。溜まった返品書籍の置き場がない。ないから倉庫を増設する。考えてみれ ばおかしな話しだが、そのうちに売れるときも必ずあると言われると反論のし ようがない。売れないとも言えないし、売れるともいえない。著者が急に有名 になる場合もある。社会環境が変わって、書籍のテーマがホットな話題になる こともある。 <結局破綻の原因に> ●在庫=棚卸資産の金額がどんどん増える。資金調達して制作した新刊書籍の 半分以上が売れ残って返品されて在庫になる。置き場がないから、どんどん倉 庫のスペースが増える。外部から利子を払って調達した資金=現金が、形を変 えて寝ている。竜王の倉庫を見に行くと、ぞっとする光景が目に入る。見たく ない在庫の山を、改めて見ると呆然となる。その呆然の雰囲気、気持ちをうま く伝えられない。自分が企画した書籍が返品で山積みになっているのは、なん とも悲しい。 ●悲しいと悲しんでいる暇はないのだが、とうとう会社はパンクしてしまっ た。在庫がパンクすると同じく、資金もパンクしてしまった。結局在庫が再販 売できたのは、実はほとんどなかった。現在のように、中古書籍が二次流通す るビジネスモデルはなかった。再販売制度に守られて、書籍の定価は変えては いけないという決まりがあった。1500円の書籍は在庫でも1500円で販売しない といけないのだ。いまは中古本はブックオフでもアマゾンでも自由に販売でき るのだが。 ●一度在庫になると、やはり賞味期限があるので、時間が経過すると販売は難 しい。それでも何とか現金化しようと、繰り返しダイレクトメールをしたり、 いろいろと手を変え品を変えやってみたが、ほとんど結果は出なかった。方法 も稚拙だったのだろうが、要らない書籍はいくら定価が安くなっても要らな い。書籍とはそういう価値観のものなのだ。本来は決算のときに相当数の在庫 を廃棄して、その分を損金で計上しないといけないのだが、巨額の赤字になる ので出来なかった。 <意思決定の仕組みに問題があった> ●粉飾といえばそうかもしれないが、税法上は問題はない。全く死んだ在庫か と言われると、いやそうではないという理屈は成り立つ。詳細は会計事務所に お任せしていたので、詳しいことは承知しないがトップとは意見の相違を巡っ て相当のやりとりがあった。現に、いつだったか忘れたが、会計事務所が急に 変更になったことがあった。何かあったのだと思ったが、特に役員会に案件が かけられたわけでもなく、言い訳だがあとになって知らされた。 ●とにかく外部から資金調達した資金が、ほとんど在庫に化けたわけだ。これ が製造業なら、設備投資資金が機械装置になり、工場の中に陣取って立派に稼 動し、付加価値の高い製品を製造し、利益に貢献するのだろう。ところが出版 社と言う水商売は、博打のようなビジネスモデルなので、投資した企画が半分 返品で寝ることになる。非常にリスキーなビジネスなので、今後の事業計画、 販売計画となると分からないことが多い。その分からないことに積極的に投資 をすることが、いいことだと錯覚していた。 ●自分を始め役員、経営陣の責任ではあるが、リスクを取らないとリターンは ないと言われると、それも理屈としては正しい。3割賛成7割反対のビジネス を進めるのが経営姿勢だといわれると、それにも反論しにくい。では、何が正 しかったのか?いまだに結論が出ないテーマなのだが、ひとつ言える事は意思 決定の仕組みが、マネジメントの仕組みが出来ていなかった。コンプライアン スも、外部からの牽制もなかった。その仕組みが出来ていたら、結果は違って いただろう。いまさら反省しても仕方ないが。