************************************************* ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第475回配信分2013年06月03日発行 経営トップは緊急の課題より重要な課題を 〜現場と同じ目線ではいけない〜 ************************************************* <はじめに> ●前週のこのメールマガジンで、経営者は緊急の課題より重要な課題に優先し て取り組むべきだと書いたら、いろいろな方から反響、反応をいただいた。意 外だったので、今週はその続編というべき内容のものをお送りすることにし た。ということは、意外と日常はこのことが、徹底できない、守れない、実行 できない、分かっているけど難しいのだろう。経営とはそういうもので、教科 書的に至極当然と書いてあることが、現実の経営の現場では、なぜかなかなか うまく実行できない。つまり、分かっていることと出来ることは異なるのだ。 ●では、何が重要な課題で、何が緊急の課題なのか。その選別、区別、判断が 極めて重要だ。この選択を間違うと、ずっと路線がずれたまま、長い時間がず れたままで経過する。そうなると、もう元へは戻れない。この、何が重要かと いう課題は、実は企業の規模、業態業歴、その時点の置かれている社会環境、 競争環境、社内事情など、本当にいろいろな、様々な要因で異なる。決して、 ずっと同じではない。むしろ、同じではおかしい。企業の成長の時期、時期に より、重要な課題は変遷し、変化し、内容も逐一変化する。 ●むしろ、ずっと同じテーマが経営者の優先課題として重要な事項なら、その 課題に対して有効な対策が打てていないと、判断するべきだろう。3年も5年 も同じ課題が経営者、社長の最重要課題であるなら、それは課題解決の能力が ないのか、意欲が欠けているのか、それとも人材がいないのか、さてまた理由 はなんだろうかと、これも死ぬほど悩まないといけない。そういう課題があり ながら、有効な対策が打てていないのは、不作為の罪とでも言うべき、非常に 重たい責務なのだ。これから逃げてはいけないし、目を反らせてもいけない。 <現場の子細な課題にのめりこまない> ●まずは、自分自身で何が重要で、何が緊急なのかを判断しないといけない。 現場の業務というものは、日々時々刻々と変化する。同じように同じ製品を製 造しているように見えるが、実は変化は無数に起きている。その無数に起きて いる変化は、逐一トップの足下、手元に報告が上がるだろうが、その報告に対 して現場の責任者と同じ目線で対応することは、いけない。現場の責任者よ り、一段高い立ち位置で判断する。その事象、問題点に隠された真の問題点は 何か。その根本原因の追究と改善なければ、またぞろ同じことが起こる。 ●となると、重要な課題として認識しておかないといけない。現場の、今日明 日に起こることは現場にある程度任せて、自分自身は重要な課題に真摯に長い 時間向き合う。まずは、その覚悟をすることだ。現場の子細な、滑った転んだ には、目をつぶる。これは結構勇気がいるが、これをやらずして、重要な課題 に集中することは不可能だ。人間は神様ではないから、同時にいくつものこと を並行的にはできない。聖徳太子ではあるまいし、同時に数人の発言を聞き取 れない。となると、目をつぶることも大事なのだ。 ●目をつぶるとは、責任を持たないということではない。肝心なことは、必ず 報告をしてもらうようにする。何と何を必ず報告してくれと、先に明確に指示 しておかないといけない。失礼ながら、中小企業はそこまで気が回り、気が利 き、優秀な社員が社長の周辺にいっぱいいるとは、到底思えない。よって、こ ちらから気を利かし、問いかけ、反応を待つことになる。そういう我慢の時間 も必要なのだ。そして、我慢しながら、自分自身は重要な課題を取捨選択し、 それに集中する。現場の部長さんがやるような日常の課題を、極力やらない。 <教育は国家百年の計> ●しかし、現実にはトップの経営者が現場の管理者と同じような業務をしてい るケースも多い。そして、それが特におかしいとも思っていない。不思議だ が、現実はそのようなケースが多い。なぜだろうか。まず、ひとつには人、ス タッフがいない。だから、経営者が仕方なく日常に近い業務を必然的に担当す ることとなる。組織図を書いてみるとよく分かる。あるいは、組織図と実際に やっている現場とが、実は違うことも多い。本音と建前を使い分けるトップの 方も、実は結構いらっしゃる。また、その業務が得意、好き、というケースも ある。 ●現場の業務を全く担当していない経営トップは珍しいかもしれないが、それ に埋没してはいけない。確かに、溢れている荷物を運んだら、結構汗もかくし 仕事をした気分になる。仕事のあとのビールも、おいしいだろう。何となく、 今日一日非常に充実していて、やった気分になる。しかし、会社の将来に関わ る重要な課題は、誰ひとり考えていないし、手も打っていない。置いてきぼり にされている。荷物は誰かが片づけるが、重要な課題は緊急性が小さいから、 見過ごしても目立たない。とりあえずは、傷まない。だから、誰もやらない。 ●重要とはどういうものを重要と言うのかは、前述のように企業によって大き く異なるだろう。しかし、大別して言えば、会社の将来に大きく関わること だ。いま、目先の、今日明日のことではない。たとえば、今後を担う人材の発 掘、採用、教育などだ。外部からの招聘も、社内からの登用もあるだろう。教 育は国家百年の計である。企業にとっても、それは同じだ。教育の責任者は、 経営トップなのだ。将来に対して非常に重要で、かつ、重たいテーマなのだ。 誰も、現場の責任者は、今日が一生懸命で、将来のことを考えての教育は目線 にない。 <社長が簡単に席を離れられる会社でないといけない> ●同じく重要なのは、3年後、5年後の中期計画だ。自社は今後どのような方 向に進むのか、現在の路線でいいのか、いま経営的には安定しているがいつま でこれが続くのか。未来は、誰にもわからないが、準備することは可能だ。そ の未来を予測し、少しでも成長路線に乗せるには、今後どうすればいいのか を、真剣に考えるのは、実は社長一人と言っても過言ではない。経営陣、役員 もいるだろうが、役員と経営トップの社長とでは、立っている位置、責任の重 たさが全く異なる。中期、長期の将来を考えているのは、実は一人なのだ。 ●ある経営者の方は、創業後いろいろなことがあったが、ようやく組織体制が 整ってきたら、自分は現場から距離を置いて、緊急ではないが重要なことをす ることに割り切ったと言われた方があった。非常に立派だと思うし、そういう ことができる体制に、常日頃からしておかないといけない。ずいぶんと以前だ が、東京の国会議員会館に某国会議員を訪ねて、当時所属企業のトップと二人 で伺ったことがある。依頼したい事項があったのだが、その件は数分で終わ り、その大物の国会議員が何を言ったか。 ●小生が所属していた企業の代表取締役に、「ボクがあなたにいますぐに東京 に飛んで来てほしいと言ったら、すぐに来れますか?」というのが大物議員の 問いかけだった。当時、同行していた小生には、何の意味かさっぱり分からな かったが、ずいぶんあとになってから、気が付いた。そうか、京都の会社から すぐに東京に駆け付けられるような社内の体制ですか?社長が現場から離れて も、おたくは大丈夫な会社ですか? そういう意味の質問だと、実は相当あと になってから理解できた。大物議員の問いかけに、いまならどう答えられるだ ろうか。常にこのことを自問自答しないといけない。