******************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第488回配信分2013年09月02日発行 小さな市場でも総取りできるなら取りに行く 〜中小企業はあまり大きな市場は狙わない〜 ******************************************** <はじめに> ●大企業なら取りに行かない小さな市場が中小企業の勝負する市場だと、よく 言われる。まさにそうかもしれなくて、一桁、二桁違うマーケットでの勝負は 体力勝負になるから、なかなか経営資源の乏しい中小企業では勝てない。大き な建築物の案件、大規模な数量の案件などは、金額が大きくて収益も見込める が、ここは大手企業とのがちんこ勝負になる可能性が高い。そうなると、入札 にもなるかもしれないし、人脈勝負になる可能性もある。そもそもそういう大 規模な市場で戦う戦力が乏しい。 ●大規模な案件を受注すると、まず資金力がないとできない。先行して材料を 購入したり、人員の手配が要る。外注費も先行して必要となるだろう。おいし いと分かっていても、その時点で資金力がないと勝負に出られない。受注を証 拠(エビデンス)として、それを担保に金融機関から借りるという大技もある が、それくらい資金に詰まっていると、もし何かトラブルがあったときに挽回 できない。やはり、運転資金は月商の数か月分だろうから、あまり大きな勝負 に打って出て、もしトラブルがあるとそれこそ屋台骨を揺るがす。 ●なので、仕事のボリュームの見極めが難しい。その中小企業にあったサイズ の仕事をするのがいいのだろうが、そんな都合のいい仕事を簡単に受注できる とは限らない。通常は、量かコストかどちらかにしわ寄せがいくことが多い。 両方をクリアーできても、最後は納期という壁も存在する。すべてが満足いく 案件はないだろうから、何かを目をつぶる。その意思決定は社長に任されるこ とが多い。全部の条件が満足する案件などないから、何を取って何を捨てるの か、その高度な判断がゆだねられる。 <小さな市場は大企業が手を出さない> ●しかし、安全パイのような案件ばかりだと利益が見込めない。売上の金額、 受注の金額より、最後は利益なのだ。いくら大きな金額の案件を受注しても、 最後大赤字では話しにならない。ただ、現場では営業担当者は売り上げの金額 を優先するから、どうしても妥協して受注を取ろうとする。そこで、納期、金 額、利益などとの葛藤が始まる。得意先と交渉するより、社内をいかに説得す るかが難しい場合が多い。社内営業に疲れて、本当に得意先とネゴするエネル ギーが残っていないときも多い。 ●たまに、清水の舞台から飛び降りるという決断をしないといけない場合もあ るだろう。乾坤一擲の勝負に出るという場合もある。しかし、中小企業は量の 大きさの案件を取るより、技術的に大企業では敬遠する案件なら、積極的にト ライするべきだ。過去には、京都の某電子メーカーがトライした「自動改札 機」などはその好例だろう。大企業が降りた案件で、発注先が困って持ち込ん だ。他の大企業で全部断られたので、それを経営者の一瞬の判断で受注した。 その時点ではできる目算はなかったと思うが。 ●そのような決断は中小企業のトップしかできない。大企業だと社内の根回 し、稟議、検討、会議など数段のステップを踏んでの結論となる。しかし、中 小企業はトップ一人の意思決定でそれが可能だ。企業のポテンシャルが一段次 のステップに進むのは、そのような時点だろう。あとになって思えば、そのと きの経営者の決断が賞賛される。それが自社の発展の基礎になったという美談 になる。しかし、そんな案件がごろごろ転がっていることはまれだ。たいがい は、小規模で小規模であるから大企業が手を出さない。 <小さな売り上げをたくさん集める> ●初めから大きな市場の大きな魚を取りに行こうとしないことだ。小さな市場 でもいいから、きちんと最高の品質、最高の出来上がりで、しかも言われた納 期より数日早く納品する。それが一番めでたい対応なのだ。特に現場的に言え ば納期を前倒しでできることが、一番評価される。得意先にとって、それが一 番ありがたい。なにしろ、言った納期ぎりぎりに持ってくるのと、一日前に納 品されるのとでは、雲泥の差がある。現場の担当者としては、それが非常に嬉 しい。かくて、またあそこに発注しようとなるのだ。 ●つまり、小さな市場でも当たり前のことを粛々と継続してやり続けることが 重要だ。ところが、これが意外と難しい。担当者も複数になると、担当者間で のばらつきも生じる。Aさんならいいが、Bさんはちょっととなる。それが一番 困るのだ。担当者が誰でも、一定の範囲内の品質が提供されないといけない。 B君はやめてくれというクレームがあると、これは非常に恐ろしい。しかし、 中小企業は人材がそう潤沢ではないから、そのような事態はしょっちゅう起こ る。また、入社して数か月して退社ということも、ままある。 ●小さな市場だからと馬鹿にしてはいけない。小さな案件をたくさんこなすの が、実は正しい。リスクの分散という意味でも、ひとつの得意先に受注や売り 上げが集中しないほうがいいのだ。以前に在籍していた企業では、1社からの 受注が一時4割を超えたことがあって、非常に危険だと感じていたら、案の定 その企業の業績がある事件でおかしくなり、がくんと減少したことがあった。 そのときは大変な騒ぎで、一挙にその年度の業績は大きく落ち込んだ。だか ら、小さな市場の仕事をたくさん集める方が正解だ。 <売上の規模より価値> ●トップの方針が重要だ。この方針でうちはやるんだという明確な意思決定を しないといけない。現場任せではいけない。過度に介入する必要はないが、肝 心なときにはトップが明確に意思決定をしないといけない。当社は1つの企業 からの受注が2割を絶対に越さないとか、そのような明確な方針を出す。そし て、その方針を頑固に守ることだ。しかし、売上や資金が安定しないと、どう しても安易な方向に流れる。2割を超えても、まあいいか、となる。一度妥協 すると、なかなか原点に戻れない。 ●トップが自らルールの解釈を変えて妥協を始めると、現場はもっと規律が緩 む。親父がいいと言ったから、俺たちは多少そうなっても問題視されないと、 誰もが思うはずだ。それは至極当然の理屈になる。やはり、一種のこだわりを もって、頑固にダメなことはNOと言えることだ。小さな市場で確実に高品質の 製品を、しかも納期を余裕をもって作り続ける意思と体力を備えることだ。こ れからは、企業の規模、売上の金額、総資産の額などを競う時代から、価値を 高める時代に変遷していく。 ●大企業でも当然そうだから、その下部組織の中小企業ではもっとそうなる。 その時に、売上、売上と、規模を追っかけて、特定の得意先に仕事を集中して いると、おそらくそのような価値提供への対応は難しい。当然、資金がそこそ こあって、あまり今日明日の目先の売上で翻弄されないような企業経営が前提 だが。今日の明日のお金を追いかけていると、どうしても大きな案件を取りに 行く。しかし、自社の強みを最大限活かして、本当に得意先が喜ぶ、認める価 値を提供する。そのような企業は絶対と言っていいほど、潰れない。