******************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第489回配信分2013年09月09日発行 事業承継の最大のポイントは後継者の納得感 〜納得がない事業承継はいつか破綻する〜 ******************************************** <はじめに> ●京都商工会議所で、ここ4回連続の事業承継講座の講演をさせていただい た。まだ最終回は終わっていないが、今度の火曜日が最後の講演になる。この テーマはなかなか難しく、昨年度も連続講演をさせていただいた。今年は同じ 内容ではつまらないというので、「もめたケース」をとりあげて事例をなるべ く多くご紹介することとなった。後継者の選択でもめたケース、時間的に間に 合わなかったケース、お金に関することでもめたケースなどを取り上げて、そ れぞれのケースで何が問題だったのかを解説した。 ●いずれの講演も、数件の実際の事例を多少脚色してご紹介したが、とにかく 「もめた」ケースというのは「もめた」原因が明確だ。円滑な事業承継は、10 年近く前から段取りをして、粛々と準備に時間をかけて、関係者の納得感を得 て、ゴールに到達する。そして最大のポイントは、後継者の納得感ではなかろ うか。後継者の納得感がいまいちの事業承継は、最後の最後で成功しない。そ こを時間がないとか、はしょってばたばたとやってしまうと、後になって後世 に憂いを残すことになるだろう。 ●納得感は、いろいろな面での納得感が必要だ。単なるお金の面での納得感で もない。組織、資金、株式、業績、立場、業務、借入、返済など、それは多く の要素での納得感でないといけない。現在の父親社長が、強引にごり押しで強 行突破すると、最後の最後で破綻をきたす。後継者は表面的には逆らいにくい から、取り繕って納得した表情をしているが、実際は腹にすとんと落ちていな い。面従腹背という表現があるが、大多数の社員の手前、承諾しないというわ けにはいかない。辛い立場だが、致し方ない。 <育った時代環境が異なる> ●最近の事例では、いよいよ事業承継のステップに差し掛かったところで、後 継者の長男が会社の実態がわかってきたので、首を縦に振らなかった。あろう ことか、現在の社長である父親と衝突して、3年後くらいに会社を飛び出し た。そして、近隣の町で同じ業界の仕事で別の会社を設立した。世間的には非 常にまずいことになり、また世間に親子で分裂したという印象を与えてしまっ た。信用を重んじる世界で、これは非常にマイナスに作用した。そして、父親 の企業はどんどん業績が悪化した。 ●親子と言えば、だいたい二回り、つまり24歳くらい歳が離れている。30歳く らい離れているケースもある。24歳から30歳くらい違う世代のものの考え方 は、実は全く異なる。育った世界も異なるし、当然常識も生活スタイルも、習 慣も知識も環境も異なる。それくらい異なる境遇で育った親子が、会社の経営 という1点で一緒にベクトルを合わすことができるかと言えば、これは非常に 難しいだろう。特に、最近はドッグイヤーと言われ、今の1年間は昔の7年間 くらいに該当する。7倍の速度で世の中が動いている。 ●成岡たちが育った昭和30年代から40年代は高度経済成長の真っただ中だっ た。東京五輪から大阪万博があった。昭和44年には大学紛争があり、浅間山荘 事件があり、東大の入試が中止になった。混乱の大学生活を終わったら、今度 は石油ショックが日本を襲った。その前に為替が固定から変動相場制になっ た。日米貿易摩擦が起こり、自由貿易へと大きく舵が切られた。田中首相が登 場し、日本列島改造が始まった。高速道路がいたるところ整備され、新幹線が 全国へ伸びていった。 <社長と後継者という関係で会話する> ●ところが、今の後継者のみなさんが育った平成の時代は全くこれと異なる。 育った時代背景は個人の考え方に大きな影響を与える。そして、もうひとつ大 きなポイントは親子で事業承継に関する真剣な会話、コミュニケーションがな いことだ。業務に関する会話は会社の中で山ほどするが、こと、この事業承 継、会社を引き継ぐという非常に重要で、かつ失敗のできない大きなイベント に関しては、びっくりするほど真剣な会話がほとんどない。何も現在の代表者 が伝えないから、後継者もなかなか会社の実態がわからない。 ●もっとひどいケースでは、会社の決算書や財務数字の資料も一度も見たこと がないというケースも、よくある。現在の社長の説明能力の欠如というケース が多いが、後継者もそのような数字に興味が沸かない。ところが、土壇場に なって会社の莫大な借入金に驚いて、もめることになる。この借入はいったい 原因はなにか。それをきちんと説明を聞かないと、納得できない。保証人にな るのだから、ことを全部明らかにして欲しいというのは、本音のところだ。理 由と背景、原因が分からない借入金には、印鑑をつけない。 ●そこでもめたケースは枚挙に暇ない。最近そのような案件を数件担当した が、最終的には現在の経営者と後継者の子息との意思疎通、コミュニケーショ ンが欠けている。円滑な報・連・相がない。親子だからわかってくれると思う のは、実は大間違いだ。親子は親子だが、会社では社長と役員、後継者という 関係だ。社長がどうしても父親という意識で甘えていることが多い。事業承継 では、社長と承継者という関係で会話をしてもらわないといけない。まして、 同じ屋根の下で暮らしていると、よけいに難しい。 <時間をかけて共有する> ●納得感がないまま次期の社長を押し付けたようになると、ことはどんどんこ じれる。こじれたくらいならいいが、喧嘩から憎悪の感情になり、亀裂が深 まって修復できないくらいの距離が生じる。こうなると覆水盆に返らずで、正 常な状態に戻すのは非常に難しい。まずは、後継者の納得感をいかに作っても らうかを、現在の代表者は真剣に考えないといけない。とにかく、納得感を得 るにはこまめに相互理解を得るための時間をかけることだ。前述したように、 生まれ育った環境が全く異なる。このことを意識しないといけない。 ●後継者が長男であろうが、次男であろうが、弟であろうが、娘婿であろう が、全く同じことだ。弟さんなら多少は生まれ育った環境は似ているが、意外 と性格はまるで異なることが多い。娘婿さんの場合は、全く育ちの環境が違う だろう。よしんば似ていても、それぞれの家庭の空気、風土というものがあ る。その違いは大きい。結婚して、お嫁さんが旦那さんの実家の環境に慣れな いのと、全く同じことだ。特に企業は組織だから、家庭とは数段複雑な人間模 様がある。古参の役員もいれば、学卒の新入社員もいる。 ●納得感は短い時間で醸成されるものではない。時間をかけて、同化して、共 有化して、ベクトルが一致して、初めて納得感が得られる。一度得られた納得 感も、本当の事業承継の時間の経過と共に変化する。何か心にひっかかるもの があると、途端に崩れることも多い。最後の最後で破談になったケースも多く 見てきた。本人たちよりも、多くの周囲の関係者が非常にダメージを受ける。 最悪は企業の存続、継続にかかわることになる。不幸なのは、経営者を信じて ついてきてくれる従業員だ。その人たちを裏切っていはいけない。