******************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第499回配信分2013年11月18日発行 習慣化することで身に付くことシリーズ最終回 〜オフィスをでるときは海軍方式で〜 ******************************************** <はじめに> ●いまでも尊敬している20代から32歳までの製造メーカーに在籍していたとき のS部長には、本当に若いときのビジネスに対するマインドを教育してもらっ た。この人の教育は半端ではなかった。当時、オイルショックの後遺症に苦し んでいた製造業。成岡の在籍していた大手製造メーカーでもご多聞にもれず、 稼働率は50%前後でうろうろしていた。当然、業績は芳しくなく、従業員の士 気も上がらない。そんなときに、東京の本社から愛知県の豊橋工場、従業員 3000名の事業所の責任者として赴任してきたのが、S部長だった。 ●九州の出身で当地の帝大を卒業し、フルブライト留学生に選ばれた傑物だっ た。そのマインドが半端でないのは、赴任してすぐにわかった。周辺の空気が 一変した。それまで、オイルショックの後遺症に苦しんでいた製造業だった が、このS部長のマインドは全く違った。外部の環境が悪いなら、自分たちで 変えればいいい。それをするのが、我々のミッションだと。当時、ほとんどの 製造メーカーのマインドは、負け犬だった。努力しても所詮アメリカの圧力 で、対米輸出でも非常にマイナスをかぶると。みんなそう思っていた。 ●ところが、この人は違っていた。苦しいなら各社苦しい。同じように嘆いて いても仕方ない。まず、一歩先に出ようと。本社にかけあって相当な金額の設 備投資をゲットしてきた。それをみて、みんな考えが変わった。このリーダー についていけば、何か道が開けるのではないかと。不思議なもので、そうなる と前に前に事態が動き出す。特に、何をどうしたわけではないが、気持ちが前 向きになる。全員がばらばらではなく、同じものを見ている。そうなると、ベ クトルが一致する。同じ未来に向かって全員が走り出す。 <何があるかわからないが対応する> ●数年にわたりこのS部長と海外出張に同行させていただいた。その詳細は以 前に書いたと思うが、この40日間の海外出張の2年連続を経験して、おそらく 10年間分のビジネスのマインドを植え付けてもらった。そのキーワードは、 「海軍方式」だ。S部長のお父さんは、太平洋戦争時代の戦艦武蔵の艦長だっ た有名な方だった。その伝記は書籍になって、某出版社から上梓されている。 そのご子息だから、考え方が半端ではない。すべて、これ海軍方式。一度、軍 港を出航したら、次に戻るのは作戦が終了してからだ。 ●日本の軍港、当時は広島の呉であり、丹後の舞鶴であり、それぞれ拠点に軍 港があった。海軍の艦船はその拠点軍港で次の作戦に備えて待機し、機材を積 み、食料を調達し、武器弾薬の補給を行う。次にどんな命令が下るかわからな いから、最小限の備品を積み、あとはいかに早く作戦命令に対応して武器弾 薬、食料、機材を積み込むかだ。これに時間がかかっていたのではいけない。 特に連合艦隊の司令長官の乗る船では、ぴりぴりしてその機敏な準備は芸術的 とも言われたという。 ●陸軍は地続きだから兵站の補給は、道があってもなくても十分可能だとい う。しかし、海軍は海の上で敵と戦うから兵站の補給ができない。だから軍港 を出るときに、よほど考えて武器弾薬食料を積まないといけない。数十日にわ たる戦いの間、母港には戻れない。これが海軍と陸軍で決定的に違うことなの だ。S部長のマインドは、お父さんの影響が大きかったが、全部これ海軍方 式。とにかく、出るにあたってあらゆる状況を想定して、これ準備を怠るな と。何が、あるかわからない。しかし、とにかく対応できるようにしておけ と。 <全部出して並べる> ●しかし、何が起こるかわからないから、とにかく全部の状況に対応しておけ というのは、これは至難の業だ。しかし、とにかく努力せよとの厳命で、それ は本当に厳しかった。しかし、そのマインドは現在でも十分生きている。とに かく、オフィスを出るときは、夜まで戻らないことが多い。一日数件の用事を 背負って出かけるので、背中のリュックはいろいろなもので満杯になる。しか も、出先でさらに紙の資料が増えることが多い。その分、多少は余裕を持って いないといけない。ぱんぱんでは、入る余地がない。 ●どうしても入りそうにない場合、丈夫な手提げの紙袋は用意しておく。ま た、夏場汗を大量にかく場合が多いから、着替えを一部持参する場合もある。 朝出て、ずっと戻らないと確実に大汗をかくことが多い。これもかなりかさば るし、しんどい状態だ。しかし、一度母港を出ると戻れないから、夜までの仕 事をイメージして準備と段取りはしっかりやる。朝オフィスを出る前には、デ スクの上に必要なものを全部並べる。順番は別にして、本当に必要なものを落 としていないか、何回も確認する。相当集中してやらないと間違う。 ●その間は、絶対電話には出ない。ちょうど悪いことに、よく電話がかかる時 間帯なのだ。ここで集中力が落ちると確実にミスをする。必要なデータをUSB に入れるのを忘れたり、必要な資料を持って出るのを忘れたり。出先でカバー できればいいが、致命的なミスがあると取り返しがつかない。それを防ぐため に前日から準備しておくことも多い。S部長と40日間の海外出張の際には、徹 底的にこれを教育された。確かに、一度ホテルをチェックアウトしたら、もう 二度と戻ってこないから、ミスがあったら次の行程に大きな影響を及ぼす。 <一度出たら戻らない覚悟> ●どのような状況になっても対応できるようにしておけとの命令は、相当神経 を使う。しかし、慣れてくるとコツがわかり、注意しないといけない点は、実 はいくつかしかない。それを落とさないようにすればいい。そのためには都度 気が向いたようにやっていてはダメ。毎回、毎回同じ手順で準備ができるよう にする。動作を一元化し、いつも同じものが同じところにあるようにする。い ちいち、毎回考えると間違うから、動作の順番と手順を決める。リュックのど この位置に、何が入っているのかは、常に同じにしておく。 ●カバンを変える、背広を変えるなどが起こるときに、ミスが起こる。なの で、背広は別にしてカバンは極力変えない。どうしても仕方なく変えるときは 変えるが、可能な限り同じ行動パターンになるように日常気を付ける。かく て、文房具も一度使うとずっと同じものを使い、その他小道具類もあまり浮気 はしない。変えることにためらいはないが、できる限り余分な神経をそちらに 振り向けるようにはしない。そして、朝から夜までの行動を逐一シュミレー ションしてみる。これは、朝ランニングするときにイメージトレーニングをす ることが多い。 ●今日は、朝出てから、こうして、こう移動して、何時くらいにこうなって、 その後こうなって、ここでこれが必要で、その後移動して、こうなって・・・ ・、と最後までシュミレーションする。著名なドクターが難しい手術の前日、 手技をシュミレーションするのと同じだ。その想定したシナリオに必要な機材 を完璧に準備する。予備は必要か、出先で調達できるか、絶対に忘れては困る ものはなにか。そして、一度出て行けば戻れない、戻らない覚悟で行動する。 そうすると、自然に仕事の効率が高まる。やはり海軍方式を身につけたこと は、非常に大きかった。S部長に感謝している。