******************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第501回配信分2013年12月02日発行 ルールを変えると新しいことが始まる 〜岩盤規制を変えることがビジネスチャンスを生む〜 ******************************************** <はじめに> ●一時新聞紙上を賑わした今年のキーワードに「岩盤規制」というのがある。 最近はあまりお目にかからなくなったが、アベノミクスの象徴のように言われ た時期があって、一時メディアで相当取り上げられた。確か数百の規制があ り、これが経済の自由な発展を阻害しているのだという。いちいち詳細は知ら ないが、確かに何か従来と少し違うことをしようと思うと、何か規制やルール に抵触して難しいことはよくある。なんでこんな面倒なことをするんだという 憤慨にも近いことを感じたことは、当然皆さんもあるはずだ。 ●規制が一概に悪いとは言わないが、問題は時代が変わっているのに、ルール が変わらないことだ。小泉、竹中時代に相当この規制改革をやったはずなの に、さらにまだいかんともし難い岩盤のような微動だにしない規制が数百以上 もあるという。省庁の縄張り意識も手伝って、絶対に省庁間で譲らない。これ はわが方の権利だとか、これは絶対に権益を手放さないとか。許認可の権限を 官庁が持っているから、ことは相当にややこしくなる。その規制やルールのた めに、いろいろなことが進まない。 ●進まないだけではなく、ルールを改めようとしないから、一向に状況が改善 されない。民間企業なら、業績向上のためにどんどんいいことは取り入れ、ま ずいことは改善するのに、お役人の世界は一向にそういう気配が感じられな い。自分の時代にいらんことはしたくないという意向もあるだろうし、先輩た ちが守ってきた省益というものを自分の時代にマイナスを作りたくない。マイ ナスを作ると、自分の今後の身の振り方に悪い影響を及ぼす。そう考えると、 今ある既得権をマイナスに変えることなどあり得ない。 <京料理を習得する外国人料理人には岩盤規制がある> ●小さいことだが、最近京都で話題になったことに、「京料理」を習得しよう とする外国人への特例措置というのがあった。びっくりしたのだが、海外から 来ている外国人の料理人は、特に伝統の京料理を学ぶことは、相当規制があっ て難しいらしい。一定の厳しい要件を満たさないと許可されないようだ。どう してそのことを知ったかというと、つい先日新聞やTVの報道で、京都市内での 日本料理店での外国人料理人の就労が認められていなかったというのだ。これ はこれでびっくりした。理由がよく分からない。 ●従来あった入国管理法では、外国人が国内の日本料理店で働くことが認めら れず、「文化活動」の名目で入国することのみが許可されていた。このため、 無報酬での修業や客に料理を提供できないなどの課題が、昔から指摘されてい た。最近、京料理を世界に広く認知を深め、さらに一層PRしたいとの思いか ら、2011年に京都市が指定を受けた「地域活性化総合特区計画」の認定を受け て、ようやくこれが認められるようになったとのことだ。京都市は外国人料理 人を受け入れる料亭の選定を始めたという。 ●この特区の認定を受けて、京都市の市長は京都市で修業をした料理人が世界 中で活躍できる環境がようやく整った、とコメントした。今後料亭と一層連携 を深めて、京料理の海外への浸透を図りたいとしている。たったこれだけのこ とが、従来は不可能だった。しかし、これも「特区」という例外を認めたとい うことで、一時的に解決しただけのことだ。他の都市が特区の申請をしていな いだろうから、当面は京都市だけが認められた。京料理を世界に広めたいと 思ったからこそのアクションだ。他の都市ではまだこの規制は生きている。 <競争環境があるとルールを柔軟に変更する> ●一般の企業なら、多少の時間はかかっても、改めるに憚ることなかれの方針 で、毎年毎年どんどんルールが変わるはずだ。こんなつまらない規制が岩のご とくあって、全然変わらないことはあり得ない。いくら社長が頑固でも、社会 環境の変化や世の中の動きを敏感に感じて、方法、やり方、手段などが変わる はずだ。また企業活動が続いているということは、変わらないと継続しないは ずだ。ところが、お役所、官公庁、お上意識のところは、どっぷりと権益、省 益に慣れきると、改めようとしない。 ●これはなぜかというと競争環境がないからだ。競争があると、必ず結果がい いほうに変化する。企業間でも、競争は日常茶飯事だから、必ず業績の向上、 企業の成長のためにルールの変更を柔軟にしている。去年までの方法を改め て、少しでもいい結果が出るように、今年は今年のやり方で行うのが常識だ。 しかし、お役所はそうはいかない。なぜ変わらない、変えられないのかわから ないが、とにかく過去の方法に執着する。長い間かかって勝ち取った省益を、 そう簡単には変えない。変えないことで、自分たちのポジションを守ろうとす る。 ●アメリカは、民主党と共和党の二大政党政治だから、民主党の政権のときか ら共和党の政権に変わったら、閣僚はもとよりワシントンのお役人も一斉に交 代する。霞が関のメンバーがごっそり入替ることが起こるのだから、過去に 綿々としがみつくこともなければ、変化することへの抵抗感も薄いはずだ。と ころが、日本では民主党に政権交代しても、霞が関のお役人たちは従来のまま だ。しばらくじっとしていれば大丈夫。ここでつまらない動きをして墓穴を掘 るより、従来の権益を守ったほうがいいという結論になるのだろう。 <不断の改革が今後の成長につながる> ●日本が大きく変化したのは、明治維新、関東大震災、太平洋戦争などの外部 から大きな圧力がかかったときしか、大きくは変化していない。企業も同様 で、業績がいいときには、なかなか大きく舵を切れない。パナソニックも、あ れだけの大きな赤字を出したからこそ、最近では相当収益力が改善した。昨 日、門真、守口の企業を所用で訪問したが、パナソニックからの仕事はピーク 時点の10分の1だそうだ。それでも、その企業はルールを変えて、他の業界か らの仕事を取ろうと必死で頑張っている。 ●しかし、その企業もルールを変えたのはいいが、業績の向上につながるには 相当の時間がかかる。日本経済の現状を考えると、いま、ここで大きく岩盤規 制に穴を開けて、もっと次の時代、世代に向けて、可能性のあることにどんど んチャレンジするべきだ。そのために、できることは何でもやるくらいの覚悟 を持たないといけない。民間企業は、ぼやぼやしていたら企業の存在、存続す ら危うくなるから、自然にそのような摂理が働いて、勝手に自浄作用で改善、 改革の方向に進むはずだ。しかし、お役所はそうはいかない。 ●たった外国人の料理人を京料理の料亭で就労することを認めてもらうのに、 どれくらい長い努力があり、長い戦いであったかは、想像に難くない。しか し、時代が変わった。京料理を世界に広めて、クールジャパンを促進し、外貨 を稼いで経済の発展に寄与する。そのためには時代とマッチしない規制をどん どん変えればいい。民間企業なら、それをやらないといつかは取り残される。 改善、改革を不断にやらないと、結局は社会から忘れられた存在になる。官庁 に民間企業のロジックを導入すればいい。強力なリーダーシップがあれば、で きるはずだ。