******************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第505回配信分2013年12月30日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その3 〜常に社員に従業員に声をかけ続ける〜 ******************************************** <はじめに> ●尊敬する大先輩の経営者の故土光敏夫さんの名言に、「盆栽も声をかければ よく育つ」というフレーズがある。30代の若いときに、土光さんの書籍に出 会ってこのくだりを読んだときに、全く意味が分からなかった。それから30 年。山あり谷ありの人生を送ったおかげで、ようやくこの文章の意味が分かっ てきた。当初、なんで盆栽に声をかけるんだ、どうしてそれで盆栽が育つん だ、本音のところよく分からなかった。ぴんとこなかった。しかし、苦節30年 の時間の経過は偉大なもので、高い月謝を払った結果、ようやく理解できるよ うになった。 ●非常に簡単なことで、経営トップは常に組織のメンバーに声掛けせよ、とい うことだ。何ということはない。毎日実践していることだと、簡単に考えては いけない。その声のかけ方、声掛けの内容、タイミングなどは非常に重要な要 素なのだ。そして、一番は継続して続けること。思いつきで、少しやっている 経営者の方は多いが、本当に心をこめて毎日毎日続けているかと言うと、これ はそうでもない。実際に顔を見れないケースも多いから、これは昨今ではメー ルになるだろう。顔が見えない相手との声掛けは非常に難しい。 ●先日もお邪魔した某企業では、営業グループのメンバーは朝早く納品や営業 に出発して、帰社するのは夕方以降になるという。帰社したら伝票の整理か ら、業務日報への記載、明日の準備などで、非常にせわしないし、忙しい。管 理職は社内で待機していても、実働実戦部隊は常に外部で動いている。そんな 実態だから、なかなかコミュニケーションが取りづらい。常に顔を合わせてい るメンバー同士でも、なかなか報・連・相は難しいのに、ほとんど終日外部へ 出ているメンバーに声をかけるには、それなりの努力が要る。 <現場感覚を理解する> ●というわけで、報・連・相やコミュニケーションの重要性は重々承知してい るが、なかなかそのチャンスがない。会議ひとつするにも大変だ。一同に会し て会議など、考えようもない。かくてその企業では今まで社員全体で会議をし たこともない。したこともないから、しないのが当然、当たり前になってい る。そんな状態で会議や社員全体集会をしても意味がない。一方通行の聞くだ けの会議になるので、会議ではない。そんな時間をひねり出すのも難しい。難 しいと面倒だから、やらない。それが企業の常識になっている。 ●サービス業などは世間が休みに入ると忙しい。世間と繁忙期、閑散期が逆に なる業種業態も多い。そうなると、会議も2回に分けて同じことを行う必要が ある。サービス業でなくても、製造業でも、場所が2か所以上に分かれると、 同時に同じことを伝達するだけでも難しい。東京と京都に拠点がある場合も同 じことが起こる。以前に在籍していた出版社では、東京支店に150名、京都本 社に150名、総勢300名いたから、同時に伝達するにはどうしても時間差が生ま れる。この時間差が障害になることも多い。 ●かくて、経営トップは走り回る必要がある。多くの従業員、社員と密にコ ミュニケーションを取ろうと思えば、本社や社長室に籠っていてはわからない し、できない。積極的に現場に足を運ぶ、現場で会話をする。同行をしたり、 一緒に動いてみる。半日割り切って、その大事な場所、部署に留まってどんな 様子、どんな雰囲気、どんな環境で仕事が、日常の業務が回っているかを肌感 覚で実感しないといけない。部下の報告も必要だが、これはと思う機会に、必 ず現場に足を運ぶクセをつける。 <それなりに犠牲や努力が必要> ●見たことも、聞いたこともなければ、いくらその従業員や社員に声をかけよ うと思っても難しい。このような環境で仕事をしているから、そのような注文 や要望が出る。そのような意見や提案が出る。どうしてそのような意見や提案 が出るのかという背景を知らないといけない。表面的な様子だけで判断する と、ことの本質を見間違う。本質を見誤ると、その対策は的外れとなる。しか し、実行している側は真剣だ。なんでこんなに一生懸命報・連・相をしている のに、現場は耳を貸そうとしないのか。かくて、断絶、軋轢が生まれる。 ●成岡が知己の京都市内に数店舗展開する焼き肉店は、社員、パート、アルバ イト総勢約300名。通常では年中無休だから、一堂に会することはあり得な い。しかし、その企業では毎年2回店舗ごとの業績発表会を行う。どうしてそ れができるかと言うと、当日は全店休業する。年間10億円くらいの売上がある から、一日休業すれば、売上だけで300万円くらいが飛んでしまう。それと一 堂に会する費用もばかにならない。しかし、拘りを持ち続け、開催を継続して いる。1回は店舗ごとの発表会。1回は全店合同の運動会。 ●若い人が多い企業だから、そのようなイベント的な会議も意味がある。店舗 ごとに所属する従業員もお互いにはそんなに知らない。その従業員が一堂に会 するイベントは非常に意味があるし、意義もある。そこでトップが全員に語り かける。イベント後の懇親会でさらに関係は深まる。一度一緒に食事をした機 会を持つことは非常に大きい。大きなコストを払い、出費を覚悟し、かつ、売 上を飛ばしてでも、やはり開催に意味があり、意義がある。経営トップの揺る ぎない信念、覚悟、意思の強さが感じられる。従業員も同じように感じる。 <組織の基本は意思疎通> ●現状のままで何とか改善しろ、改善をして業績をアップすることは、幹部な ら誰もが分かっている。しかし、実際に現場で実行するのは社員であり、従業 員そのものだ。その実際に実行する当事者が、その意味、意義、目的、手段、 最後の仕上がりなどが分かっていなくて、どうして改善ができようか。また、 一番大事なのは、それを実際にやってできた、達成したときのイメージだ。で きたら、どうなるのか。別に給料が上がるとか、ボーナスが増えるとかではな く、自分たちの環境が良くなるのか、そこが一番知りたい。 ●かくて、改善にはまずトップと全員との意思、意義、目的の共有が最初にで きないといけない。書いた紙を配ったり、会議をしたりしても、なかなか末端 まで浸透しない。浸透するには時間がかかる。毎日、毎日、ずっとそのことを 考えている人と、日常業務のことで頭がいっぱいの人と、同じように理解する には、相当無理がある。だから、浸透するには言葉で繰り返し、繰り返し、く どいくらい伝えて、やっと入り口に一緒に立てると思えばいい。それくらい伝 えるには難しい。一度で伝わると思うなかれ。相応の努力が必要だ。 ●日ごろからの声掛けが徹底していれば、改善であろうが、何であろうが、以 心伝心。トップの心はすぐに伝わる。日ごろのコミュニケーションができてい ないと、その場で急に意思疎通を図ろうと思っても、難しい。簡単なことは、 コミュニケーションは一朝一夕にはできないということ。これが一番日ごろか らの地道な活動がものをいう。組織の基本は意思疎通。それがどれほど難しい ことか。数字より、資料より、会議より、まずは声をかけること。現場に出て 意思疎通を図ること。王道はない。毎日の継続こそが近道なのだ。