******************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第517回配信分2014年03月24日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その15 〜最後の決定は社長が腹をくくり覚悟すること〜 ******************************************** <はじめに> ●所有と経営が一体化している中小企業は、最後の最後は社長がことを決めな いと、何も進まない。所有と経営が一体しているということは、株もほとんど 持ち、経営の実権である代表権をもち、借入金の連帯保証も行い、場合によっ ては私有財産特に自宅などを担保に入れてでも、会社の経営を行っている。連 帯保証と言うのは特に厳しい保証で、連帯だからあらゆる借入、借金、債務に 連帯している。単に金融機関からの借入金とだけではない。いろいろな債務に 連帯している。とにかく、命がけになる。 ●そのような個人保証は厳しいので、過度の保証を求めるのを止めようという 動きはあるが、しかし、いずれにしても中小企業の代表者というのは、いつま でいっても、どこまでいっても、会社の経営の責任からは逃れられない。中小 企業の代表者になった瞬間に、そのことは当然のことと受け入れる。また、受 け入れないと中小企業の代表取締役社長はできない。その点、大企業、上場企 業の代表取締役社長は大いに立場が異なる。まさに、正しく所有は株主だし、 その株主から経営を委嘱されている立場になる。 ●ところが、この立場が中小企業は180度異なる。これはその立場になってみ ないと分からない。特に、中小企業では代表権が複数と言うのは珍しいので、 ほとんどが社長に代表権があり、まさしく所有と経営が一体化している。まれ に、取締役社長と言う方がいらっしゃるが、それはお父さんの会長に代表権が あり、執行役の責任者という立場が多い。最近のはやりことばで言えば、CEO とでもいう立場だろう。いずれにしても、中小企業は同族経営が多いから、そ の一族で株式を持ち合い、経営の責任も全部背負っている。 <すべての責任を取る代表取締役という立場> ●業績が順調でも、順調でなくても、とにかく会社の中や外で起こっているこ とのすべての最後の責任は社長が背負うことになる。それがいやなら、そもそ も中小企業で経営を承継していはいけない。何となく後継者だから社長になっ たということなら、いつかはそのプレッシャー、責任の重たさ、ことの重大さ に負けることになる。途中の中途半端なところで投げ出すのが一番始末に悪 い。それなら、もとからならないほうがいい。安易な気持ちで最高経営責任者 を引き受けるのは、あとでややこしいことになる可能性が高い。 ●しかし、たいていの中小企業は経営者の代わりになる人物、人材が一族以外 にはほとんどいないから、必然的にご子息になったり、親戚になったりする。 それも比較的血縁的には近い一族が承継するケースがほとんどだ。最近では、 長男オンリーから次男や娘婿の方に承継するケースも多い。選択肢が多様に なったというのか、男性の子息が承継しないケースが増えているのか。しか し、いずれにしても中小企業の経営を承継するというのは、実際に大変なこと だ。あまり大変だ、大変だというと、やる人がいなくなるかもしれない。 ●古臭い表現に「天命」というのがある。もともと「運命」なのだということ だ。長男に生まれたら、家業の事業を承継するのは当然だ。もとより覚悟の問 題だ。だから、そこそこの年齢になり、30歳を超えてから、本人を口説いて口 説いて、ようやく説得が奏功し、社内に移籍してもらったなどというケース は、非常に大変だ。その場合は、しかし財務内容をそこそこご存じなので、あ る程度の覚悟はできているだろう。それに引き替え、特に何もなく無難に承継 されたようなケースで、財務内容などが完全に情報開示されていない場合もあ る。 <私心を捨てれば見えるものが違ってくる> ●成岡も32歳のときに義兄の説得に応じて、半年考えたが、腹をくくって大企 業から中小企業に移籍した。結果的に、これがその後の大波乱ドラマの幕開け だったのだが、正直移籍するときに詳細に財務内容や事業内容の説明を聞いて はいない。それまで親戚なのだから、おおよそは聞いてはいたが、詳細を聞い たらノーとは言えなかっただろう。その時点では、もう後戻りできないと腹は くくっていた。その後、会社が破綻し、部分保証で担保に入れていた自宅は競 売にかけられることになるのだが。 ●開き直ったということでもないが、そこまでの状態になると、自分で選択し た道だから、特に後悔はしなかった。反省は十分過ぎるくらいしたが、後悔し ても以前の状態に戻るわけでもなく、意外とさばさばしていた。ああ、会社が 潰れたんだと、意外と冷静で、目の前で繰り広げられた修羅場も、意外と冷静 に見ていた。まあ、その状態にまでなると、自分自身でもどうしようもないこ とも理解できたし、そんな感情的になる暇もなかった。なにせ、300人の社員 の今後の進路が大変だった。おカネよりそのことが大変だった。 ●潰れたらどういうことが起こるかは、やってみないと分からないが、とにか く最後の最後の腹を決めておけば、特に慌てることもないし、どたばたするこ ともない。そんなことより、そのような心配をすることより、そうならないよ うに必死になって努力すればいい。やるべきことをやって、とにかく前を見て 一生懸命やってみれば、見えるものが違ってくる。いろいろとつまらないこと を考えると、ことの本質が見えてこない。心をすっきりして、私心を払い、と にかく社業のことだけを念じて、遠い先を見て努力すればいい。 <真正面から課題に向き合う心を持つ> ●ときに大きな決断も必要だし、将来に向けて不確定、不確実なことを決めな いといけない場合もある。社業も順調なときばかりではない。むしろ順調なと きのほうが少なくて、難しい局面のほうが多いはずだ。どうしてこんなに苦労 ばかりなのだと、愚痴のひとつも言いたくなるが、トップが愚痴を言えばそれ でおしまいだ。社内でトップが愚痴を周囲に言えば、とたんに社員のモチベー ションは下がる。愚痴は社外の関係ない人に聞いてもらうのはいいが、特に立 場が下の人に言ってはならない。 ●決心したら、どうやればうまくいくだろうかと真剣に、必死に、一心不乱に 考えればいい。誰かが考えて、いい案を持ってきてくれるのを期待するのはや めた方がいい。仮にそういうことがあっても、最後に決断するのは自分だか ら、責任は自分が一身に背負うことを覚悟する。そして、順調にいけば部下の 手柄だし、ほめてやらないといけない。もし、何か問題が起こったら、それは 最後は全部自分の責任だ。部下の責任にしたり、二階にあげて決して梯子を外 してはいけない。そんなことをしたら、あっという間に組織は崩壊する。 ●どうあっても、最後の責任は免れないのだから、腹をくくるならあっさりと 決心したほうが精神的に楽になる。悩んで悩んでどうしようかと悩むより、真 正面からぶち当たるという覚悟を木俣ほうがいい。相撲ではないが、立会いま ともに当たらないといけない。肩すかしや引き技はよくない。一度は奇策で勝 てても、長くは続かない。正攻法で真正面からことにあたっていると、見える ものが変わってくるし、頭の中もすっきり整理される。いらないことをごちゃ ごちゃ考えると、引き出しが混雑する。決意を固めたら、見えるものが変わっ てくる。その境地に早くなることだ。