******************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第518回配信分2014年03月31日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その16 〜後継者教育では失敗経験の原因を伝える〜 ******************************************** <はじめに> ●後継者がいなかったら話しは別だが、仮に後継者がいるとすれば、その方へ の教育は現在の社長の最大の仕事だ。これを意外と怠るというか、ないがしろ にするというか、面倒だからやらないというか、そういう方が意外と多い。ま た、何をすればいいか分からないので手を出せないという方もあるだろう。し かし、今まで幾多の企業とかかわりがあったが、やはり業績が順調で、それな りの結果を残している企業では、後継者の教育を見えないところで時間と手間 をかけて、一生懸命にやっていらっしゃる。 ●何をすればいいのかは、業種業態により大いに異なるだろうが、大事なこと は自分が成功してきたパターンを押し付けないことだ。なぜかというと、それ は「その時代、環境では」という枕詞が付くからだ。特に、昭和40年代の後半 から50年代にかけて、設立創業された企業や、その時代に大きく業績や規模を 伸ばされた企業では、その成長の過程は神話のようになっているはずだ。現在 社長の自慢話は、必ずそこから始まる。聞いている方は、またそれが始まった ということになる。あまり気持ちがいいものではない。 ●むしろ、伝えてほしいのは、失敗した経験談だ。その失敗も小さいものでは なく、今から振り返ると結構後になって影響の大きかった失敗経験だ。何も、 事業だけの失敗ではない。幹部社員の採用、設備投資の決断、新商品の開発、 金融機関との付き合い、融資を受けたこと、無理に返済をしたこと、などなど それは長く企業経営をやっていれば、何なりとうまくいかなかったことは山積 しているはずだ。その失敗経験、うまくいかなかった経験、表面的な現象では なく、その本当の原因は何だったか、そこが肝心だ。 <失敗の経験を伝える> ●なかなか、後継者に自分の失敗を正直に伝えるのは難しい。恥もあるだろう し、嫌なことも言わないといけない。現在の借金の原因がそこにはあるので、 あまり言いたくないことも事実だろう。しかし、成功した手柄話より、失敗と 言うか不成功の事実の原因を自分なりに推測して、なぜ結果的にそうなったの かを分析した自分なりの解釈を伝えることだ。もし、それができたら、その失 敗現象の中に絶対的な普遍の真理があるだろう。原則論が隠されているはず だ。こういうことは必ずしてはいけないと。 ●あるいは、必ずこういうことはチェックしないといけないと。こういうこと は誰かに必ず確認しないといけないと。こういうことは必ず自分の目で見て確 認することが必要だと。意外と大事なことを幹部の報告を鵜呑みにして決断す る。そしてあとになって自分が勝手に想像したイメージと異なることになった ら、その幹部を叱責することもあっただろう。大事なことは、最後に大きな決 断をするときは、必ず自分で見て、判断して、決断することだ。最後の最後で 自分の目で見た時に違和感を感じることも多い。 ●そういうときは案件が最終段階になっていても、ちょっと待てよと、いった ん退いて考える。あるいはヘリコプターのように上空に舞い上がってから、森 全体を見る。その対象となっている樹木ばかりを見ていたのでは、なかなか森 は見えない。担当者は、必死に樹木を育てようとしているが、森全体から見れ ば、どうも調和がとれていない。バランスが悪い。その樹木が育つ環境ができ ていない。育ったときに周囲と調和しない。そんな違和感があれば、ぎりぎり の段階でもストップを決断する。ところが、それがなかなかできない。 <失敗の本当の原因は何か> ●止める決断はトップしかできない。担当者はそれでも前に進もうとする。意 思は立派だが経営と言う観点と、担当者が判断する立ち位置とは、当然ながら 物差しが異なる。それが最終的に全部失敗とは言わないが、そのときの迷い、 決断の遅れ、判断のぶれ、それがなぜそうなったのかが非常に重要だ。特に、 自分が得手な、得意なジャンルほど間違いが多い。思い込み、先入観、時代環 境の読み違い、担当者への信頼し過ぎ、おカネの計算違い、金融機関の態度の 豹変など、枚挙に暇ない。 ●成功は、実はたまたまということが多い。最初から狙ってホームランが打て ないのと同じで、結果オーライが多いと思っていた方がいい。結果オーライが 多い企業は、しかしそうなるように日ごろから社長以下が、たまたまを大事に して、結果がでるように活動している。しかし、きっかけは偶然やたまたまが 多い。努力しているから偶然の結果オーライが生じるのであって、表面的な成 功より何を日ごろから地道に積み重ねてきたのかが大事だ。それは、その企業 の風土であり文化なのだ。これは、そう簡単にはできない。 ●逆に失敗には、絶対的と言っていいくらい本当の原因が存在する。もちろ ん、トップ自身の簡単な判断ミスもあるだろう。その判断ミスが大事なのでは なく、どうしてそんな簡単な判断ミスをしたのかということだ。おそらく、そ のとき他に色々と心配事があり、集中力が欠けていた。自分の個人的なトラブ ルが周囲にあり、そちらに気が行っていた。体調が悪く、どうも頭がすっきり していなかった。そのような、間接的な、内在していた原因があり、それで判 断を間違った。そういうことは、実は山ほどある。 ●特に、体調が思わしくないときには、たいてい後になって振り返れば、判断 のミス、間違いが多い。社長とて人間だから、24時間365日機械やコンピュー ターのように正確に判断が下せるものではない。大事なことは、人間は間違う ということを自分自身が肝に銘じているかということだ。成功体験の強い人、 自信過剰の人ほど、人間はそもそも間違う動物だということを理解していな い。野球の打率ではないが、10本のうち3本ヒットが出れば大打者だ。さよう に肝に銘じてことに当たれば、間違いの確率は下がるはずだ。 <成功体験より失敗体験が重要> ●後継者の方に、ぜひ伝えて欲しいのは成功体験ではなく、この失敗体験だ。 これだけは、必ず守ること、絶対にないがしろにしてはいけないこと、会社の 創業以来ずっと守ってきたこと。老舗の場合は、それらは家憲や家訓という表 現で代々受け継がれている。小職は、家訓の研究を一時熱心にやっていた時期 もあったが、ほとんどは原理原則論だ。しかも、これこれはしてはいけない、 これこれを守ることなどという表現が多い。具体的な詳細なことはほとんど書 いていない。時代環境が変わるから、具体的なことは書けない。 ●某老舗の商品開発の家訓には、最低10年間は販売可能な商品しか開発するべ からずという文章があった。まあ、拡大解釈すればいいと思うが、それでもこ ろころ変わるような商品開発は慎め、ということだろう。このようにずっとそ の企業で大事にされてきた先代からの掟が、家憲家訓なのだ。老舗は特に後継 者教育と大々的に言わなくても、その企業の憲法が存在する。時代と共に生き てきたその企業なりの、独自の掟がある。それが綿々と後継者に刷り込まれて いく。それが非常に素晴らしい。 ●人間は、そもそも間違うものだ。だから、原理原則が必要なのだ。それも、 失敗から学ぶことが多い。逆に失敗するからこそ、そこから貴重な体験をし て、得難い教訓を勉強する。成岡も今まで山ほどの失敗を重ねてきた。出版社 の際には、企画で大失敗し、山ほどの在庫を積み上げたこともある。最大の失 敗は300名100億円の会社を潰したことだ。同族取締役としての最大の失敗は、 これに尽きる。しかし、大きな犠牲、大きな代償を払って、得難い教訓を得 た。失敗の教訓を後継者に伝えること。それが先代社長の責任だ。