******************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第526回配信分2014年05月26日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その24 〜社内で本音で語り合える雰囲気を常に作る〜 ******************************************** <はじめに> ●社長と社員とが常に本音で語り合える環境を作ることは、非常に難しい業の ひとつだ。これが出来ていると会社の、企業の方向性がぶれない。しかし、ほ とんどの企業で、会社で、社長と従業員、幹部社員、役員が、本当に本音で語 り合える、議論ができる、話しができるかというと、これは実際のところ、そ うではない。たいてい、本音は置いておいて、周囲の人間関係に気を遣い、そ の場の雰囲気、流れを壊わさないようにするのが普通だ。TVのドラマで放映さ れているような、活発な意見が飛び交う会議は、あまり見たことがない。 ●会議と改まって設定しなくても、社員や従業員のデスクが並んでいる事務所 やオフィスの中で、本当に周囲を気にせずにフランクに、率直に意見交換でき るなどというのは、夢のまた夢のようだ。特に、人間関係が絡んだ相談事や、 人事関係の案件は、どうしても人目を気にするから、社長室や応接室などの密 室で会話することになる。数名が呼ばれて社長室に入ると、周囲の人は、いっ たい何が起こったんだろうと、疑心暗鬼にならざるを得ない。それくらい、社 内で率直な意見交換など、お題目は唱えるが、実際は難しい。 ●特に同族一族で運営されている同族会社が多い中小企業では、なおさらのこ と、本音で語り合える環境を作るのがトップの役目なのだが、これがなかなか うまくいかない。小職も以前同族会社で20年間くらい在籍していた経験から申 し上げると、意外と同族だから遠慮なくものが言えると思っていらっしゃる方 も多いかと思うが、実態は逆でそんなことはない。むしろ、いろいろな過去の 出来事や人間関係のしがらみがあって、他人の方がものが言いやすい。その言 いにくさがずっとわだかまりとなり、深い溝となり、亀裂が入る。 <正直に言わないと疑心暗鬼を生む> ●それも、業績がいいときは七難を隠す。おカネが順調に回っているときはい い。いったん、カネ詰まりになってくると事態は急変する。その時点でいろい ろと本音が出てくる。しかし、そこまで詰まってしまうと、実は遅い。それま でに本音の会話がどれくらいできていたのか。そこが重要だ。筆者も同族会社 の一族役員だったから、おおよその会社の財務的な経営状態は知っていた。特 に最後のときは、当然役員報酬は減額になり、決まった時期の支給も滞った。 そんな状態を見ていたから、相当厳しいとは当然察しがついていた。 ●しかし、本当にどん底になっていることを知ったのは、破綻する直前だ。も う、これではもたないとなって、家族会議と言うか、同族役員会というか、関 係者が集まり、最後の晩餐のようなお通夜のような会議があったのは、本当に 最後の最後だ。それから、ことは急に動き出す。そうならない以前にも、チャ ンスはあったのだろうが、その時点その時点では最善の選択をしたのだろう が、それが果たしてよかったのか。不安を生むかもしれないが、ことを正直に 全部ありのままに伝える方が、あとでわかるほどいやなことはない。 ●だが、経営トップの位置になると、そう簡単には思えない。これを言ったら まずいとか、これはいま知らさない方がいいとか、いろいろと立場、状況があ るので、ある人にはこれを言い、ある人にはこれを言わないということが起こ る。そうなると、情報量がばらばらになり、統制が取れない。そのうちに、情 報のリークが始まり、非対称の情報が勝手に一人歩きする。そうなると、もう トップの力量では収拾がつかない。かくて、疑心暗鬼になったマイナスの情報 が流れ流れて、組織の統制がとれなくなり、最後は崩壊した。 <下の立場になるとよく分かる> ●さて、同族一族企業で、いかにしたら本音で一族が、幹部が社長を交えて語 れるか。これは永遠の課題だが、つまるところトップの日ごろの姿勢にかかっ ている。ある日突然本音で会話しようと言っても、それまでそんなことをして いない中小企業で、急に社長が言ってもできるわけもない。毎日、毎日、少し ずつ少しずつ、大事な大事な場面で、本音をずっと語っていれば、周囲は敏感 に感じ取るものだ。筆者は両方の立場を経験しているから、非常によく分か る。社長がそのような姿勢を見せない限り、本音トークが成立することはあり 得ない。 ●立場が下のものから本音で語るのは難しい。まずは上の立場の者が、正直な 本音を語って、初めて下の立場の者が本音で語り合えるようになる。キャッチ ボールと同じで、まずどちらがボールを投げるのか、それが大事なのだ。報・ 連・相がない、ないと嘆くトップは自分が報・連・相が下の者に対してできて いないと、自問自答すべきだ。意外とそう思っていないトップの方が多い。会 議でも一生懸命部下が本音を語ろうとしているのに、トップが下を向いて目を 反らす。話している者は、エネルギーが湧かない。 ●簡単に気が付きそうなことが、意外と自分では分からない。そういうものだ と自覚していないといけない。裸の王様になってしまうと、情報があがってこ ない。いい話しばかり聞こえてきて、現場の本音が分からない。そうこうして いるうちに幹部の離反、離職が始まる。慌てて引き留めるが、本音が分からな いから、いくら引き留めても、もう遅い。しかも、退職の理由を本音で語らな い。だから、一番重要な原因が分からないまま、幹部が一人、また一人と、櫛 の歯が欠けるように抜けていく。 <トップの姿勢ひとつで事態は変わる> ●慌てて退職する幹部に社長が直接面談しても、正直なところ、本音は言うは ずもない。この企業、この会社に愛想が尽きたというのが本音だろうが、そん なことを本人に面と向かって言う人はいない。まして、これからその組織から 離れる人が、いやなことを言って立つ鳥後を濁すようなことを言うはずもな い。実際にトップが面談して、正直に退職の理由を口にした人は、記憶の中に はない。たいてい、適当な理由を言って、その場を取り繕う。そして、後で トップに聞いたら、さしたる不満も言わないで退職したという感想しか残らな い。 ●日常からいかに本音で語り合える場を持つか。そのような環境を作るかは、 いつにトップの姿勢にかかっている。もちろん、最高機密の情報をどんどん出 せと言っているのではない。しかし、経営的にこれは重要だと思えば、さっと 幹部を集めて、大事な部分を伝える。幹部が口が軽いから最後まで言わないと いうトップもいらっしゃるが、それは姿勢が間違っている。信用していないと いう姿勢は、黙っていても伝わる。そうなると、少しの情報しか出さないと、 かえって疑心暗鬼になり、憶測で間違った情報が流れる。 ●いま、現在、言えることはここまで。これ以上の情報は、いまは伝えられな いが、順次分かった時点で情報開示する。このようにきちんと正直に、正確に 言っておけば、みんなは安心する。当然、公開された以上の情報があることは わかっている。しかし、今はここまでしか言えないのだと、聞いているほうは 理解している。立場が違うのだから、当然そうなることはわかっている。それ を踏まえて、真摯に、真剣に、一生懸命、いま、言えることを語ること。その 姿勢が聞いているほうの心を動かす。本音トークとは、そのようなものだ。意 外と簡単なことだ。