**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第530回配信分2014年06月23日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その28 〜重要なことは徹底的に深く考える〜 **************************************************** <はじめに> ●経営者のしないといけないこと、やらないといけないことは、将来の自分の 会社の事業の方向付けをすることだ。これが定まらないと、何をやっても腰く だけになる。方向付けが決まれば、あとは経営資源を適正に配分し、リーダー シップを発揮して結果を出す。こう書けば簡単そうに見えるが、この方向付け をすることが、非常に難しい。過去の高度成長経済の時代は、そう難しい話し ではなかった。毎年、毎年、売上は伸びていったから、とにかく頑張れば何と かなった。得意先の成長についていくのに必死で頑張ればよかった。 ●あまり周囲の環境だとか、時代の変化とか、難しいことを考える必要がな かった。人口は増え、経済は成長し、会社は大きくなり、売上は伸長し、給料 も右肩上がりでアップした。車も、当初小さな軽自動車から出発して、買い替 えるたびに一回り大きな車に乗り換えた。これを、当時の言葉で「乗りあが り」と言った。トヨタのTVCMで、中年の象徴とも言うべき俳優の山村聡さんが つぶやく「いつかはクラウン」という有名なフレーズが、当時の経済成長を端 的に物語っている。まさに、みんな「いつかはクラウン」を信じて働いた。 ●事実、経済もそのテンポ、スピードで成長した。いや、膨張したというのが 正しい解釈だろう。1964年の東京五輪から始まり、1991年のバブル崩壊まで、 いろいろと山谷はあったが、どうにかこうにか日本経済は右肩上がりで上昇し た。そしてバブルが崩壊し、東西冷戦が終了し、グローバル経済になり、1995 年のWindows95の登場によるIT社会への突入。何もかもが、以前の環境と様変 わりした。いまや、日本単独でものごとが考えられない時代になった。外国か らの観光客が2000万人になるという。外国人労働者の受け入れもどんどん増え てくる。 <リスクを取らないとリターンはない> ●一方で、しからば海外と中国に渡った企業も、数多い。そして中国は世界の 工場から、世界の消費地に変貌を遂げている。しかし、ここで少々雲行がおか しくなってきた。経済成長率も鈍化し、国家の最高の意思決定機関の大会の冒 頭で、国のトップが公務員の汚職の撲滅をまず言わないといけないくらい、内 部の腐敗がひどいという。高速鉄道をどんどん建設したが、乗客が極端に少な い。高層マンションを建築したが入居が非常に少ない。幽霊の出るお化けマン ションが林立しているという。どこか国が狂っている。 ●そんな中国に経済を頼らないといけない現状も、非常にリスクがある。かと いって、では代替案があるのかと言えば、実はそうでもない。恐ろしいが、恐 ろしいものを見ながら、薄氷を踏む思いで企業経営をしないといけない。この 状態で、きちんと自社の事業の方向付けをやれと言っても、非常に難しいこと はよく理解できる。しかし、だからと言って現状のままでじっとしておればい いかというと、そうではない。じっとしているとすぐに置いてきぼりになる。 先行している企業との距離がどんどん遠くなる。 ●中国がリスクが高いなら、別の東南アジアの国がいいかというと、これも結 構リスクが同様にある。タイ、ベトナム、インドネシア。宗教、民族、言語、 教育、治安、インフラなど、おおよそ事業を継続的に営む環境が整っている国 などない。何がしかのリスクが存在するのは常識だ。逆にリスクがあるから、 リターンもあるのだ。どのリスクをどう予測して、事前にどれくらいの準備に 時間とお金とエネルギーをかけられるか。検討した結果、リスクが高いからで はやめましょうで、本当に自社の将来はいいのか。やはり、一歩踏み出すべき か。 <従来の殻をどうやって破るか> ●このような難題を紐解かないと、将来の自社の事業の方向付けはできない し、また出てこない。これが、社内の会議室で検討、議論して、果たして結論 が出せるか。検討し議論するメンバーは、では誰か。営業部長、経理部長、製 造部門の責任者の工場長などか。これに、子息の役員が加わるくらいだ。果た してこれで、自社の将来の事業の方向性が決められるか。経営トップが不安を 感じるのも、分からないではない。特に、大きな投資を伴う方向性の決定は、 非常に不安になるものだ。果たして、これが正解なのだろうかと。 ●結論的に言うと、正しい答えなどないと割り切ればいい。経営に王道はある が、正解はない。近道もない。あるのは、必死になって行動し、考え、検討 し、悩み、苦しんで答えを見つけるしかない。それは、誰もやらない。経営 トップが自らリーダーシップを発揮して、するしかない。誰もこれを代行する 人はいない。正しい答えなどはないから、比較優位のプランを実行していくし かない。想定外の環境の変化もあるだろう。そんなことを心配していても、き りがない。確率的に割り切るしかない。しかし、事前に想定できるように情報 はいっぱい集める。 ●自分で集めるには限界がある。自分の知っている範囲からしか集まらない。 それを超えて何らかのアクションを起こそうと思うと、未知の領域に踏み込ま ないといけない。そこには猛獣がいるかもしれないし、お化けが出るかもしれ ない。非常に勇気が要る。だから、やりたくないし、やらない。やらないとい つまで経過しても同じメンバーで、同じような話しをして、同じような会話に しかならない。外から風が入らない。だいたい外の風は冷たい。だから窓を開 けても、すぐに閉める。少し風が入っただけで、部屋の空気は完全には変わら ない。 <徹底的に深く考えることが仕事> ●しかし、この方向付けをすることが決定的に重要なことだ。重要だから、深 く一生懸命に考えないといけない。会社の中だけ見ていたのでは、おそらく分 からない。色々なところに情報を取りに行く。いろいろな会合に出席してみ る。今までと全然違う人に会ってみる。たまには、海外に数日間ふらっと出か ける。東京に定点観測に行く。参考になりそうな書籍や雑誌を、手当てり次第 に読み漁る。参考になるビジネスTV番組や新聞を、とことんウォッチする。そ れくらい徹底してやっても、自信が持てないし、分からない。 ●正解はないと思えば、多少は気が楽になる。ないから、逆に自分が行きつい た結論が正解だと思えばいい。あまり極端な思い込みはご法度だが、トップの 思い込みがないと絶対に事業は成功しない。おそるおそるやっていたのでは、 結果が出ない。どこかで、すぱっと割り切るしかない。しかし、そこまでは徹 底的に深く考える。とことんこだわって深く考える。深く自分で考えずに、周 囲に簡単に投げてはいけない。質問はいいが、結論は自分で出す。他人が出し た結論に、相乗りするのはよくない。先に行ってから、弱さが露呈する。 ●方向付けを苦しんでするために役員報酬をもらっているのだと思えばいい。 会議に出たりすることで、報酬をもらっているのではない。立場上誰も出来な い意思決定をするために高い報酬をもらっているのだ。そう思うと、業績が悪 いからといって、あまり自分の報酬を極端に削減してはいけない。最高に責任 あるミッションを全うするために悩む対価として、自分の役員報酬があるのだ と思えばいい。この重要な自社の事業の方向付けをするためには、徹底的に深 く考える。そのことだけが、経営トップがやれることだし、またやらないとい けないことだ。