**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第539回配信分2014年08月25日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その37 〜自社の資産内容を正確につかむ〜 **************************************************** <はじめに> ●中小企業の決算書は、あまり正確ではない。正しくないというと誤解が生じ るので、そういう表現は控えるが、特に資産の内容に関してはあまり正確な数 字でないことが多い。これは、いろいろな事情があり、一概に全部だめとは言 えないが、数字の信憑性が乏しいとなると、何を信用していいのか分からなく なる。しかし、税理士さんは真実を知っているが、当の社長さん自身が資産内 容に関して、あまり正確にご存じない。ご存じないから、税理士さんの言うこ とが100%よく分からない。結果的に不正確な決算の数字になってしまうこと が多い。 ●上場企業は、株価と言うものが公開されており、その株価に対して一般人が 投資目的やその他の目的で資金を投入している。それに対して、業績がよけれ ば配当と言う形でリターンをする。投資に対して配当リターンというのは、非 常にわかりやすい。古い企業なら1株50円というのが多いので、配当も数円ど まり。新しい企業だと、1株50,000円というのも多いので、配当も桁が変わっ てくる。しかし、結局1株に対していくら配当するのかが問題になる。業績が 悪いと配当できないから、「無配」ということになる。経営者としてはつら い。 ●ところが、中小企業はほとんどが非上場だから、株価が公開されていない。 つまり、決算の内容を公開しないでもおとがめがない。本来はしないといけな いのだが、株式が公開されていないため、ほとんどの株主が身内であり決算内 容の公開が求められることは非常に少ない。もし、あるとすれば、それは逆に 何か内部でトラブルがあったとか、外部から例外的に要請があったときだ。そ ういうときは、一般的にはいい状態ではない。むしろ何かのトラブルという ケースが多い。例外的に、事業承継で後継者に株を譲渡するケースだ。 <資産内容に疑わしいものがある> ●株価の計算にはいろいろな方式、方法があるが、ベースになる数字は会社の 決算の数字だ。特に、貸借対照表の左側、すなわち資産の数字が大きくものを 言う。この企業、この会社は、いったいいくらの財産を持っているのか、資産 価値を有しているのか。つまり、事業を何年もやってきて、会社として価値の ある財産がいかほどあるのかということだ。まだ5年や10年の企業なら、財産 価値は流動的な部分もあるが、30年くらいの業歴のある企業なら、相当な資産 が本来あるはずだ。相当な資産がないと、30年も事業が継続できない。 ●資産はご存じのように、上から「流動資産」次に「固定資産」と現金に換え にくい順番に並んでいる。一番上は、従って現金と預金になっている。順次現 金に換えにくい、なりにくい順番に並んでいる。その中で、いろいろな科目が あるが、資産の中味を金額に置き換えて全部記載されている。現預金は、預金 口座の残高証明書で証明されているから、正しくないことはあり得ない。しか し、以下に並んでいる売掛金や在庫である棚卸資産などが、本当に記載されて いる数字の価値がある財産であるかは、非常に疑わしい。 ●すべて疑わしいわけではないが、一部の資産に関して実はその数字ほど資産 価値がないケースが多い。例えば、売掛金の中に以前からの取引先で倒産した お店や会社の売掛金が依然として記載されている。本来、倒産した企業やお店 に対する売掛金は、裁判所がその売掛金の判断を下し、配当がいくらになるか が確定した段階で処理をしないといけない。1,000千円の売掛金が回収不可能 になり、裁判所の判断で100千円しか回収できないと決定したら、900千円は損 金となる。損益計算書に計上しないといけない。 <在庫商品の価値が毀損する> ●ところが、その金額を損金で計上するとどうしても業績は悪くなる。自社の 責任ではないにせよ、最終の利益が減ることになる。最悪は最終が赤字にな る。これは経営者としてはいかんともし難い。よって赤字決算にはしたくない ので、どうしても損金に計上するのを、もっと大きな利益が出た時にしよう と、処理を先送りする。ところが、いつまで経過してもそんなにびっくりする くらい業績が良くならないと、結果的にいつまで経過してもその売掛金の取り 戻せない金額が処理できない。押入れの奥にしまっておかざるを得ない。 ●そのような未処理の損金や、取り戻せない仮払金、貸付金など、いろいろと 「膿」があるものだ。また、一番多いケースは在庫、すなわち棚卸資産の数字 が現実的ではない。個数も原価もあっていても、その在庫が本当に在庫として の価値があるのかどうか。価値があれば、売れれば定価で売れるはずだ。とこ ろが、古い在庫は通常定価では売りにくい。アパレル商品などは、バーゲン セールで売れれば換金できるが、定価では売りにくい。おっつけマイナスを覚 悟して売り切ることになる。 ●まだ、値下げして見切り千両で売れれば、それに越したことはない。成岡の 所属していた出版社のように、いったん在庫になった返品された書籍が、再度 書店の店頭に並んで売れることは、滅多にない。一部の本当の例外を除いて、 今まで見たためしがない。今なら、ブックオフで引き取ってもらうこともでき なくはないが、以前はそんな業態はなかった。かくて、棚卸資産特に在庫商品 の価値は、いかほどのものだろうか。この判定は非常に難しい業界がある。分 かりやすい業界もあるが、判断が非常に難しい商品もある。 <・・・> ●固定資産の減価償却を先送りする企業さんも多い。製造業なら減価償却費は 結構多額になるので、減価償却費を計上しないと損益的には相当大きく収益の 見た目の改善に寄与する。本業が何らかの理由で今期赤字になりそうなとき、 減価償却費の計上を見送ると黒字になる場合も多い。そんなとき、経営者の方 が金融機関へのポーズのため、あるいは取引先へ赤字決算ではまずい場合に、 償却を見送って黒字決算に修正してしまう。これは税務署での申告は問題ない から、そのまま決算としてまかり通る。 ●とにかく、失礼な物言いかもしれないが中小企業の決算書はどこかおかしい ことが多い。経営者の方は、1円までの正確な数字は分からないにせよ、この 決算書の資産の中にいくらくらいダメな資産が隠れているかは、おおよそはご 存じのはずだ。売掛金でいくら、棚卸資産でいくら、償却不足でいくら。それ を合計すると結構大きな金額になることも多い。しかし、その大きな金額をマ イナスしたのが、自社の本当の資産の正確な金額だ。たいてい、現在の決算書 の資産金額より目減りすることが多い。増えることは滅多にない。 ●大事なことは、経営者の方が自社の本当の資産の数字をきちんと掌握してお くことだ。何も急に決算書の数字を訂正することではない。本来はしないとい けないのだが、それよりも自分自身でいったい自社の流動資産は正確にいくら なのか、固定資産は正確にいくらなのか、それを知っておくことは非常に大 事だ。おそらく相当に目減りするはずだ。その分、現金がマイナスになるので 資金繰りが厳しくなっているはずだ。おカネが足りない、足りないと嘆く前 に、自社の資産内容を今一度正確に点検することをお薦めする。びっくりする くらい数字が違うことが多い。