**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第540回配信分2014年09月01日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その38 〜大事の思案は軽く、小事の思案は重く〜 **************************************************** <はじめに> ●今回のこのテーマは、某雑誌の編集長のコラムからヒントをいただいた。何 にしようかなと迷っていたときに、月末に届いた雑誌の表紙をめくった巻頭の 編集長コラムにこのフレーズが書いてあった。日ごろから感じていたことを、 ずばり本音で書いていたので、これはばっちりとテーマの表現だけいただい た。成岡の手元には、最近増えて無料、有料の定期刊行物の月刊誌が数誌届 く。さっとみて捨てる雑誌もあれば、ほとんど一月手元に置いて、移動の時間 帯に熟読する雑誌もある。内容によりいろいろだ。 ●まあ、大雑把に言えば内容もさることながら、無料で送られてくる広告中心 の雑誌はざっと見てのぽい捨てが多い。自分が懐を痛めて1年、3年有料で定 期購読を申し込んだ雑誌は、やはり投資したという意識があるので、比較的丁 寧に読んでいる。打算的なのだが、どうしてもこのマインドは変えられない。 ただ、週刊で来るビジネス誌だけはぱっぱと読んでためないようにしている。 これを熟読などとしていると、あっという間に数冊たまりとても大変なことに なる。週刊誌は新聞と同じ感覚で読むことだ。 ●さて、タイトルのテーマに戻るが、編集長コラムによると数多くの名経営者 に取材した結果、傾向として言えることは成功の要因を聞くと意外なことに 「単に自分は運が良かった」という言葉が多いという。これは非常に興味深 い。本来ビジネスの世界は合理的な数字の世界のはずだ。しかし、多くのこと をなした経営者の方々は、「たまたま、いまのビジネスに運よくめぐりあった だけ」だと言う。これはどういうことを指しているのか。ここで言う経営者の 方は、ご自分で創業された方が多い。何代も事業承継された方は少ない。 <大事の決断ほどおおまかに> ●しかし、永年の商売を業態転換した経営者の方はいらっしゃる。家業の本業 が仏壇の金属製品の製造業だったのが、その後の時代の趨勢で仏壇の金具の製 造業から、メガネのねじの製造、そして半導体装置の部品製造加工に変化し、 いまや最先端の特殊素材の部品加工では日本で有数と言う企業もある。そのよ うな大きな業態転換を成功させた経営者の方も、同様にこのようなフレーズを おっしゃる。優秀な経営者ほど、ロジカルシンキングが得意だ。ものごとは数 字で合理的に考えないといけない。 ●自らを客観的にとらえることができるから、商売の現実の世界で成功を収め ることができた。しかし、その多くの人が「最後の決め手は数字ではなく、運 のようなものだ」と言うのは面白い。江戸時代の名言に、「大事の思案は軽 く、小事の思案は重く」というのがあるそうだ。まさに、これに該当すること が今回のテーマに表現されている。つまり、大事の決断ほど子細にこだわらず 人の縁や自らの運を信じて軽く判断する。おおよそこの方向に行けば間違いな い、というくらいの軽い判断基準でいい。 ●逆に毎日の小さい、細かい決断はしっかり分析して合理的に数字で考える。 慎重に行うべきだ。人間と言うものは、あまり長い時間をかけて慎重に考える とどうしても数字の損得勘定に行きつく。そして大事な決断を数字だけの損得 勘定で決めてしまうと、場合によって大きく道を間違えてしまうことが多い。 日々の決断を損得勘定で行うことは構わない。しかし、大事な重たい決断ほ ど、周囲のおおまかな環境、大雑把な基準でものごとの方向を決める方が、結 果としてうまくいくことが多い。 <たまたまを大事に> ●あまり深く考えるより、「あの人との縁だから」とか、「たまたまあの人に 頼まれたから」とか、「偶然考えていたらばったり出くわした」とか。そのよ うな「たまたま」要因で決断する方が、結果的にうまくいく、うまくいったこ とが多いように感じる。確かに、そういうことはある。しかし、それはその経 営者の方が、ずっと深く、深く継続して考えているからだ。脳の奥の方に大事 な決断の案件がずっと刷り込まれている。どうだろう、どうしようといつもぐ るぐる思考がめぐっているから、ある日突然の場面で潜在意識がぱっとひらめ く。 ●この毎日の深い思考がないと、「たまたま」に乗っかり安易に大事の方向を 決めると、間違う。しかし、その大事をずっと考えているときに重要な人と 会って、たまたま言われた一言でぱっと決断できることは多い。また、この 「たまたま」に恵まれるか、そうでないかは、商売の成功に非常に大きな影響 を与える。成岡の大好きなフレーズに、この「たまたま」と「そもそも」の二 つがある。創業10年経っても、この二つは毎日大事にしている。今までのビジ ネスは、全部この「そもそも」と「たまたま」でやってきたようなものだ。 ●「そもそも」とは会社を創業したときの、いわば大層に言えば経営理念でも あり、哲学だ。「そもそも」を大事にすることが方向を間違えない最大のポイ ントだ。いつも判断の基準は、この「そもそも」会社を立ち上げたときの理念 に合致しているか、どうかだ。合致しないものは早晩行き詰る。当面は何とか なるが、段々おかしくなる。挙句の果てに、最後の最後で投げ出す。そういう 案件や仕事、付き合い、プロジェクトが山ほどあった。後悔はしていないが、 非常に深く反省し、二度と判断が間違わない様に肝に銘じている。 <いつまでも謙虚にしていると運や縁に恵まれる> ●「たまたま」を大事にするということは、その人との縁を大事にすること だ。失礼だが、賢い人がビジネスを成功さすとは限らない。最後の最後の局面 で大事なことは、運や縁なのだ。その、運や縁を呼び来むのは、その人の日ご ろの姿勢が謙虚であり、日ごろから一生懸命考えているからだ。また、付き合 いもいかに誠実に行っているかが、おおきな決め手になる。多少成功したか ら、以前と比較して謙虚になれない経営者の方も多いと思うが、成功を呼び込 む人はすべてこの謙虚さ、勉強熱心な方が多い。 ●江戸時代の最後に活躍し、江戸城の無血開城に大きく貢献したかの勝海舟 も、「事を成し遂げる者は愚直でなくてはならない。才に走ってはうまくいか ない」という至言、名言を残している。たしかにそうかもしれない。日々の業 務は合理的に、スピード感をもって判断する。大事は潜在意識に刷り込んで、 ずっと考えている。そして、偶然の運や縁を大事にして、あまり深く細かく考 えない。それより、大きな方向が合っているか、これから3年5年、10年の方 向として合っているかを重要と考える。そのときに巡り合った運や縁を大事に する。 ●10年間振り返って、確かにそうだと実感している。困ったときに、誰かが手 を差し伸べてくれる。悩んだときに、ぱっと解決のヒントをくれる人に出会 う。しかし、その原点は自分が、いつもどうしよう、どうしようと悩み、考 え、迷っているからだ。迷っている大事をあまり数字でシュミレーションして はいけない。いけないことはないが、数字で判断すると目先のジャッジにな る。大事の判断は大局観が重要だ。木を見て森を見なくなる。やはり、大事の ときはヘリコプターで上空に上がって判断する。着眼大局、着手小局だ。分 かっているが、なかなかできない。