**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第542回配信分2014年09月15日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その40 〜事業が好調な時に危機感をどう持つか〜 **************************************************** <はじめに> ●400年以上続いている和菓子のとらや。社長の黒川氏の口癖は、400年続いて いるから明日があるという保証はどこにもないというのが、口癖だそうだ。 400年継続したとらやでも、このように老舗ののれんにあぐらをかかないとい うポリシーは素晴らしい。口で言うのは簡単だが、この思想を組織の末端まで 浸透するのは容易なことではない。ほとんどの企業は、業績が好調になると慢 心し、錯覚し、謙虚さを失い、業績は徐々に失速する。それを跳ね返して、常 に業績を右肩上がりに持っていくには、本当に難しい。 ●業績が好調なときはどうしても慢心する。この業績の好調の原因は自分の能 力だ、成果だと錯覚する。実は市場がたまたま評価してくれた結果なのだ。そ れも一過性かもしれない。しかし、損益では非常に利益が出たという結果が出 ている。そして周囲もそれを自社の努力の結果だと持ち上げる。トップは錯覚 して、舞い上がり、そして足下を見なくなる。この結果は自分の業績だと錯覚 する。多少、傲慢になり、不遜になる。一瞬はいいが、このマインドが継続す ると非常に怖い。身の程を知らない言動が目立つことになる。 ●特に20年以上前のバブル経済絶好調のときに、好調な業績は自社の努力の賜 物だと錯覚した。おカネがかなり余剰ができて、たいていその時に固定資産に おカネを投資している。それも本業と全く関係ない、ゴルフ場の開発や大型テ ナントビルの開発案件に投資している。成岡が所属していた企業でも、いろい ろなところから投資案件のお話しがいっぱいあった。オーストラリアのゴール ドコーストのレジャーマンションを買わないかとか、どこどこの不動産を買わ ないかとか、とにかく一見の投資案件は山ほどあった。 <経営者は謙虚さが大事> ●確かに当時のほとんどの企業の業績は好調だった。それも株価が上がり、土 地の値段が上がり、売上が膨張して右肩上がりになっただけだ。しかし、そう は思えない。この売上が伸びて、利益が増えたのは自分の会社の努力の結果だ と思いたい。いや、経営者という者は思わないとやってられない。会社の中で 自慢はできないから、社外の場所にいって自慢したくなる。どうしても外部で はちやほやされるから、この好業績は自分自身の能力や努力の成果だと錯覚す る。それを誰もいさめないから、ずっとそのように思っている。 ●業績が好調なときは、一呼吸置く必要がある。まてよ、この結果はどういう ことでこうなっているのだろうか。原因や理由は何だろうか。たまたまのこと か、外部環境がそうなっただけか、自社の独自努力でこうなったのか、それと も別の理由があるのか。とにかく、一生懸命考える。周囲は好業績で浮かれて いても、経営者だけはその好調に浮かれてはいけない。足下を見つめて、じっ と謙虚に考える。ここで自分のことだと思ってしまうと、次の段階に進めな い。一歩退いて、謙虚になって反省し、考えることが大事だ。 ●しかし、現実は好調な時に反省し、次につながる打ち手を打てる企業は少な い。いや、少ないというよりほとんどないだろう。現場は増産、増産、残業、 残業で忙しい。賞与も大盤振る舞いになる。人員も増加し、現場はとにかく毎 日毎日の生産と販売に追われている。出荷も忙しいし、運送会社のトラックも ひっきりなしに会社のプラットフォームに横付けされる。何となく、落ち着か ないくらい活気があるように感じられる。しかし、そこで経営者は冷静になら ないといけない。この業績が何時まで続くのか。業績が好調な原因は何か。 <儲かったときに間違った> ●先日、某企業の社長さんがいみじくも言った言葉に、「儲かったときに間違 いました」。この言葉は非常に重たい。何が原因でこのように多額の借入金に なったのでしょうか?という成岡からの質問に答えた言葉が、そうだった。振 り返れば、平成になり世の中がバブルで浮かれた時に、しっかり自社の現実を 見つめて確実に将来に向けておカネと時間を使ったか。ほとんどの企業はそう ではなかった。不動産を買わないとバカのように金融機関から言われて、あま り考えもなく買った土地や固定資産がバブルと化した。 ●あとになって振り返れば、誰でもわかることだが、当時はみんなそれが当た り前だと思っていた。業績が好調と言っても、得意先が膨張してそれに必死に ついていっただけだった。自社の価値が向上したわけでもなんでもない。しか し、当時はみんなが勘違いした。そこで冷静になれと言っても難しいが、賢い 経営者は冷静だった。好調なときほど将来に向けて準備した。この好調がそん なに続くわけではないと自戒した。その謙虚というか、現状を冷静に見つめる 心があった。周囲の騒音に浮わつかない心があった。 ●好調なときほど危機感。業績が低迷したときには前向き。現場とは真逆のマ インドを持ち、それを冷静に判断しないといけない。役員や幹部が浮かれてい ても、経営者は孤独に一人これでいいのか、これでいいのかと、自問自答す る。それは会社にいてはなかなか出来ない。独りになり孤独になって、本当に 現実はどうなんだろうと反省しないといけない。決してゴルフ場で考えられる ことではない。敢えて、自らそのような環境を作り、孤独になり今後を考えな いといけない。経営者が危機感を持たないと、現場が自ら持つわけがない。 <いざというときに急にはできない> ●辛いのは独りで考えろといってもなかなか出来ない。そこで必要なのは、周 囲にどれくらい厳しいことを言ってくれるスタッフを持っているか。厳しいと いうことは、いやなということではなく冷静に将来を考えられる器量がある か。どうしても会社を経営していると、目先目先のことに注力する。重要なこ とではなく、緊急なことを優先する。それは当然そうなるのだ。そこを捻じ曲 げて重要なことを考えるには、相当な勇気が要る。その勇気はなかなか持てな い。周囲から圧力、プレッシャーをかけてもらわないとできない。 ●担板漢という言葉がある。板を担ぐと一方しか見えなくなるという例えだ。 ほとんどの経営的な事象は、すべてこれに該当する。当事者は一生懸命目先の 案件、事象をクリアーしようとする。それはそれで間違いではないが、それば かりやっていると誰も会社の将来に対して対策を打っていない。中途採用で欠 員になった補充をするのは間違いではない。補充をしないと現場は回らないか らだ。しかし、本当にその補充は必要か。従来の慣例でしていたから必要なの か。何か方法はないのか。しかし、現場はそうは考えない。 ●これは立場の違いだから、間違っているのではない。木を見ている人と、森 を見ている人とは、見ている景色が違う。当然そうなるのだ。経営者の方はと にかく目先も大事だが、今期、来期、3年後、5年後くらいの大きなグランド デザインが必要だ。今の業績云々ではない。それは現場が仕切ればいい。方向 が間違っていなければ、ある程度任せて自分は将来のことに想いを馳せる。好 調なときはこれが続かないと自戒する。不調なときは敢えて積極的に打って出 る。この訓練を日ごろからしておかないと、いざというときには急にはできな い。