**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第547回配信分2014年10月20日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その45 〜ピンチには自ら行動で示す勇気を持つ〜 **************************************************** <はじめに> ●中小企業は小集団だ。小集団のメンバーは常に大将の動向を見ている。常に 背中を見て、常にその言動、行動、発言を注目している。大企業なら社長以 下、役付役員、取締役、事業部長、担当課長、管理職など、その階層にしかる べく人材が目白押しだ。その中間層が抜けても、誰か同じくらいの能力のメン バーがすぐにカバーする。転勤や異動が頻繁にあっても、そんなに組織ががた がたすることはない。それが大企業の強みでもあり、層の厚さが企業の大きな 価値を示す。そのために、莫大な投資をしている。 ●ところが、中小企業はそう簡単に人材の厚みなど望むべくもない。営業の責 任者が60歳に近い。しかし、そう簡単に後継の優秀な営業責任者が育っていな い。30歳代の後半に優秀な課長が一人いるが、年齢的にまだ早い。そうなる と、なかなか部長職という職責を全うできる人材がいない。育つのをじっと 待っている時間的な余裕がない。しかし、中途採用でそのような職責を果たせ る人材が簡単に採用できるわけがない。何回も、何回も、面接するが期待され る人材が応募してくれる期待値は、非常に低い。 ●募集や採用に莫大な費用を投資できる環境にはない。さりとて、若い人材を 育てて、上級管理職に育つのを待つ時間もない。かくて、後継の部長職が決ま らないまま時間が経過する。いよいよとなってから、ぼちぼちトップが慌てだ す。しかし、時すでに遅いときがある。追い込まれてからの決断は、正解の確 率がどんどん低くなる。まだ時間的に判断の余裕があるうちはいいが、土壇場 まで行ってしまってからでは、その判断に障害があることが多い。追い込まれ てからのジャッジは、たいていどこかおかしい。あとあと、尾を引く。時間が たっぷりあれば必ず正解が出るとは言わないが、ぎりぎり土壇場の決断はあま り正解には行きつかない。どこかボロが出るものだ。 <嫌なことを決めるのが社長の仕事> ●経営の現場で色々な企業のトップの行動を見ていると、やはりその方の性格 と言うか習性と言うか、人柄がよく出てある意味では面白い。面白いとは失礼 な物言いかもしれないが、永年やってこられた経営スタイルをそう簡単に変え ることは難しい。しかし、ひとつ言えることは、トップ以外はトップになり得 ず、中小企業は最後の最後はトップが決断する以外にないということだ。大企 業なら、多少のロス、ミス、損失があっても、健全な赤字部門というくらい で、少々の時間は大目に見てくれる。しかし、中小企業はそうはいかない。 ●赤字が相当期間続いていれば、しばらくはバケツの底から穴が開いて水が流 れ出ていても、上から補給すれば水面はそう一気には下がらない。しかし、い つまでもバケツの穴をふさがないでそのままにし、何とか上から補給しても、 それには限界がある。穴が開いているのを気が付かないのは例外として、たい ていのトップの方は何となく気が付いている。気が付いているが、何らかの理 由で穴を塞げない。得意先がへそを曲げるとか、営業部長が機嫌を悪くすると か、永年の従業員を切らないといけいないとか。 ●あるいは、多くの在庫を捨てないといけないとか、何か動くと何かに支障を 来す。あるいは、誰かが気まずい思いをする。一族の営業責任者の専務が横を 向くだろう。機嫌を損ねるだろう。気分を悪くするだろう。そうはなりたくな いから、いやな決定はしたくない。何とか、このままうまく収まらないだろう か。そんな気分になることは、実はしょっちゅゆうある。そのたびにストレス はたまり、十二指腸はうずき、気分は悪くなり、お酒もまずくなる。いやなこ とを決めるのが社長の責務と分かっていても、嫌なものだ。 <材料が揃わないうちに決めないといけない> ●特に業績が良くない、悪いときの決定は断腸の思いのときがある。賞与を出 せない、昇給ができない、むしろ多少の賃金カットをしないといけない。当 然、まずは自分の報酬を減額しないといけない。嬉しくないが、人員整理で希 望退職を募るくらいなら、お粥をすすってもここは頑張りどころだという、究 極の局面もある。これは経験した人でないと分からない。まして、サラリーマ ンの時代には全くぴんとこなかった。役員になり、経営者になり、代表者にな り、マイナスの決断を何度もして、初めて身に付く経営感覚だ。 ●しかし、ピンチのときは先頭に立つべきだ。ピンチのときに後ろに引っ込ん でいて、部下に前線に立たすようでは、代表者でもないし、経営者でもない。 ぎりぎりの交渉には、最後の最後は自分で出ていき決断する。決断するのが仕 事だから、仕方ない。それが嫌なら、トップをしないことだ。いいことも、悪 いことも、すべてはトップに帰結する。むしろ、いいことは部下の手柄で、ま ずいことはトップの責任だ。最近の某政治家、大臣のように知りませんでした では、済まないことが多い。そう心得る。 ●ときに開き直りも重要だ。完璧にデータが揃って、完全な条件が満足するよ うな場面は、少ない。むしろ、条件が不ぞろいで、分からないことが多い状態 での決定と言うことが多い。分かれば誰でも決断できる。分からないから決断 できないのだ。決断できないままで先送りはあり得ない。トップが先送りした ら、下もこぞって先送りする。親父が結論を出さない、出せないから、自分も 決めなくてもいいということになる。そうなると、決めないことが組織の常識 になる。決めないまま、ずっと変わらないままで、そのうちに事件が起こる。 <後継者に一番生きた教科書> ●業績のいいときは決断は甘くなる。おカネが潤沢なときは、投資もいいかげ んになる。少々のロスはいいんだ、という脇が甘い結論になることが多い。事 実、成岡が在籍し経営陣にいた企業でも、バブルの入口のところでの投資で甘 かった。非常に甘かった。流動資産が、特に現預金がじゃぶじゃぶしていたか ら、少々のロスは目をつぶった。それが命取りだった。いいときに脇を締め、 悪いときに打って出る。そういう原理原則から外れたことを平気でやってい た。しかし、誰もそれを咎めなかった。致命傷になった。 ●いいときは判断が甘くなる。業績が悪いときは一歩足が出ない。そういうと きこそ、トップが先頭に立って旗を振らないといけない。戦国時代の白兵戦の ようなものだ。大将が後ろでびくびくしていて、どうして将兵が白兵戦で勇気 いっぱい戦えるか。ピンチのときに、自ら先頭に立ってどんどんリスクを顧み ず前に進む気概を見せないといけない。社員は、従業員は、黙ってトップの立 ち居振る舞いを見ている。そうか、親父はトップはこのようにしたいんだ。そ れが行動で分かるように示さないといけない。 ●後継者に目の前で見せることが手本になる。いくら座学で勉強しても、生き た経営の現場での実践が一番のお手本だ。失敗しても、成功しても、その経 過、プロセス、判断の基準、事前の準備などの表に出ない段取り、判断、予想 などを教えることが、一番の生きた教科書だ。業績のいいときより、ピンチの ときにどう考え、どう行動し、どう判断したか。そして、どこでみんなの前に 出て、どう旗を振ったのか。その呼吸、タイミングなどをじっくり聞かせるこ とだ。そういうことが伝統になり、革新につながる。社風とはそのように形成 される。社長の器量が試される。