**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第549回配信分2014年11月03日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その47 〜3年先から5年先のことを考えるのは自分しかいない〜 **************************************************** <はじめに> ●トップは数年先のことを考えないといけない。実は会社の中で数年先のこと を考えているのは社長しかいない。いないというのは言い過ぎだが、他に数名 の同族の役員がいればいいほうだ。ほとんどの中小企業では数年先のことを考 えているのは、ほんとうにごく限られた人だけだ。それが複数いればまだいい が、ほとんどはトップ一人だけだ。独りで考えていると、それがどうなのか判 断がつかない。社内で会話しても会話にならない。そんなことは私の考えるこ とではないと、拒否されることもある。 ●現場の考えることの限界は、今月から来月くらいか。いまなら、11月になっ たから年末から年始くらいまで。現場の責任者でも、いいところで来年の年度 末、つまり3月くらいまで。事業部の責任者クラスになると、ぼちぼち今期3 月までの見通しを考え、来期の予算、計画、採用、投資などに少しは考えをめ ぐらしている。役員は来期から3年先くらいまでが限界。しかし、社長たる トップは3年から5年先くらいまでが視野に入っていないといけない。それ は、社内で誰も考えていないからだ。 ●3年先に確実に起こること。それは、全員が間違いなく3つ歳を取ること だ。60歳の社長は63歳になる。50歳の部長は53歳になる。40歳の課長は43歳に なる。30歳の係長は33歳になる。当たり前と言えば当たり前だが、この事実か ら目を反らす経営者の方も多い。あまり歳を取ることを考えたくないのかもし れないが、これは誰も避けることができない事実なのだ。当然、設備、機械も 古くなる。パソコンも古くなるし、車も古くなる。設備は場合によれば買い替 えてもいいが、社員はそうはいかない。組織全体が3つ歳を取る。 <今日決めないことを決めた会議> ●この3年先、5年先を誰かが考えておかないと、取り返しがつかないことに なる。もちろん、その時の社会の環境を考えることも大事だ。3年先は2017 年、5年先は2019年。東京五輪の直前だ。果たして日本はどうなっているだろ うか?そんな将来のことを心配しても、なんの足しにもならないと諦める人も いるかもしれないが、それは大きな間違い。考えてもそのようにはならない が、考えていなくて慌てるのと、少しは考えていて多少の準備がしてあるのと では、雲泥の差がある。それが大きな違いになる。 ●今の社員、従業員がそのまま機嫌よくいてくれるとも限らない。親の介護が 突然起こる年代の社員もいるだろう。結婚退職という避けて通れない女子社員 もいるだろう。中途や新入社員は、どんなレベルのどんな人材が来てくれるか 分からない。まして、自分自身のこともある。息子の後継者が、まだ結婚して いないので、なかなか事業承継をためらう、しぶっている経営者の方も多い。 あるいは、娘さんばかりで後継者に関して、迷いに迷っている経営者の方もあ る。悩みは尽きない。 ●簡単に結論が出る問題なら、もうとっくに結論が出ていてもおかしくない が、なかなか結論が出ない課題は、非常に重たいからだ。重たいとみんなその ことを先送りする。従業員や管理職レベルなら先送りもやむを得ないが、トッ プが課題解決を先送りすると、全員がそのようなマインドに染まってしまう。 今日決めなくてもいいんだと、先送りの習慣が組織に浸透する。どこかの企業 の社長の迷言に、今日の会議で「決めないということを決めた」というのが現 実にあったが、笑えない事実になってしまう。 <目先のことに頑張るとやった気分になる> ●会議でこのようなことを社長が発言しても、誰も何も反応しない。当然と言 えば当然で、みんな今の給料はいまの能力や業績、結果に対してもらっている と感じている。将来のことを一生懸命考えていても、それで給料をもらえると は思えない。おっつけ、目先の課題に集中することになる。それはそれで正し いのだが、全員がそうなると本当に誰も近い将来、未来のことを考えていな い。その場その場で目先の課題を手際よく解決していけばいいという風潮にな る。そうなると、今はいいが未来に不安を抱かざるをえない。 ●結局、社内では誰とも会話できないから、社外にコメントを求めることにな るが、そんなに詳細に社内の事情や内容を知っている人はいないから、ぼやき を聞いてもらうだけになる。ガス抜きのような状態になり、少しは聞いても らったことで気分的には楽にはなるが、それだけで一過性で終わってしまう。 同窓生、JCのときの友人知人、経済団体の幹部仲間などが相談相手だが、なか なか気の利いたアドバイスももらえない。そうこうしているうちに、どんどん 時間が経過する。年末になり、そのうちに年度末になる。 ●かくて悶々としているうちに時間が経過し、そのうちに何か目先の大きなト ラブルが起こると、その火消しに奔走することになる。なかなか大きくどっし り構えて将来構想に思いを馳せることができる社長は、非常に少ない。いまの 会社の状況がそれを許してくれない。資金繰り、今期の業績の改善、新商品の 開発、新しい得意先の開拓、補充の中途採用、古い設備の更新、金融機関との 折衝など、挙げれば目先の経営課題はきりがないくらい多くある。おっつけ、 それに対処していると非常に頑張った気分になる。 <5年先から現実を逆に考える> ●当面の課題に一生懸命対応していると、何か充実感があって気分がいい。課 題がどんどん片付いていくと嬉しい。何か自分の実力が上がったような気分に なる。当面の業績もそれなりに徐々に改善している。しかし、3年先、5年 先、この場所で今と同様の業績がコンスタントに挙げられるだろうか。工場長 も歳がいくし、何より自分も3年歳をとる。後継者はまだ30歳代の後半で、社 長を交代するには、まだ少し早い。しかし、周辺の友人の企業では、もうかな り後継者に交代している。気分は焦る。 ●業績がもう少し改善してからバトンタッチしようと思っている社長も多いだ ろうが、もう少しとはどの程度か。そういうあいまいな線引きではおそらく交 代はおぼつかない。明確に年齢で線引きするのが一番周囲にわかりやすい。よ くあるのは、社長が65歳になった時点という決め方だ。しかし、それもガイド ラインで状況により、先送りはある。しかし、一度先送りすると、先送りに対 して感覚がマヒする。いったんエクスキューズした解決策は、じつはそこで決 断できなかったという証拠なのだ。反省が必要だ。 ●逆に考える。5年先、2019年の自分と会社の姿を思い描いてみる。東京五輪 の前の年だ。日本全体の経済は評論家や大学教授でないから分からないが、確 実に言えることは自分と幹部、従業員と組織が確実に5年経過し、メンバーが そのままだと活力が減退しているだろうことは、容易に想像できる。5年先と いうと先のことに感じられるかもしれないが、あっという間にやってくる。今 から5年先のことに手を打っても、ちっとも早くない。いや、いつも5年先の 会社と自分の姿を心の中に投影しておくことだ。準備があれば慌てないから。