**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第552回配信分2014年11月24日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その50 〜ときと場合によっては「カラスは白い」と言う勇気を持つ〜 **************************************************** <はじめに> ●何を会議で諮って、何を相談し、何を経営陣が決定し、何を幹部と協議する のか。これは、日常の企業運営、会社経営に出てくる場面の中で、しばし遭遇 する難しい問題だ。特に、中小企業では、経営陣と幹部社員、その下の一般従 業員との間に大きな情報の非対称性が存在する。非対称性とは難しいことばだ が、鏡を想像していただくと分かりやすい。鏡はきれいに被写体を対称に鏡面 に写しだす。非対称性とは、対称でないことだから、同じように写さない。つ まり、上位と下位で大きく異なるということだ。 ●中小企業の経営には、単に大企業のように外部株主がいることは稀で、ほと んどが同族一族で株式の大半を持っている。また、取締役も同族一族が多く、 稀に幹部が取締役に就任していても、それは取締役営業部長とかいう職制が多 く、身分は従業員だ。それが証拠に、雇用保険をかけているか、外しているか を調べれば、すぐにわかる。ほとんどの従業員身分の役員は雇用保険をかけた ままにしている。会社が潰れても、解雇されても、雇用保険すなわち失業保険 が支給される。そういう身分は本来の役員ではない。 ●成岡も同族一族企業で20年ほど在籍したが、当初の5年間くらいは一般の幹 部社員と同じ身分だった。取締役に就任した時点で、義理の兄の代表取締役社 長に呼ばれて、今度役員に就任するけれど、雇用保険は外すから覚悟を固めろ と言われたことがある。もう、会社と一心同体、どこまでも地獄までも一緒に 道ずれということだ。実はその通り、数年後に倒産と言う地獄を見るとは、当 然その時には思ってもみなかったが。しかし、世の中何が起こるか分からな い。実際には倒産で一皮むけたのは、この本人なのだが。 <トップにはそこしか集まらない情報がある> ●話題を戻して、会議の議題、案件だが、ときに経営者、なかんずく本当の トップは厳しい決断をしないといけないことがある。厳しいというか、幹部全 員が反対するだろうなあと想像できる結論を決めないといけないことがある。 いや、その方が多いかもしれない。それまで、その案件は随分長い間ずっと議 論してきた。幹部会議でも揉めたし、課長会議でも紛糾した。おおよそ、こう いう案件は部分最適のせめぎあいで、全体最適を考えているのは、実は本当の トップしかいないことが多いからだ。 ●成岡も随分多くの部署の責任者をさせてもらった。管理部門、営業部門、新 規開発部門、子会社の代表取締役、150名いた東京支店長など、多くの重要な 役割をさせてもらった。それぞれの部署の責任者のときには、最大限その部署 にとって、最適になるように行動したつもりだ。それは役員として当然のこと であり、何らおかしくない。しかし、会社全体からみたら、果たしてそれが現 時点での最適解であるかは、実は本当のトップしか分からない。いや、失礼な がら本当のトップでも分からないことも多い。 ●しかし、トップにはトップにしか集まらない情報がある。人脈がある。付き 合いがある。それがないとおかしい。よって、そのトップにしかない情報網か ら、実はいろいろな将来に関する重要な情報が寄せられる。よって、どうして も情報は非対称性にならざるを得ない。それはそれでいいので、判断の基準が 異なる。だから、幹部や取締役が喧々諤々議論し、協議しても、トップの腹は 固まっている場合が多い。黙って会議の議長席に座り、目を閉じて参加者が意 見を述べるのを、真剣に聞いている。そして、最後の最後に発言する。 <重たい真逆の決断もありうる> ●議論の最後に、それまで黙っていった本当の経営トップが、やおら口を開 く。・・・君、もう一度君の結論を言ってくれと。そして、その幹部が簡単に 自説を述べたあと、間髪を入れずにそれまでの方向と逆の結論を述べる。全 員、一瞬びっくりする。しかし、ここからが大事なのだが、それまでずっと考 えてきた会社の将来、業界の将来、日本の経済の未来、いろいろな情報といろ いろな分析に基づいて、自分がこう決めたことを、きちんと説明する。かくか く、しかじかで、こうすることに決断した。それは、幹部が考えているのとは 真逆の場合も多い。 ●ときに、カラスは白いこともある。これは、誰だったか忘れたが、ある経営 学の書籍に実例で掲載されていた内容だった。経営者という者は、時に幹部や 役員と真逆の方向に決めないといけないことがある。それまでの成功体験を捨 て、未来を見据えたときに、このままでこの企業が20年、30年先に生き残れる か。現在順調にやっている事業でも、このまま成長する確信が持てない。いま のうちに、将来有望な事業へリスクはあるが進出することが急務ではないか。 そう考える事業部長の役員は誰もいない。 ●ほとんどこういう結論になると、大きな痛みを伴うことが多い。某事業部を 縮小して、まだ海のものとも山のものともつかない事業に打って出る。そんな リスクの高い決断は、平取締役やいち事業部長ではとても決められない。居酒 屋での勝手な談笑では言えても、大きな投資を伴い、乾坤一擲大勝負に近い決 断は、なかなかできるものではない。成岡も、このことは良く言って聞かされ た。曰く、トップとナンバーツーとは天と地ほどの距離があり、背負う荷物の 重たさが10倍以上違うと。これは、経験しないと分からない。 <過去の成功体験を捨てる勇気を持つ> ●カラスが白いなら、黒いカラスはおかしいかと言うと、それはそうではな い。時として、カラスは白くなる、そう考えればいい。動物には保護色と言う 機能があり、天敵や外部から身を守るために、表面の色を変えたりする機能を 備えている動物もいる。環境が激変すれば、カラスもときには白くなる。今ま で稼ぎ頭の事業も、10年先には分からない。富士フィルも、アナログ写真機の フィルム事業からうまく撤退し、新規事業で大きく成長を遂げた。従来事業を やめるときには、それはそれは大変だっただろう。ブーイングの嵐だったと思 われる。 ●しかし、見事に業態転換を成し遂げ、大きく成長した。その富士フィルム が、また以前のカメラとフィルム事業を一部再開したという。新興市場や一部 の市場で、従来のコンパクトカメラとフイルムの新しいコンセプトの商品が売 れている。ことほど左様に、カラスも白くなったり、黒く変身したりする。カ ラスはずっと黒いという固定観念、既成概念で事業を営んでいたのではダメな のだ。しかし、悲しいかな所詮人間は過去の成功体験の呪縛から解放されるの は難しい。成功した人ほど、この呪縛から抜け出すことは難しい。 ●イノベーションに成功した企業が陥るパラドックス、「イノベーションのジ レンマ」は、まさにこのことだ。ときに、経営トップはカラスは白いという決 断、決定を下すことをしないといけないことがある。勇気を持って、その決断 を行い、きちんと説明をする。丁寧に説明をする。トップの仕事は、この全員 に対して、いやな結論を決めることが仕事だ。それを逃げてはいけない。誰も それを決めることはできないのだから、それを逃げては企業の将来が危うい。 いつもカラスは黒いと思っていると、社会の激変する環境から取り残される。