**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第555回配信分2014年12月15日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その53 〜うまくいかなかった事業は必ず原因の反省会をする〜 **************************************************** <はじめに> ●事業はすべてうまく順調にいくはずはない。むしろ苦難、失敗の連続という ことのほうが多い。計画は完璧だったが、やってみたら想定外のことばかり起 こり、何が何だか分からなくなり、挙句の果てに沈没した、という経験をお持 ちの経営者の方も多いはずだ。世の中、そんなに甘くない。30年前くらいの高 度成長期から、バブル時代はそんなに深く考えなくても、よかった。社会が、 世間全体が、毎年毎年2桁の成長率を刻み、それに何とかついていけば、勝手 に自社は成長した。そんな時代だった。 ●ところが、バブルがはじけて状況、様相は一変した。低成長が当然になり、 デフレの世の中になり、人口減少が始まった。かって経験したことのない社会 環境の激変だ。誰も答えを持たない、未曽有の世界に足を踏み入れた。成功の モデルはひとつもなくなった。以前なら、誰かの後を追いかけていればよかっ た。それが一瞬になくなった。茫然自失状態になり、右往左往しているのが現 状だ。だとしたら、今後のビジネスモデルの絵が描けていないはずだ。ただ、 何となく事業を営んでいることになる。 ●あまりに環境の変化が激しく、かつ、早いのでついていけない。60歳を超 え、70歳前後になると余計にそう感じる。自分が力を発揮できた30年前と、今 とは全く環境が違うから、自分の成功体験が通用しない。何かやっても、中途 半端で途中で頓挫する。若い社員が多い現場とは、常に意見の対立が起こる。 前向きの対立はいいが、感情的に対立すると、これはもういけない。信頼感も 喪失し、次第に自分の代表者、トップとしてのマネジメント力、統率力、人望 力が落ちていくのが感じられる。しかし、後継者がまだ育っていない。 <喉元過ぎれば熱さを忘れるではいけない> ●育っていないのではなくて、少々辛口に言えば育てられなかった自分に問題 があった。課題は分かっていたが、どう手を打っていいか分からない。自分が 成功したビジネスモデルは、もう古いと感じている。なので、後継者にそれを 教えても意味がない。かといって、こうやればいいんんだというガイドライン も示せない。会社にいると堂々巡りの議論になって、らちがあかない。外部に 相談する自分の師匠もいない。友人知人は大勢いるが、ゴルフ友達や飲み友達 ばかりで、いざというときに頼りにならない。 ●70歳前後になってから、そのような課題に気が付いても、もう半分手遅れ だ。10年前に気が付いていればよかったと、いまさら反省しても、もう時間は 戻らない。結局、今回のテーマだが、事業がうまくいかなかったときに、きち んとその原因を分析し、それに対して何らかのアクション、対策を行っていな い。まして、自分が言い出してうまくいかなかったビジネスに対して、反省会 をすれば、それは代表者の懺悔の機会になってしまう。恰好も悪いし、資金も どぶに捨てたと揶揄される。辛い時間は過ごしたくない。 ●だから、反省も総括もなく、おカネの処理だけして終わる。決算書には、特 別損失で大きな金額の赤字が計上され、減損処理した決算期は大赤字になる。 しかし、今期だけと割り切って、大赤字で決算を締めた。しかし、その大赤字 は繰越欠損金となり、自己資本を毀損する。赤字だから税金を払わないで済ん だと、妙な安心感を持たれる経営者の方もある。とんでもない間違いだが、意 外と本人はそれで納得している。喉元過ぎれば熱さ忘れる、の例え通りのこと が繰り返される。ちっとも学習ができていない。 <勝に不思議の勝あり、負けに不思議の負けなし> ●成功、失敗の結果はともかく、特に成功であれ、失敗であれ、中途半端な結 果であれ、一定の時期の総括の反省をすることは非常に大事だ。総括の反省と は、何も誰それが悪いとか、他人を失敗のせいにする機会ではなく、本当にう まくいかなかった真の原因に迫ることだ。なかなか真の原因にたどり着くのは 困難かもしれないが、必ずその努力はする。それもすべては仮説だから、検証 の方法がない。おそらく、そうだろうという段階で留まる。しかし、それでい いのだ。そこまで迫ったことが大事なのだ。 ●意外なところに読み間違いもある。意外なところに成功の要因が隠されてい る。しかし、よく言うことばだが、楽天の監督をしていた野村が言った名言に 「勝に不思議の勝あり。負けに不思議の負けなし」なのだ。この反省材料をさ らに深く分析して、次回はこういう失敗はしないでおこうと、固く心に誓う。 しかし、人間は弱い動物で、どうしてもまた同じようなことをしでかす。そう ならないように、ブレーキをかけたり、バックしたりする手段、機会、方法を 用意しておく。過去の反省のデータベースを作っておく。 ●結果に関して後悔はしないが、反省はしっかりする。高い月謝を払ったのだ から、そこから何かを得ないと意味がない。しかし、高い月謝を払ったのに、 何も持ち帰れない、持ち帰らない経営者の方も多い。済んだことは水に流し て、ではいけない。済んだことに、経営の非常に大事な「キモ」が隠されてい る。ヒントが満載にあるのに、全く活用されていない。膨大な失敗事例を反省 し、次回に活かすことこそが、経営者の最たる仕事だと思うが、意外と実践で きていない。そして、これを後継者にきちんと伝えることだ。 <過ちは繰り返される> ●過去の事業での成功しなかった事例の教訓は、後継者への生きた教科書だ。 どんな経営書を読んで勉強するより、最も学習の効果がある。しかし、大半の 経営者の方は後継者にきちんとその大事なことが伝えきれていない。書いたも のもなければ、口頭でのいい加減な伝達で終わっている。私が間違ったの一言 で済んでいる。間違ったは間違ったでいいが、なぜその間違いが起きたのか。 そこが分かっていないと、表面的な事情や理由だけで、そのことを片づけては いけない。 ●翻って自分のことになるが、以前に在籍していた出版社の崩壊の一番の原因 は、出した書籍や雑誌が売れなかったという販売不振が最大の原因ではない。 もちろん、それもあったが、最大の原因は取締役会の機能不全だ。倒産直前の 最大の投資であった本社ビルの購入。15億円という膨大な資金を融資で調達 し、投入した。出版社が本社ビルを新築して、うまくいった例は少ないにも関 わらず、敢えて見栄を優先して、間違った投資をした。その最大の原因は、取 締役会の機能不全にある。 ●社運を半ばかけたような大きな投資が、同族一族の役員会で真剣な議論もな く、あっという間に決まってしまう。あっという間と言うより、代表者がこう やりたいという案件に、なかなかきちんとした議論ができない。まともな会話 にならない。感情的になったり、合理的でなかったり。そんな役員会で、将来 を見越した適正な判断の投資が決まるはずもない。反省がなかったので、その 後同じ失敗を何度も繰り返し、わずか5年で100億の企業が倒産した。いまさ ら反省しても仕方ないが、この教訓を何とか活かしたいと常に思っている。