**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第559回配信分2015年01月12日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その57 〜従業員の退職の理由はすべて自分にある〜 **************************************************** <はじめに> ●ここへ来て、円安などの影響をまともに受けて業績が上がらない中小企業が 目立ってきた。大企業の景況感は悪くないだろうが、300万社以上の中小企業 でも、成長を維持している勝ち組の中小企業と、業績が一進一退で鳴かず飛ば ずの企業さんとの格差がどんどん大きくなってきた。いいところは、売上、利 益ともに伸びつつあるし、それに伴い設備投資も行い、新卒中途に関わらず若 い人材を積極的に採用して、明日に備えている。これに反して、業績が芳しく ない中小企業は、やってもやっても業績が目立って回復しない。 ●手を抜いているわけではないが、どうも回復軌道に乗らない。乗らないどこ ろか、徐々に徐々に業績は悪くなっていく。売上は一進一退あるが、総じて下 降線を辿り、利益は次第に減少していく。給与は簡単に減らすことはできない から、おっつけ賞与を調整せざるを得ない。しかし、もらっているほうは物価 が次第に上がってくるので、ボディブローのように効いてくる。奥さんは旦那 さんに会社の業績より、賞与が昨年より多いか、少ないかを聞くだろう。業績 に対する愚痴も言いたいが、言っても理解はできない。 ●だんだん将来に対する不安が堆積する。ヘドロのように堆積してだんだんモ チベーションが下がってくる。上げるのは困難だが、下げるのは簡単だ。かく て、どこかで不満が臨界点に達する。そうなると、何かの小さなきっかけで優 秀な社員が組織から離れる。給与や賞与のこともあるが、モチベーションが下 がることの影響のほうが大きい。賢い人ほど将来を見る眼力があるから、遠く を見て組織を見切る。いや、組織を見切るというより、社長を見切る。この トップについて行って、どうなるのだろうか?と思い始める。 <退職の際は本音は言わない> ●一度、その領域に足を踏み込むとなかなかきっぱりと抜けられない。だらだ らと、行ったり来たりしているうちに、小さな事件が起こる。トップの何気な い会議の一言が、その人にとって決定的なキーワードになる。社長はそんな気 持ちで発言していないのだろうが、受け止める方は深刻だ。かくて、数日後に 今までのもやもやがすっきりして、懐に書いた辞表をしのばせて朝会社に出勤 する。そして、まっすぐ社長のところに行って、黙って辞表を差し出す。そこ には一身上の都合と書いてある。何が、一身上の都合か。 ●初めて、そこで社長が慌てる。どうしてこの優秀な若手の目をかけていた社 員が退職を申し出たのか、いまだに分からない。きつねにつままれたような顔 をして、どうしたんだ?と他人行儀な会話が始まる。退職の理由を説明するほ ど、馬鹿げたことはないので、特段説明する気にもならない。とってつけたよ うな、場合によったら多少のフィクションを交えて説明する。それでも、社長 は理解納得しないし、できない。退職を思いとどまるように食い下がるが、そ こはもう譲れない。言い出したらきかない。 ●そこでようやく事態の深刻さに気が付く。もう、慰留は難しいと感じた瞬間 に態度が豹変する。これまでのことは、なんだったんだ。今まで目をかけて 色々と面倒を見てきた。それを恩をあだで返すような態度はけしからんと怒り 出す。慰留がうらみ、つらみになって、可愛さあまって憎さ百倍。もうこうな ると社長と言う立場も忘れて、感情の塊に近くなる。退職後、この優秀な若者 がどこで自社のことをどのように世間に言うかなどというマイナスの影響も忘 れてしまう。一度そうなると、元へ戻るのは難しい。 <働く現場が見えているか> ●よく、代表者の方に社員の退職の理由を聞くと、うちはやはり中小企業で給 料が安いことを理由の第一に挙げられますと、嘆く経営者の方が多い。では、 本当にそうか。あるいは、勤務時間が給料の割に長いとか、賞与が少ないと か、そのような理由をおっしゃる経営者の方が多い。しかし、本当にそうか。 社長が本人に退職の理由を聞いて、どれくらい本人を目の前に正直に退職の理 由を言うだろうか。一番の理由は、会社の将来に希望が持てなくなったという ことだ。社長に対する信頼がなくなったということだ。 ●あなたに失望したと、本人を目の前にして本音は言わない。言わないから、 本人が言ったことをそのまま、真に受けてしまう。実際は違うのに、脳天気に そのまま額面通り受け取る。お坊ちゃん育ちの世間を余り知らない、修羅場を くくっだことのな何代目かの社長に多い。若い有能な社員でもいったん入った 会社を辞めることは、非常に勇気の要ることだ。当然、自分の履歴書が汚れ る。それを承知で退職を申し出ているのだから、相当な覚悟なのだ。その本音 を見抜く力がないと、はなはだ大きな誤解をしてしまう。 ●やはり日常の意思疎通、コミュニケーションが足りていない。日ごろから、 顔を見てよく会話をして、日常生活もそれなりに理解して、何が本人のやる気 の源泉であり、モチベーションの元か、ということが分かっているか。それく らい現場に足を運び、現場の問題点を理解し、状況を踏まえたうえで会話をし ているか。社長室からあまり出ないで、本人を呼んで自分はデスクに座って会 話をしていないか。とにかく、一日に数回現場に足を運んでいるか。現実が見 えているか。その上で会話をしているか。 <すべては自分の中にあると腹をくくれるか> ●忙しいのにそんなに足しげく現場に足を運べないという経営者の方もあるだ ろう。しかし、一日24時間はみんな平等にある。要は時間の使い方が悪いの だ。覚悟を決めて、腹が座ったら、あとは実行あるのみ。その覚悟を決めた態 度、行動を社員は注意深く見ている。見ていないと思っても、それは間違い。 本当にびっくりするくらい自分の背中は見られていると感じないといけない。 この社長に自分の将来を預けてもいいのか。この会社に未来を託してもいいの か。それくらい従業員は真剣に考えている。 ●そこを勘違いして、逆のイメージのことを持ち込むと、少し将来を真剣に考 える優秀な若手は、一挙にモチベーションを失う。給料や勤務時間、休暇や残 業を退職の理由に挙げるのは、それが数字で言えるからだ。雰囲気、社風、風 土、文化、人間関係、好き嫌いなどは数字で表現できない。できないから、仕 方ないからできる表現で言うしかない、かくて、給料が安い、休みが少ないと いうことが、退職の第一の理由になる。実は本当は違うところにある。しか し、社長の前では本音は素直に言えない。 ●辞める会社のトップに文句や愚痴を言っても仕方ない。もう諦めてぷっつん しているのだから、早くこの場から去りたいのだ。それを本音を聞こうと探っ ても仕方ない。最後にどたばた慌てても、もう時計の針は戻らない。今さらし まったと思っても遅い。それほど、従業員の、社員のモチベーションを一端落 とすと、元には戻らないことを肝に銘じるべきだ。つまり、すべては自分の中 にある。そう覚悟ができていないと、いつまでも他人のせいになる。あいつが 悪いということになる。それを言っているうちは、会社は絶対に良くならな い。