**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第564回配信分2015年02月16日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その62 〜自分が3代目以上の老舗企業経営者はリスク大〜 **************************************************** <はじめに> ●いろいろな経営者の方とおつきあいしているが、最近色々な傾向があること が何となく実感として感じられることが分かった。つまり、創業から30年以上 経過し、少なくとも創業者からバトンを受け継いだ2代目以降の経営者がやっ ていらっしゃる企業と、60歳でもご自分で事業を立ち上げた経営者の方とは、 基本的にマインドが異なることを非常に感じている。もちろん例外もあるだろ うが、総じて業歴が永い企業ほど組織の活性化が難しい。業歴が永いと、いい 意味で老舗なのだが、逆にそれが災いする。 ●特に三代以上承継されている企業の場合は、ことさら事業を成長発展させて いくには、大きな努力が必要だ。経営者が3代以上承継されていると、60年か ら90年くらいの業歴がある。少なくとも明治時代かそれ以前の創業となり、京 都では老舗の部類に入る。一応100年以上の業歴がある企業を京都では「老 舗」企業と言う。100年以上となると、4代くらいは最低経営者が交代してい る。創業も場合によっては江戸時代以前になり、それは非常に素晴らしいこと だ。なかなか100年以上継続するのは難しい。 ●逆に、創業10年未満前後の若いベンチャー企業の40代くらいの経営者の方の マインドは強烈だ。自負もあり、自信もあり、何より自分が立ち上げたという エネルギーが違う。これから、まだまだ波乱万丈のドラマが待っているという 自覚がある。覚悟も出来ていて、半端な気持ちではない。毎日いろいろなこと が起こり、ドラマが展開する。こうなるだろう、こうしたいと思っていても、 意外な展開になり失敗の連続と言うことも多い。しかし、たいていのベン チャー創業者はめげない。転んでも立ち上がって歩き出す。 <永く継続されている企業ほど難しい> ●逆に業歴の永い企業を承継したトップは、判断が難しい。失うものが大きい から、なかなかリスクある決断ができない。従業員も相当数在籍していて、毎 日の生活の糧を、その企業から禄をもらっている。家族も含めると、従業員1 人あたり平均3名とすると、40名くらいの企業では100名近くの方を食べさせ ていることになる。おいそれと、軽はずみな決断はできない。かといって、 じっとしていてはじり貧になる。進も地獄、退くも地獄のジレンマに陥り、結 局何もできないまま、後継者にバトンタッチをすることになる。 ●特に、3代、4代続いていると地元でもそこそこ名前の通った企業だ。一目 置かれていることもあるし、何より代表者の方が対世間で相当なポジションに 置かれている。そうなると、特に京都は狭い土地柄なので、いろいろと周囲に 友人、知人も多い。あんまり変なことをして失敗して、大損は仕方ないが、世 間体が非常に気になる。格好悪いとか、もう京都にいられないとかという事態 になると大変だ。なので、リスクはあまり取りたくない。いや、自分の代でリ スクを取った経験がない。だから、一歩足が出ない。 ●それに引き替え、自分が最近創業した若い企業の代表者は、当然失うものも あるが、果敢にリスクに挑戦する。そもそも、ベンチャーを立ち上げようと 思って、実行したことが大きなリスクなのだ。家族の反対もあっただろう。周 囲の忠告もあっただろう。先輩からのストップのアドバイスもあっただろう。 何より、一番心を砕くのは資金の心配だ。このおカネの苦労をしていないと、 本物の経営者ではない。代々承継して、楽な経営をされていると、このおカネ の苦労をしていない。ピンチになると、非常にマインドが揺れ動く。 <後継者として意識したのはいつ頃か> ●だいたい、ベンチャーを立ち上げたときは、自分がほとんど出資するか、 パートナー数名が出し合っているケースが多い。自分が全額出資したら、懐は 非常に厳しいが判断は分かりやすい。責任は全部自分だし、誰に気兼ねするこ ともない。思い通り、好きなようにやって、ダメならあっさり諦めることもで きる。割り切ることもできる。しかし、数名の友人、知人、パートナーと出し 合って起業した場合は、そうはいかない。やはり、何か大きなことを決めると きは、合議制的になる。意思決定に時間がかかる。責任の所在もあいまいにな る。 ●承継した場合は、もっと不明確になる。そもそも、後継者が企業に関わった ときには、会社が存在している。場合によっては、生まれた時からあった。幼 少の時代から当然のこととして育ってきた。特に何を意識することもなく、会 社があることが当たり前であり、何も違和感がなかった。そのビジネスの好 き、嫌いは別にして、生活の一部のようなものだった。父親や、祖父が毎日、 毎日会社で働いていた。朝、お父さんが会社へ出勤、または隣の建屋で仕事を していた。そんな風景が日常茶飯事だった。 ●その毎日が当たり前の風景に、自分がどう関わるのか、ということを自覚す る、自覚したのはいつ頃か。自分の天命、運命をしかと意識したのはいつか。 早ければ高校まで。場合によっては小学校の卒業のときの作文に書いている方 もいらっしゃる。しかし、たいていは企業の経営者になるというより、家業の 職業を継ぐというような意味合いが多い。お父さんが開業医なら、自分もお医 者さんになるとか、弁護士なら弁護士になるとか、自営業的な職業を継ぐとい う意識が大きい。企業の経営者を承継するというケースは少ない。 <業歴の永い企業ほど変化が必要> ●さて、代々承継されてきた企業は、どんなに順調でも10年単位と30年単位で 事業の変曲点を迎える。10年は小波だろう。10年経過すると、いろいろと社会 環境は変わる。その変化率の大きさにもよるが、かなり社会情勢は変化する。 しかし、天地が引っくり返るというような大きな変化は少ない。じわじわとボ ディーブローのように、変化が徐々に押し寄せる。そして、その代々受け継い でこられたビジネスモデルが、何となく合わなくなってくる。しかし、今日、 明日、会社が引っくり返ることはない。何とか食いつなげていけることは可能 だ。 ●しかし、30年単位でみるとこれは大きな変化が必ずある。今後10年、20年を 規制するくらいの大変化が起こっている。地殻変動が始まり、いつかそれが最 大の臨界点に達し、爆発する。炎上する。大規模変化が起こる。しかも、最近 ではそのスパン、ピッチが短い。30年で起こる大きな地殻変動が、10年単位く らいで発生する。また、次の10年で大きな変化が起こる。これを3回くらい繰 り返すと、もう年齢が高い経営者の方では対処するエネルギーがない。ガソリ ン切れになって、高速道路の路肩に止まって動けない。 ●よほど業歴の永い企業は、これから心して経営に当たらないといけない。30 年前に自分が承継した時代とは、今は大きく異なる環境だと自分にしっかり言 い聞かせないといけない。そうしないと、若いベンチャー企業の経営者なら腕 力と気力と知力で対応できるが、そうはいかない。慌てて充電している間に、 時間は待ってくれない。どんどん社会が変化して、いつか気が付けば置いてき ぼりになっている。そして、後ろを振り返れば、誰もいない。そうなってから アクションを起こしていたのでは、遅い。業歴の永い企業ほど、変化を遂げな いといけない。