**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第565回配信分2015年02月23日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その63 〜失敗の歴史をきちんと残し後継者に伝える〜 **************************************************** <はじめに> ●先日某雑誌の記事に、創業15年目のベンチャー企業で少々有名な企業だが、 社内のエース級の人材を登用して「社史」を編纂するプロジェクトが稼働して いるという。「社史」などというのは、50年、100年などの節目に大企業が立 派な書籍を編纂して、関係先に配るのが一般的だ。それが、創業設立15年の若 いベンチャー企業が、「社史」を編纂するという。非常に面白いなあと思っ て、その記事はことごとく、全部詳細に読破した。最後まで読んで分かったの だが、社史の編纂より会社の沿革、特に失敗した事業の歴史を残したかった。 ●色々な会社のホームページにも、会社の沿革というのがよく書いてある。何 年に創業し、何年に法人化し、何年に何があり、何年に社長が交代し、・・・ ・・というのが一般的だ。これでも十分な社史なのだが、普通は世間に発表し て問題ない出来事しか書いていない。某プロジェクトを立ち上げたが、2年で 頓挫したとか、新製品を作ったが全く売れずに大失敗だったとか、そういうこ とはまず書いていない。そういうマイナスの出来事やネガティブな情報は社内 の人しか知らない。いや、一部の人しか知らない。 ●特に新陳代謝の活発な会社で、人材の入れ替わりも激しいと、設立当初のこ とを知っている人が少なくなってくる。東京の下町の小さなアパートの一室で 立ち上がった会社が、15年したらとんでもないビルに入居し、立派なオフィス を構え、素晴らしい環境で働いている。当初からこうだったんだと錯覚する社 員も多いだろう。そういう苦労や、失敗プロジェクトをきちんと後世に残し て、そこから教訓を得て、次の世代の人たちに受け継いでいかないといけな い。事業承継ではないが、そういうことは非常に難しい。 <失敗の原因を正直に集める> ●特に失敗に終わったプロジェクトの総括は、非常に惨めなときがある。会議 もお通夜みたいで、じめじめして、誰が悪かったとか、あそこでミスがあった とか、いろいろと犯人探しが始まる。犯人探しをしているうちは、ことの本質 にはたどり着かない。その失敗がなぜ起こったのか。誰それが悪いのではな く、どうしてその間違った判断が下されたのか。そのときの意思決定の仕組み のどこに問題があったのか。この辺の事情は当事者でないと分からない。機微 な状況もあるだろうし、あとで振り返っても分からない。 ●分からないが、プロジェクトが失敗に終わったことは事実なのだ。そこで些 末な犯人探しをするより、ことの根本に遡るべきことが多い。表面的な、現象 的な原因より、根本的な原因を突き止めることは難しい。しかし、やらないと いけないのは、この根本的な原因なのだ。何か意思決定の仕組み、ルールに間 違いがあった。人選に間違いがあった。テーマの選定がおかしかった。スケ ジュールに無理があった。社内への周知が不十分で協力が得られなかった。な どなど、挙げればいろいろと出てくるはずだ。 ●なるべく蓋をしないことだ。自由に述べてもらって、トップは発言しないこ とだ。いや、会議にも出ない方がいいかもしれない。なってみればわかるが、 社長が会議に参加されていると、自由にものが言いにくい。なので、このよう な失敗プロジェクトの反省会、原因追及会などは参加されないほうがいい。そ して関係者はできる限り多く集める。意外とパート社員、アルバイト従業員が 正しく見ているケースも多い。正規の社員だけでやってしまうと、本当のとこ ろが見えない場合もある。なるべく衆知を結集する。 <同じ間違いが起こらない仕組みを作る> ●高い月謝を払ったのだから、たんまり果実をゲットしないといけない。もう 済んだことだが、会社に与えたマイナスの影響は大きい。在庫も積みあがっ た。倉庫がいっぱいになり、新たに場所を借りた。何より資金が大量に流出し た。優秀な人材を失った。会社全体の士気、モチベーションが一気に下がっ た。世間の評判、評価がガタ落ちになった。などなど、マイナスの影響は大き い。しかし、時間は元に戻せない。ならば、このマイナスの要因はどうして起 こったのか。なぜ、途中で止める、修正することができなかったのか。 ●プロジェクトの人選も問題だったのだろう。誰が人選の責任者だったのか。 どのような理由や背景で人選が行われたのか。そもそも、当初の計画に無理は なかったか。スケジュールにどれくらい余裕があったのか。仮に遅れた時に手 立てが、当初からあったのか。リスクマネジメントはどうなっていたのか。 色々と今後に向けて反省点は多いはずだ。それを正直に、包み隠さず全部吐き 出すのは勇気が要る。しかし、それをやらないと、ことの本質に迫らない。特 にプロジェクトの責任者がやらないといけない。 ●大事なことは、その出てきた色々な原因をしっかり反省し、今後に活かす仕 組みを考える。単に会議をして、議事録が回って終わりということでは、いけ ない。また、それを全社に周知することが大事だ。誰それが悪かったではな く、本当の原因、真因を全員が共有することが大事だ。ここで、部門間で隠し 事や臭いものに蓋的な行動があってはいけない。すべてをオープンにして、こ れは必ず後世に教訓になるという大事なことは、全社で徹底的に共有する。ま た、同じ間違い、過ちが起こらないようにする。 <トップが本気でやることが大事> ●社史を編纂すると決めた企業では、15年間で多くの失敗プロジェクトがあっ たようだ。そして、多くの社員が入替ったりしている。そうなると、早くきち んと総括をしておかないと、当時の状況をつぶさに知っている社員がいなくな る。関係者が揃わなくなる。議事録を読んでも、よく分からない。そうなる と、真因にたどり着かない。その企業のトップは15年と言う短い時間だが、そ の原因を共有することが大事だと考えた。そして社内に本気度を見せるため に、エース級の人材をはりつけた。それが大事だ。 ●口先だけではないトップの本気度を示す一番わかりやすい施策は人事だ。誰 それをプロジェクトのマネジャーに任命する。その人選を見ていると、トップ の本気度、重要度、緊急度、思い入れが分かる。これが一番社内に緊張感をも たらす、いい方法だ。そもそも、プロジェクトだから期限のある特定業務なの だ。期限が来て、結果が出れば解散する。そして、そのプロジェクトの成果 は、何らかの形で日常業務の中に形を変えて引き継がれる。そして、時間をか けて方法や手順、内容が見直され、修正される。 ●失敗プロジェクトは、最後までいかなかった。結果が想定以下というなら、 それは失敗の部類に入らないかもしれない。明らかに、何かが違っていた。間 違っていた。方向そのものが違っていた。もちろん、社会環境、経済情勢が変 わったこともある。為替レートが120円など、当初の想定をはるかに超える円 安だ。そういう外的な要因も大きい。すべての想定される原因、理由、背景を つぶさに集めて、分析して、今後に活かす。失敗から学ぶことは非常に多いし 大きい。あとは、トップのやる気を見せることだ。何事も、本気でないといけ ない。