**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第566回配信分2015年03月02日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その64 〜いい人材を採用するために幹部全員で価値観を共有する〜 **************************************************** <はじめに> ●とにかく中小企業には優秀な人材が乏しい。大企業は、そのネームバリュー を活かしていろいろな大学やルートから常に優秀、有能な人材を広く募集し、 ゲットしている。そのために人事部という部署があり、採用担当という特定業 務に従事するスタッフもいる。そこにまた優秀な人材を張り付けて、採用活動 を活発に行っている。採用の予算も豊富にかけて、時間や資金、人材を投資し ている。それくらいやっても、なかなか優秀な人材は取り合いになる。とにか く、企業は「人なり」なのだ。 ●そう思うと中小企業の人材採用は非常にお寒い。専属の担当者がいることは ほとんどない。たいていは、総務部などの担当責任者が兼務ししている。総務 部の責任者も人材採用の専門家ではない。たいていの中小企業では、総務部の 担当者は経理やその他の雑務を兼務している。人材採用の専従者などは皆無に 等しい。媒体を利用するとコストがかかるから、ハローワークなどに募集をし ているケースも多い。最近では色々な人材関係の企業が募集代行をすることも 多いが、まだ利用されているケースは少ない。 ●そして面接の方法なども、千差万別だ。履歴書を事前に送付してもらう方法 を採っているケースもあれば、履歴書持参でその場で面接をしているケースも ある。面接も、面接に慣れた幹部が対応すればいいが、必ずしもそうではない ケースが多い。日程の都合で、幹部が必ずしも揃うわけでもない。配属を想定 している部署の幹部が面接に立ち会わないケースもある。トップだけが面接し て、誰も同席していない場合もある。複数の判断が好ましいが、色々な事情か らそうはいかない場合も多い。とにかく、ないないづくしになる。 <中小企業の採用環境は厳しい> ●採用する事情も大きな要因のひとつだ。欠員が突然できた。突然ある社員が 家庭的な事情で退職のやむなきに至った。家族の看病、子供の事情、親戚の不 幸など、いろいろなことが起こる。その影響で、退職したくない社員が突然の 退職に至るケースもある。とにかく、中小企業は人材が少ない。大企業のよう に少々余剰を抱えていることは稀なので、一人欠員ができると影響が大きい。 すぐに欠員の補充をしないと、数名が毎日数時間の残業を余儀なくされる。数 日はいいが、数か月はもたない。 ●となると、応募してくれたら評価以前に、まず採用を前提に考えざるを得な い。慎重に評価し、複数で面接してなどと悠長なことを言っている場合ではな い緊急事態だったら、とにかくよく応募してくれたということで、まずいつか ら来れるかというのが問題になる。いや、もっと深刻なのは応募が全然ないと いうケースもある。採用条件がそんなに良くない場合、待遇が少々見劣りする 場合などは、応募者が非常に少ないことも多い。そうなると採用する側も焦る し、とにかく誰でもいいということにもなりかねない。 ●最近は売り手市場にだんだんなってきて、募集をしても応募者が極端に少な い場合も多い。土木建築、運輸関係などは非常に人手不足になっている。荷物 があってもトラックが動かないという事態にもなっている。流通で多い主婦の パート従業員も募集してもなかなか集まらない。少し時給の高い企業が近くに あると、そちらに人が集まる。介護の現場でもなかなか長続きしない。慣れた と思ったら、すぐに退職する人もある。とにかく、経営者の方の気持ちが休ま ることはない。かと言って採用だけに時間をかけることもできない。 <営業社員の募集も難しい> ●営業担当者の募集などは、もっと難しい。その企業の商品、サービスなどを 理解するのに相当な時間がかかる。以前の職場、企業で営業を担当していまし たと言っても、千差万別、全く違う営業スタイルのときも多い。同じ営業と 言っても、天と地ほどの違いがあることも多い。資格や経験年数でおおよその 力、実力が分かればいいが、そうは簡単にいかない。まして、履歴書や職務経 歴書はあくまでも紙に書いた資料だ。現場に一緒に同行したわけでもないし、 現場に立ち会ったわけでもない。本当のところは分からない。 ●営業でも開発的な営業か、ルートセールス的な営業か、営業所で見込み客に 販売する営業か、それぞれ全くやっていることは違う。開発的な営業は提案型 の営業になる。自社のサービス、商品の価値を相手の企業のニーズにフィット する形に変えて説明できないといけない。過去にそのような営業経験がない と、初めはなかなかうまくいかない。まず、自社の商品、サービスを完全に理 解しないとできないのだ。時間がかかるし、感性も必要だ。全員が完璧にでき ることは珍しい。それくらい難易度が高い。 ●店頭で来店した見込み客に商品を販売する営業もある。接客営業だ。これは 相当に豊富な商品知識が必要だ。客は好き勝手に質問するだろうが、それに都 度的確に答えないといけない。いくつかのメーカーの商品の相違、省エネ効 果、価格の差、訴求ポイントなど、幅広い商品知識が必要だ。ときに、現場で ディスカウント、値引きをまともに言われることもある。答えを迷っていると 気の短い客は、すぐに見切って他の店に流れてしまう。客とのコミュニケー ションの取り方が非常に難しい。 <採用に関して全社で意思統一をする> ●中小企業にとっていい人材が採用できたら、それは非常にラッキーだ。会社 のネームバリューもない、給与は安い、環境もあまり良くない。そんな中小企 業に優秀な中途採用の人材が来てくれれば、それはもう本当に幸運だと思わな いといけない。幸運は努力がないとやってこない。その努力は経営トップがい かに採用で汗をかくかにかかっている。少なくとも、従業員の人数が50名まで はトップが全責任をもって、採用にあたるべきだ。50名規模までは自らが自ら の責任で採用を仕切らないといけない。 ●50名を超えると、組織の形にしないといけない。それぞれの部署、部門の トップが直接面接に当たる。経営トップは最後の面接には立ち会ってもいい が、主導権は部門長に与える。それが部門長が一回り成長する大きな要因にな る。自分が判断して採用した人材なら、一生懸命育てようとするはずだ。50名 までは自分の責任で行い、一定の規模になったら逆に任すことをお薦めする。 人の採用ほど難しいものはないから、それを自らの判断する機会を与えること は、その人の成長に非常に大きな影響を与える。 ●大事なことは採用に関して、意思統一をしておくことだ。面接のポイント、 必ず問いかける質問、判断の基準。そのような重要な事柄を全員で意思統一し ておく。そして、最後の判断の物差しを全員で共有しておく。最後の基準は組 織によって異なるが、各自がばらばらではいけない。一番大事な組織の価値観 を、その人が共有できる素養があるか。それを判断する力が大事だ。何回も失 敗し、そこから組織に共通の価値観が意識できるようになる。それまではトッ プ自らが乗り出して、リーダーシップをとって採用に当たることだ。