**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第567回配信分2015年03月09日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その65 〜大塚家具のお家騒動に見る事業承継の難しさ〜 **************************************************** <はじめに> ●事業承継が弊社の生業のひとつの大きなテーマである筆者にとって、今回の 大塚家具の事業承継をめぐるごたごた騒動は、他山の石とは思えない。会社の 規模は違うが、中小企業ではサイズこそ異なれどこにでもある事例だろう。こ れほどマスコミを騒がし、メディアが連日報道することになると、ワイド ショーネタになるが、ここまでエスカレートしなくても、同じような事例、事 案、案件は、中小企業でも多く存在する。要するに、突き詰めれば経営方針の 違いであり、創業者と承継者の事業に対する方針の違いなのだ。 ●なので、どちらが正しいという性質のものではない。そもそもの考え方の相 違なのだ。ところが、その経営方針の違い、方針をめぐる意見の相違が、兄弟 の確執、親子の確執、かたやたたき上げの創業者とエリート長女との対立、兄 弟を巻き込んだ泥沼の抗争になった。マスコミネタとしてはどこもが飛びつく 非常に興味本位的には面白い戦いに発展してしまった。上場企業で、ここまで の泥沼の抗争は例がないだろう。非上場の中小企業、家内事業ではこのような 抗争はあった。しかし、大衆の面前でここまでのバトルになったのは珍しい。 ●かたや創業者であるだけに、事業に対する思い入れは尋常ではない。これが 2代目、3代目の社長だったら、ここまで固執することはなかっただろう。し かし、独特の経営スタイルを確立し、業界に風穴を開け、いち家具屋から身を 起こし、一代で上場企業に育て上げた。そのビジネスモデルは、当時の業界で は非常識だった。非常識だからこそ、偉大な成長が実現できた。その自負があ り、自信がある。時代や商品を診る眼には、満々の自信がある。ちょっと勉強 が出来て頭がいいだけで経営ができるか、そう顔が言っている。 <時代は確実に変わっている> ●しかし、時代は確実に変化しているのだ。創業者の現会長が事業を成長させ た昭和の時代、高度成長の時代には、まとまって大型の家具が良く売れた。ま とめて100万円クラスの購入が頻繁にあったという。結婚するときに、お嫁入 り道具として、和ダンス、洋ダンス、整理ダンス。そして、三面鏡などのその 他の豪華な家具。それが上級社会の当然の嫁入り道具だった。トラックに紅白 の大きなリボンをかけて、市内を家具屋のトラックが闊歩した。そんな時代 は、もう遠い昔のことだろう。 ●次の大きな変化は一戸建ての住宅着工戸数が減少した。新婚所帯は、ほとん どが借家、マンション、アパート暮らしが多い。そんなに広い家には住まない から、大きな家具は要らない。引っ越しも頻繁にあり、一度買った家具を永く 愛用するより、住居が変わる都度買い替える。そんな生活スタイルの変化と、 会員制で永い接客時間をかけて永年愛用してもらう家具を買い切り販売するビ ジネスモデルは、少々時代に合わなくなってきた。そこを長女の社長は明快に 見抜いて、新しいビジネスモデルに変えることを選んだ。 ●ところが、どっこい、創業会長はそれを許さない。自分がやってきた事業の 本質を否定されたと思わざるを得ない。そうなると、面子も何もない。時代は 変わっていると思えるが、全面的に長女社長のビジネスモデルに変える勇気は ない。そこで、長男、次男、女兄弟の旦那を巻き込んだ泥沼抗争に発展した。 迷惑なのは、社員、従業員、幹部だろう。踏絵と同じで、どちらかに組みしな いといけない。黒か、白かをはっきりせよと言われているのと同じだ。かく て、社員が分裂し、優秀な社員は愛想を尽かして、組織から離れる。 <変えるべきものはなにか> ●事業の経営を譲るなら、株式、株数も含めて全面的に譲らないといけない。 会長と言う総監督になったのに、ベンチのど真ん中に座ってサインを出す。横 に監督がいるのに、選手はどちらのサインで動くのか、面食らう。経営権を 譲ったら、株式も3分の2以上にして、本当の意思決定を任さないといけな い。上場企業だから、簡単に3分の2にするのは難しい。だったら、代表権を 任せた時点で、一歩退かないといけない。それを、まだ自分が中心にいるよう な組織、経営体制にしてあったことが、どうも腑に落ちない。 ●ある企業の社長が、娘を後継社長にして、経営を譲ったあとで言った言葉。 「手は離すが、眼は離さない」と。それが一番いいのだろう。直接経営に手を 下すことは混乱を招くだけだ。最近では、ジャパネットたかたの社長、会長の 交代があった。また、大塚家具と同業のニトリの社長と会長の交代もあった。 特に、ニトリの会長は創業者。後継の社長は同族ではない。その非同族の社長 に、創業の会長は「自分のしたことを全部否定していい」と申し渡したそう だ。そう簡単に言えるセリフではない。腹が座っている。 ●時代がどんどん変わるから、その変化に応じて、「変えるもの」、「決して 変えないもの」を明確にしないといけない。その中間に、「いま変えられない が本当は変えないといけないもの」というのがある。この選択を間違うと、 あっという間に事業がおかしくなる。いまや、時代の変化の速度が速いから、 いったん間違うと修正に時間がかかる。しかし、変えることを躊躇している と、たちまち事業は陳腐化する。そういう意味では、成岡は長女社長の肩を持 つわけではないが、若い人材に任せてみることが大事ではないだろうか。 <手は離すが眼は離さない> ●会長の父親はタンス職人だったそうだ。一代で上場企業の家具屋を作り上げ た。当初は、業界の異端児だったので、どのメーカーとも取引してもらえな かったという。それを努力、努力で今日のポジションを築き上げた。一方で は、長女は頭脳明晰。国立大学を出て、一流金融機関に勤務。バリバリのキャ リアウーマンの典型のようなキャリアだ。しかし、それが泥臭い経営ができる かとなると、それはやってみないと分からない。分からないと、任すか、任さ ないか、決めないといけない。中途半端が一番悪い。 ●最悪なのは、お客さんそっちのけの同族抗争になっていることだ。これで業 績が向上する、企業が成長するはずがない。株価はなぜか反転しているようだ が、恰好のマスコミネタになった企業は、世間から別の意味で注目の的になっ てしまった。それも、これも、ひとつには世代間抗争だ。それを解決するに は、一方が妥協する必要がある。お互いに、最後まで突っ張りあいだと、勝負 がつかない。気が付けば、同族だけが拳を上げて、争っている。顧客も、従業 員も、そっちのけになる。見ていて心苦しい。 ●ニトリ、イケアの台頭で、大塚家具の業績は右肩下がりになっている。こん な委任状闘争をやっていて、業績が上向くはずがない。ここは、年長者が一歩 譲って、若い感性に賭けてみる。それも、1年や2年では分からない。不確定 要素も多い。じっと我慢して3年から5年くらい業績の推移を見る必要がある だろう。「手は離すけど、眼は離さない」。これが一番賢い。それをするため には、お互いに理解し合うまで徹底的にコミュニケーションすること。意外と 中途半端に終わっている。親子だからと言う甘えがある。決して他山の石と思 わない。この事例から学ぶべきことは多い。