**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第568回配信分2015年03月16日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その66 〜可愛い子には旅をさせよ〜 **************************************************** <はじめに> ●今週も後継者に関連した話題を提供したい。昔からの格言に、「可愛い子に は旅をさせよ」というくだりがある。ここでの「可愛い子」とは子息の後継 者。「旅」とは他人の会社での修業期間である。とかく、親子の間での事業承 継は意外と難しい。父親社長は子息の承継者にどうしても甘くなる。社長と部 下という感覚より、父親と男の子息という関係が優先する。本人がそのように 意識していなくても、周囲から見るとどうしてもそのように映ってしまう。致 し方のない部分もあるが、どうしても親子の感情が先に立つ。 ●従って他人の会社なら遠慮しない。社長と赤の他人の従業員、社員と言う関 係で、それこそ真正面からぶつかり合うことが可能だ。できれば、父親社長と 無関係の企業に自力で就職されることが好ましい。そこで、最低5年間くらい はみっちり鍛えてもらうことだ。社会人とは、会社とは、仕事とは何か、何を するべきか、日常生活のあり方、勉強の方法、他人との付き合いの仕方、人間 関係の保ち方など、学ぶべきことは山ほどある。また、それをきちんと教えて くれるような企業を選ぶことが大事だ。 ●ここで最低5年間くらいは、我慢していろいろな経験を積み、いろいろなト ラブルに遭遇し、いろいろな失敗を経験し、いろいろな成功体験も積むこと だ。そして、数名の部下を面倒みるリーダーくらいのポジションには最低限い たほうがいい。この時期を2年くらいで、何も経験しないで転職したり辞めた りすると、おそらくほとんど何も学ばないまま、次の職種に就くことになる。 そうなると、この2年間はほとんど全く無意味という時間になる。貴重な若い 時期を無策に過ごしたことになり、非常にもったいない。 <次の5年間は規模の同じ会社で> ●できれば、次の5年間は承継する企業と同規模の中小企業に転職するのがい い。この規模感の一致と言うのは、非常に重要だ。父親の承継する企業が50名 なら同規模、20名なら20名前後の企業に5年間身を置くことだ。この規模感と 言うものは、数字では表せられない空気、風土、文化を生んでいる。20名くら いの企業なら、全員の顔と名前はすぐに一致する。事業所もひとつだろうし、 事務所も工場や商店の側にある。遠く離れた場所に、もうひとつの事業所があ るということは、まずない。誰が何をしているか、すぐにわかる。 ●この規模の企業では、物事の決定にルールはない。社長が決めたことが決定 事項だ。理不尽なことも、合理的なことも、合法的なことも、非合法のこと も、すべては社長の鶴の一声で決まる。また、それで決めないと何もことが進 まない。要するに、レベルの高い意思決定に参画しているのは、たった一人の 社長さんなのだ。その規模なら、それで十分会社として機能する。そうなる と、会議をしても何をしても、あまり関係ない。重要な意思決定が、びっくり するくらいのスピード感で決まることも多い。それはそれでいい。 ●会議をしても会議にならない。社長がお一人の独演会をされていることが多 い。幹部は全員黙って社長の演説を聞いている。名前は会議だが、社長の演説 会だ。多少進んでメンバーが報告をする会議もあるが、すぐに社長から横やり が入る。最後まで聞かない段階で、結論が出る。言い訳も、説明も、弁解も何 もない。自分の研ぎ澄まされた経験に裏打ちされた感性から、鋭い質問が発せ られる。そして、その議論と関係ないところで、重要な経営の判断が行われ、 意思決定が為される。そんな中小企業も多い。 <他人のメシを食べ人間学を学ぶ> ●大事なことは、そのような理不尽な決定が常時行われているということを、 実感、肌感覚で知っておくことだ。中小企業とはそういうものだと。意外と自 分の会社も同じかもしれない。それが従業員が50名くらいになると、俄然話し が変わってくる。50名になると、組織図があり、役割が明確になり、部署と言 うものが存在し、責任者がいる。この規模はこの規模で、何が起こるかという と、部門間での利害関係の調整に手間取る。それぞれの部門の責任者が、よか れと思って自分の部門の利益を優先する。そうなると、ばらばらになる。 ●それを後継者として修業にいった者が、どのように肌感覚で理解し、自分の ものにするか。自分が父親の企業に戻り、10年間くらい自分の会社で修業を積 んで、さあこれから承継し自分で会社を成長ささないといけないときに、この 同規模企業での修業経験は非常に役立つ。自分がトップに立った時に、下の人 間はどのように感じ、どのように判断し、どのように行動するのか。それを自 らが同じ立場に身を置いて、理不尽な組織の中でいかに感情をコントロール し、冷静に判断できるか。この時期しか経験できないことだ。 ●さて、5年間の同業で一段レベルの高い企業での経験と、5年間の業種は問 わないが同規模の企業での経験があると、非常にいろいろなことが良く分かる ようになる。これで10年間他人のメシを食ったことになる。この学校卒業後の 10年間の経験は、非常に大事なのだ。よって、後継者が事業承継を意識するの は、10代後半から20代前半が最も多いと聞く。学校の選択や、学部学科は極端 に言うと、どうでもいい。今後に役立つ学部学科であれば、なおいい。しか し、それはあまり大きな要素ではない。「人間学」を学ぶことだ。 <若いうちの苦労は買ってでもさす> ●可愛い子に旅をさせるとは、自社の中では味わえない苦労を、敢えてさすこ とだ。他人のメシを食う、禄をもらう(給料を支給されること)とはどのよう なことかを、実践で体験する。そして、戻ってきて10年間は、今度は外部で学 んだこと、経験したことから、自社を変革するためにどうするかの、ヒントを 探す。この際に、他人のメシを食ってきたことが、非常に役に立つはずだ。な かなか、自分の会社や自分の部署の中で、このように実践で鍛えてくれること が少ない。あと数年で団塊の世代が一斉に退職する年代に差し掛かる。 ●個人的なことだが、大学を出て10年間大企業の技術者として、工場の開発部 門、製造現場、技術管理部門など数か所の職場を転々とした。いずれも他社で は経験できない貴重な製造開発現場だった。中南米の提携先企業の工場へ技術 指導にも行った。欧州のレベルの高い提携先に研修に派遣されたり、国際会議 での発表もさせていただいた。いずれも、その年代、その時代でしかできな い、経験できない貴重な体験、経験だった。経営とは、もちろん知識も必要だ が、大半は自らの苦労した経験から学んでいる。 ●以上のような経験、体験が少ないまま自社へ招聘したのなら、その不足分を どこかでカバー、補わないといけない。難しいプロジェクトを任せて結果を出 さすか、経営が困難な子会社の責任者をさせて業績の立て直しをさすか、新会 社を設立させて独立して歩き出すようにするか。いずれにしても、経営のトッ プとしての役目を果たすには、いろいろな経験に基づく判断が必要だ。若いう ちの苦労は、買ってでもするべきだ。その時期、その年齢、その時代でしか経 験できない貴重なものがある。経営は経験から学ぶことの方が多いはずだ。