**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第569回配信分2015年03月23日発行 中小企業の経営者が日ごろから備えること その67 〜トップに一番必要なものは「先見性」〜 **************************************************** <はじめに> ●先週の水曜日にあるベンチャー企業のトップの方とご縁ができて、その会社 の3階の立派な食堂でランチをご馳走になった。ランチと言っても、社員食堂 でのランチであり、そんなに贅沢で立派なものではない。しかし、ここのラン チは地元の主婦の方が毎日、毎日手作りのお総菜を作って提供してくれてい る。決して外部の専門業者に丸投げしているわけではない。社員のほとんどの 方が、ここでお昼を食べる。どのテーブルでも活発なコミュニケーションが図 られている。眺望も絶景で、非常に素晴らしい。 ●多少立地が郊外なので、周囲に食べに行くには少々不便だ。お弁当を持参す る社員もあるだろうが、それよりこの立派な食堂でみんなとランチを囲む方 が、にぎやかでいい。ストレスの発散にもなる。食堂と言うより、立派なダイ ニングで、洒落たカタカナの名前もついている。食べている社員の皆さんを見 ていると、何やら誇らしげに感じる。上場して10年のベンチャー企業だが、単 なる食堂を福利厚生施設の一環だと思ってはいけない。これも、トップが決断 した素晴らしいマネジメントの一環だ。いまとなっては、非常に大きな効果を 挙げている。 ●その企業の社長と1時間ほど面談させていただいた。超多忙な中で、1時間 も付き合っていただいて、なおかつ素晴らしいダイニングでランチをご一緒し ていただいた。時間を割いていただき、非常に申し訳ないなと思いながら、当 方も非常に勉強になった。その会話の中で言われたトップに一番必要な資質、 それは「先見性」だと。確かに、トップになると実務をそうたくさん抱えるこ とは少ない。いっとき、そのように集中することはあるが、通常は未来、将来 のことを考えて活動、行動しているはずだ。緊急なことより、重要なことをし ているはずだ。 <先見性が最も重要> ●この重要なことの最たるものが「先を見通すこと」だ。つまり、会社の、組 織の今後の方向を決めることだ。方向付けをすることなのだ。それに必要なも のが「先見性」。つまり、世の中の動き、今後の社会の変化、動向。それらを 総合的に勘案して、未来、将来を見通す力だ。それが先見性なのだ。しかし、 これは非常に難しい。一昔前なら、おおよそ誰でも3年先、5年先くらいは見 通せた。詳細は分からなくても、おおよそこうなるだろうということは推測で きた。外れても、誤差の範囲内だった。しかし、いまは違う。 ●大きく世の中のトレンドが変わる。そして、社会の動きが、いわゆるグロー バル化している。以前は、日本のことはある程度日本の中で片付いた。なんと か、国内問題で処理できた。しかし、最近の社会の変化はそうではない。海外 の諸事情、特に東アジアや中近東、当然アメリカなどの動きに翻弄される。そ して、為替の問題。75円が2年間であっという間に120円になった。一説では 200円もおかしくないという状況だ。こんな暴風雨が吹き荒れると、小舟の中 小企業はひとたまりもない。 ●振り返って、成岡が社会人になってからも、そうだった。何か、改革がある きっかけは外圧からだった。昭和48年の秋のオイルショック。中東で戦争が起 こり、原油の輸入が止まって大騒動になった。100日間で備蓄が尽きるとの噂 がかけめぐり、トイレットペーパーがなくなった。そして、プラザ合意による 円高の流れ。日米繊維交渉。関税の一括引下げ。農産物の輸入解禁。中国、韓 国勢の台頭。ソウル五輪、北京五輪、上海万博と、30年くらい遅れて後進国の 追い上げが急激だった。そして国内では人口が減少し始めた。 <ことが表れる前に見抜く力> ●スポーツの勝負なら、すでに勝負あったというくらいのものだ。この20年 間、バブル崩壊から始まり、阪神淡路大震災、2000年のITバブル崩壊。そして リーマンショックと東日本大震災。そして急激な円安。経営を揺るがすのは、 常にこうした外部環境の激変なのだ。そこで「先見性」を持って、会社の将来 の方向付けをしないといけない。おそらく、会社でそういうことを考えている のは、ごくごく一部の人間だ。中小企業では社長以外では、ないかもしれな い。それくらい、みんなは今日の明日のことに奔走している。 ●「先見性」とは広辞苑によると、「ことが表れる前に見抜く力」または「先 を見通す力」とある。辞書的に言うとそれで正しいが、これがなかなか難し い。将来のことを考えるのに、媒介変数なるパーラーメーターが非常に多い。 昔は単純だったから、これとこれを見ていればよかったという時代が長かっ た。しかし、今は違う。あのマクドナルドの業績が凋落の一途をたどってい る。シャープが前段で書いたように債務超過の危機に陥っている。ホンダが かっての輝きを失っている。どの大企業も苦しい時代になっている。 ●中小企業はさらに深刻な企業が多い。100年近い業歴を誇っていても、その 100年と今後の30年は環境がまるで異なる。今後の30年を託された後継者は右 往左往するだけだ。そこで大事なのは現在の経営者が持っている「先見性」な のだ。先の時代を読む力。環境の変化を推測する力。技術の発展を予想する 力。マーケットの動きを想定する力。それらは全部仮説に過ぎない。しかし、 その仮説を考えるのがトップの一番大事な仕事だ。その「先見性」はどうやっ て養うことができるのだろうか。 <自分自身で考える> ●確実に言えることは、自分で意識するしかないということだ。まず、「先見 性」を備えることが自分自身に課された最大の責務、ミッションと自覚するこ とだ。そこから、すべては始まる。誰かが教えてくれるだろう、講演会を聞き に行けばわかるだろう、書籍を買って読めば書いてあるだろう、などというの は飛んでもない誤解だ。そんなことからは、何も核心は分からない。ヒントは もらえても、ことの本質は自分が考えるしかない。自分で勉強して、書物や雑 誌を買って、いろいろな人に会って、山ほど情報を仕入れても、実はよく分か らない。 ●毎日迷って考える。移動中も考えている。成岡は主義として自分が運転して 移動しない。運転中は他のことを考えられない。時間がもったいない。それな ら電車やバスで独りで移動して考えるほうがいい。いつも考えていると、何か のきっかけ、拍子にぱっと浮かぶものだ。いつも準備をしていないと浮かばな い。いつも考えているからニュートンはリンゴが落ちた時に、それを見てなぜ 月は落ちないのだろうかと考えたという。そこから万有引力の法則を導き出し た。それくらい突き詰めて考えることだ。 ●誰もそれはやってくれない。自分でやるしかない。会議で討論、議論しても 出てこない。目先のことは会議でもいいが、未来の将来の方向はトップが考え るしかない。あるいは、自分の周囲にそういうことに助言をくれたり、アドバ イスをしてくれたり、同じレベルで悩んでいる人と付き合うことだ。事業はい まが好調でも、来年それが続く保証は何もない。400年続いた企業でも、明日 あるかは保証の限りではない。その危機感が自分を突き動かす。まずは危機感 がないといけない。好調に酔ってはいけない。